最低限に落とした室内等よりもそれは明るく光った。
ブゥ…ブゥ…ブゥ…
その音が室内に低く響く。
ブゥ…ブゥ…ブゥ…
学会に参加し、久々に会った大学の頃の学友と呑み明かして
ホテルの部屋に戻った時には限界を超え、
崩れ落ちるようにベットに倒れこんだのはつい先ほどだった。
電話がなっているのはわかるが、
できればこのまま寝てしまいたくて胸元に引き寄せた。
が、いったん止まったそれはまた震え始めた。
とりあえずそれを耳にあてる。
『ん…もしもし…』
「ふぇ~…ひっく…ぃやぁ~…ひっく…」
「出た?ほら貸してごらん」
…え?ん?
耳に当てたiphoneからキュヒョンの声が聞こえた。
『キュ、キュヒョン?』
何事かと思って半身を起こし名を呼んだ。
受話器の向こうが騒がしい。
…鳴き声?
思わず手に持ったiphoneを眺めた。
…キュヒョン?
一瞬キュヒョンが見えたかと思ったら
いきなり画面全体に粘膜性の液体が広がった。
『うわっ!な、何?』
「ほら、貸してごらん!離さないと見えないって。」
キュヒョンの声とともに画面の視野がだんだんと広がった。
「ほら。離れて話しても大丈夫なんだよ。いた?」
「あっぱい…ひっく…い、い…ひっく…た。」
「ね。見えただろ?」
手に持った画面を茫然と見つめていると、
キュヒョンの他に明らかにバグジーではない何かが映っていた。
その何かはよだれと鼻水と涙を目にいっぱい貯めて
こちらを指差しながらキュヒョンを見上げていた。
…え?ちび?
不意にその何かが画面越しに俺を見つめた。
『ち、ちび?!』
「ヒョン、ごめん。時差もあるし、もう寝てるだろうと思ってたんだけど
どうしてもちびが…あっぱ、あっぱって…」
『あ、いや、それは大丈…夫…え?本当にちびなのか?』
「そうだよ。ヒョンが出かけてからずっとアッパアッパって…」
『泣いてるのか?』
「うん。ねぇ。ヒョンPCのカメラ起動してくれない?」
『え?あっ、わかったちょっと待って。』
俺はiphoneを首と肩で抑さえ、ベットサイドのチェストの上から
PCを引き寄せwebカメラを起動した。
まず映し出されたのは画面いっぱいに広がったちびの唇だった。
『あの…ちびは何をやってるんだ?』
「あぁ。ヒョンにキスしようとして画面に張り付いてる。」
『キス?』
「そうだよ。ヒョン、帰ってくると必ずだっこしてキスするから」
『あぁ~えっと…ちび~みえるかぁ~アッパだぞ~』
そういって画面の向こうのちびに手を振って見せた。
俺はどうやらとことん甘い父親らしい。
「ずーっとアッパない、アッパないって…
泣きながら探して歩くし…昨日と一昨日は我慢させたけど
今日はさすがにかわいそうで…」
キュヒョンのそんな話に胸が熱くなる。
そしてさっきからキュヒョンの声にかぶせて
べそをかきながらちびが何やらずっと言ってるのだが…
パソコンの画面を…おそらく映し出されている俺の顔に
触れようとしているのだろうが、カメラの前で小さな手が
行ったり来たりしている。
「ぺったん、なーい…ひっく…まぐっとぺったんなーい…ひひっく…」
そういいながらしきりにおでこを小さな手でペちぺち叩いている姿が見えた。
『キュヒョン。ちびは何を…』
「あのね。今日、チャンミンとユノさんと俺とちびで出かけたんだよ。」
『へ~…』
…なんだよ。いつの間に
「で、ほら、俺、でかけるといつもヒョンにマグネット買うじゃない。
今日もちびと選んで買ってきたんだよ。」
『おっ。それはありがたい。』
昔からキュヒョンが買ってきてくれるのが楽しみで
心底喜んでいる俺を見て”安上がりな男”だって
ヒョクやチャンミンによくからかわれる。
甘いなぁ~甘い。
値段がどうのこうのじゃない。
マグネットを選んでる間、
”キュヒョンがずっと俺の事だけを思って選んでくれている”
そこがポイントなんだぞ。
俺を思い出しながら
あれこれ選んでいるキュヒョンを想像するだけで
値段に変えられない価値があるってもんなんだぞ。
思わず顔がにやける。
「ねぇ聞いてる?」
『え?あぁ、聞いてるよ。』
「でね、ヒョン、自分の顔にくっつけて見せるでしょ?
ペッターン、ペッターンって顔にくっつけて見せたりして。」
『あぁ。うんうん。』
「多分ちび、それをマネしてるんだけど、
”まぐっとぺったんない”~っていってずっと泣いてる。」
画面にはちびが持つと大きく見えるマグネットを
おでこにあてては落とし、あてては落とし…を
繰り返してるちびが映っている。
しゃくりあげながら繰り返すちびがとてつもなく愛おしい。
「キュヒョン。ちびの耳に電話あてて。」
俺がピローを抱えてベットに横たわりながらそう言った。
「え?あぁ…うん。」
『もしもし。アッパだよ…どうした?いい子で待ってるって約束だろ…』
俺は優しくちびに話しかけた。
ちびは何か…よく聞き取れないけど何か一生懸命返事をする。
そして俺はちびの耳元で歌を歌ってやった。
電話の向こうでキュヒョンも一緒に歌っている声が聞こえる。
その声がとても心地よく俺の心にも優しく響いた。
ブゥ…ブゥ…ブゥ…
…え?何?!
パチリと目が開いた。
そしてずっと呼び続けている電話にでた。
『も、もしもし…』
「あっ、ヒョン?やっと出た。」
『キュ、キュヒョン?え?何?あれ?』
「何?何ってなんだよ。起こしてくれっていうから起こしたのに。」
『えっと…』
俺は昨日の夜の記憶を必死でたどった。
「ヒョン。大丈夫?寝ぼけてるの?」
『いや。あの。その…ちびに…ちびに歌ってやってたんだが…』
「え?誰か一緒なの?歌って…誰かと一緒なの?」
『え?!いや、違う違う違う。一人だよ。ひとり。』
「ふーん。」
だんだんクリアになってきた頭でなんとか状況を把握しよとした。
…ちびは?
『なぁ、昨日電話くれたよな。で、ちびがまぐっとまぐっとって…」
「……」
『で、俺、子守唄歌ってやって…』
「…へ~誰に歌ってやったって?…そにいるの?」
『な、何?いないよ誰もいないに決まってるじゃないか』
あぁ…また行ってしまったんだ…
”おーいキュヒョン行くぞー”
遠くでキュヒョンを呼ぶ声が聞こえた。
『だれかと一緒なのか?』
「そうだよ。チャンミンとユノさんと俺と…」
『と?』
ここまでは一緒だ…
「3人で出かけてるんだよ。」
…やっぱり
『そうか…よかったな。』
「いや、良くない。ヒョンが誰に子守唄歌ってやったのか
ヒョン。帰ってきたら…わかってるよね?」
『いや、だから…違うんだって。
あのな、昨日、そっちからかけてきたんだぞ」
「違うよ。ベロンベロンになりながらそっちがかけてきたんだよ。」
”キュヒョーン!”
またキュヒョンを呼ぶ声がした。
「もう行かなくちゃ。ヒョン。帰ってきたら…
お仕置きね!」
『え?』
「もう切るね。じゃ。頑張!」
『あっ、いや、キュヒョン、ちびは…ちびの事が…」
電話が切れてしまって俺の最後の声が聞こえてなかっただろう。
ちび…
俺はベットから抜け出し、首をぐるりとひと回しして
腰に手を当て大きなため息を着いた。
そしてバスルームへ向かった。
今日も忙しい一日になる。
…ちび。またきてくれるよな。
ジクリと目頭が熱くなった。
俺はそれを振り払うかのように
シャワーのコックを捻るとちょっと熱めのお湯が
勢いよくふきだし、頭から全身を濡らした。
”あっぱ、あっぱ”
ちびの呼ぶ声が聞こえたような気がした。
またいつか…
いつでも来ておくれ。
ちび。
愛してるよ。
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お留守番組に愛をこめて…
そしてみなさんにも。
いつもありがとうございます。
ペコリ(o_ _)o))
っつか、雨、
つーめーたーいー😭