「あっ、来た来た。」
ドンヘがそう言うとドアから外へ出た。
「え?これですか?」
サイレンの音がだんだん近づいてくるのがわかったが
いつの救急車の音とは違う事に気づき、
ウニョクが首をかしげた。
「そうだよ。これだよ」
そうドンヘ笑う。
サイレンの音がもうそこまで来ていた。
すると赤色灯を回した白バイが現れた。
なに事?と考える間もなく、エスカレードが現れて
ERの入り口で止まった。
「ご苦労さま。ヒョク、リョウク、後ろだ!」
そう言って白バイの警官に声を掛け、車の後ろへ回るよう
ドンヘ指示した。
救急車での搬送じゃない状態に
一瞬ウニョクの思考がとまったが
ドンヘの声にストレッチャーを押しながら走り出した。
「え?ダニエルさん?」
車の横を通った時、運転席のダニエルが目に入った。
「え?え?え?え?え?なに?なに?なに?」
ウニョクは信じられないものを見たかのように
振り向き振り向き後部へ回った。
ドンヘがバックドアを開けると『さぁ、猶予はないぞ!』
という言葉と同時にフォ―マルなスーツを着た人間が飛び出してきた。
「シ、シウォン先生?」
余りにもびっくりしたウニョクの声がひっくり返った。
『やぁ、ウニョク!久しぶりだな。早くストレッチャーを。』
手招きしながらシウォンはウニョクを呼んだ。
「あ~ギュギュ!!」
シウォンと患者に続いて降りてきたキュヒョンを見て
リョウクが声を上げた。
「ども。えっと…久しぶりだね。」
患者をストレッチャーに乗せながら2~3言葉を交わした。
「久しぶりとか言ってんじねぇよ!」
「おどかさないでよぉ~」
ウニョクとリョウクの声がワントーン上がった。
「とにかくあとで。今はこれ。」
キュヒョンがそう言いながら患者をストレッチャーに固定した。
『リョウク!この後で奥さんと娘さんが多分くるだろう。
対応を頼む。突然倒れたんで多分動揺してると思う。
特に娘さんには配慮してくれ…あぁダメだ。ストップストップ。
ここで挿管する。』
シウォンの指示でみんなが一斉に足を止めた。
「ウニョク挿管セット!」
「はい、ドンへ先生これ。」
「シウォンやるか?」
『いや、ドンヘ頼む。』
「あぁ…と…ととと…あとちょっ…くっそ…よし入った!
キュヒョンバックして。」
『よし、行くぞ。』
シウォンの指示でみんながまた動き出すと
ヘルメットを小脇に抱えたミノが声をかけた。
「キュヒョンさん!俺、戻りますから。」
「あっ、ミノ!ありがとう本当に助かった。後で連絡するから。」
ミノはバイクに跨り、ヘルメットをかぶると軽く敬礼して走り去った。
「え?ミノ?」
「そうだよヒョク。ミノが先導してくれたからはやく着いた。」
キュヒョンはそう言いながらミノが走り去るのを見送った。
『ダニエル!助かった。』
「あぁ。礼ならいいよ。」
そう言いながら手を小さく振るダニエルをその場に残し、
ストレッチャーを押しながらERへの中へと急いだ。
こうしてシウォンとキュヒョンの二人だけの刻(とき)は
終わりをつげたのだった。
☆
そのままヒョンとドンヘ先生はOPE室に入って行った。
リョウクは駆けつけた家族の対応をしている。
家族への対応はリョウクがソツなくやってくれているので
ヒョクと俺は片づけをしていた。
「なぁ、いったい何がどうなってるんだよ。大体お前らチャリティーに…」
「そうだよ。そこから来た。」
「って言うか、なんで救急車じゃないんだ?あれ、ダニエルさんの車か?
それに、挙句の果てにミノってなんだよ。なんであいつが…」
ヒョクが半ばあきれながら一気にたたみかけてくる。
「そうだよ~僕もすっごい気になるんだけど…
体大丈夫なの?まぁ、先生がちゃんとケアしてくれてたみたいだけど。
キュヒョン。太ったよね。」
リョウクがそう言って俺のお腹を指でつついた。
…めんどくさい
慣れないパーティーに参加したせいと、
ここまでの道中のこともあるので疲れてるせいだと思うけど、
正直言ってめんどくさかった。
けどヒョクの興味もわかるし、心配そうに見ている
リョウクの気持ちもわかるのでこれまでの経緯をかいつまんで話した。
「へ~、なんか聞いてるだけでも疲れる話だな。」
ヒョクが口笛を吹きながら笑う。
「うん。疲れた。」
「なんかドラマみたい~」
リョウクがケタケタと笑う。
…笑い事じゃないんですけど?
俺はおせっかいな2人に呆れながらにやりと笑った。
「それよりお前そのスーツ…汚れちゃったな。」
リョウクが指でツンと俺の肩を押した。
「ん?あぁ…別にかまわない。」
俺は体をはたきながら答えた。
「あっ、そうだ。それよりおまえさぁ、ちょっとヤバいぞ。」
「ヤバいって…何が…」
「そうなんだよ…ほらこれ…」
リョウクがスマホを差し出すので手に取り見てみた。
「へ~、さっきの事なのにもう上がってるんだ。
すごいね。マスコミって。」
「何のんきなこと言ってるんだよ!これおまえだろ?
この画像でわかるい人はそうそういないだろうけど、
おまえだろ?」
「あぁ、俺みたいだね。」
「ちょっとギュギュ!どうするの?きっとそのうち誰かが…」
「いやぁ、どうするって言われても…
ユジンが絶対来いって言うから行っただけだし。
知ってるだろ?俺がこういうの嫌いなの。」
「そりゃそうだけど、なんでこうなるんだ?お前。
ってか、シウォン先生もダニエルさんも自分たちの事
自覚ないのか?どんだけ世間は気にしてるのかって。」
「あぁ~…どうなんだろ…なんかあの二人似てるから…
どっちも気にしてないな…確かに…」
「似てる?似てるのか?あの二人。」
「う~ん。なんて言うのか、こう、ちょっとした仕草とか
雰囲気とか醸し出すものが…うん。そうなんだよ。似てるんだよ…」
「へ~じゃぁ、もしかしてダニエルさんに先にあってたら
ダニエルさん好きになってたかもってこと?」
「おい、リョウクなんだ、その極論。何バカなこと…」
「いや、俺ダニエルさん好きだよ。」
「え?」
「え?」
「だって嫌いになる余地がない。なんだかんだ言って
ヒョンの事すごく気にかけてて、ひょうひょうとしてるけど
実は情に厚いっていうか…いい人だし。」
「おいおいおい、大丈夫か?変な気起こすなよ?」
「そうだよ~だめだからねぇ~」
「あぁ…いや、それはもちろん…何言ってんだよ。ったく…」
と照れを隠すために頭を掻いて見せた。
「それにしてもこの記事…これ以上大きくならないといいよね。」
リョウクが小さくため息をつく。
「あぁ、大丈夫だろ?世の中のやつらそんな暇じゃないって」
「だよねぇ~」
「うんうん」
「そうだよ。誰が俺の事なんか気にするかって。」
俺たちはそんなことを言いながら笑いあった。
「それよりさぁ、ミノにも驚いたぞ。」
ウニョクが思い出したかのようにいう。
「あぁ、俺も驚いたもん。スピード超過で止められたんだけど、
まさかミノだったなんて…警察官だって聞いてたど本当だった。」
「あいつキュヒョンのファンだからな。」
「何それ。」
「いや、リョウクはあったことないともうけど、
ゲーム仲間のキュヒョン組の一人なんだよ。」
「へ~。ふ~ん…かっこよかったよね。彼。」
「なんだよ。そのふ~んって…」
「いや、かっこよかったから、なんかなぁ~って」
「あぁ~…。なぁ、キュヒョン。先生、ミノのこと知ってるのか。」
「知らないはずだけど…なんで?」
「いや、まぁ、伏兵現るってところで、先生も気休まらないだろうな~って
ちょっと思ってさ。」
「伏兵?なんだよそれ。」
「あぁ、まぁ、いいからいいから。こっちの話しだ。」
ウニョクはリョウクと呆れた顔で見つめ合った。
…なんだよふたりして、久しぶりだっていうのに
そうだった。
とても久しぶり(と言ってもたかだか10日あまりだが)に
二人に会ったのに何の違和感もなく、昨日も一緒だったという錯覚に陥る。
たわいもない?事を話せてうれしかった。
「あぁ~!!!」
突然リョウクが大声を上げた。
「うわっ!なんだよ。」
「え?何?!」
「だってこれ!!みて!!」
びっくりしている俺たちにリョウクスマホの画面を向け差し出す。
「これ…誰。」
俺は画面を指さした。
「え?バカか…終わったな…」
「これどうなっちゃうのぉ???」
俺たちが見つめる画面に表示されていたのは
ダニエルさんが俺の手を取り敬意のキスをしている
その場面と、ちょっと驚きながらはにかむ
(俺は絶対そんなことないって思ってるけど)
誰もが俺だと分かるそんなツーショットの画像だった。
「もうこれでキュヒョンだってみんなわかっちゃったね」
「同伴のこの彼はだれなんだって…
うわぁ~すごい憶測とんでんなぁ~」
「ほんとだぁ。あっ、これ見て!」
「何?あっ、お前、すごいぞ!噂ってこぇ~なぁ。」
「見てみてギュギュッたらNo.1ホストじゃないかって!」
「お前すごいなぁ~。注目の的だぞ~」
目の前ではしゃぐ2人に俺は軽い眩暈を覚えた。
そして、これがちょっとした騒動を引き起こすとは
思いもせず、のんきに構えていた俺たちだった。
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サクっといかないと進まない
ので、あまり深くかんがえず
サラッとです…