『ダニエル!もう少し早く走れないのか?!』
ヒョンがバックシートから運転席のダニエルさんにどなった。
「救急車じゃないんだ。無茶いうな!」
「ヒョン!意識レべル落ちてます。」
ダニエルさんの言うことはもっともだったが
このままだとこの人はきっと持たない。
『クソッ!』
ヒョンが窓ガラスをこぶしで殴った。
医療器具も何もない状態では
とにかく心臓マッサージをくりかえすしかない。
その手を緩めるとすぐに心拍が落ちてします。
『くっそ…戻ってこい。』
俺はヒョンと交代して心マをくりかえした。
「この分だと後15分はかかる。」
ダニエルさんが運転席からそう怒鳴った。
『ダメだ、もたない。』
「おいおい、俺の車で人が死ぬのはごめんだぞ。
何とかしろよ。シウォン。お前何の為に俺の代わりに医者になった!」
ダニエルさんがまた怒鳴った。
…え?ダニエルさんの代わり?
俺は無言でヒョンを見た。
『うるさい。違うって言ってるだろ…くっそ…』
ヒョンは舌打ちをしながら拳で患者の胸を数回殴った。
「ヒョン。変わるよ。」
『あぁ、頼む』
実際もう何分こうしてるんだろう。
大の男二人がバテる寸前だ。
『あぁ、ドンヘ。非常に危ない。いや、救急車じゃない。
あぁ、心マでつないでる。うん。もつかどうか…』
ヒョンが脈をとり、目を開き瞳孔をチェックする。
『多分そうだ。すぐオペに入るから空けておいてくれ。
あぁ。それでいい。頼む。』
ヒョンは手短にドンヘ先生に電話で準備を頼んでいた。
ERについたらそのままOPEに入ってしまう。
ウゥ~
サイレンの音が聞こえたと思ったら
車の速度が急にスローダウンしてすぐに停車してしまった。
『どうした!なんで止まるんだ!』
ヒョンが慌てて怒鳴る。
「白バイだ。止まらないわけには行かない。」
ダニエルが舌打ちをして運転席の窓を開けた。
「こんばんは。」
白バイの警官が覗き込みながら声を掛けてきた。
「ちょっと、元気に走り過ぎじゃないですか?」
そう言ってライセンスをと、身文書の提示を求めてきた。
「すみませんちょっと急病人を運んでまして…」
ダニエルさんがライセンスを提示しながら後ろを指さした。
「急病人?この車で?」
ダニエルと警官のやり取りが耳に入って来た。
…あれ?この声は…もしかして
「それは後ろのドクターに聞いてくれ。」
ダニエルさんが落ち着いた声で答えた。
「ドクター?ドクターが同乗してるんですか?」
その警官はサングラスを外し中を覗き込もうとちょっと身を掲げた。
…やっぱり。やっぱりそうだ。
そのシルエットに見覚えがあった。
「ミノ!ミノか?!」
俺は思わず叫んだ。
「え?キュヒョンさん?キュヒョンさんですか?」
突然自分の名を呼ばれた警官は驚いた声を上げた。
俺はバックシートから顔を覗かせ自分だとアピールした。
「そうだ。ミノ頼む。病院まで今すぐ行かないと。」
俺は必死に心マをするヒョンを指さし怒鳴った。
その警官は”わかった!”とだけ言ってサングラスを掛け
「誘導します。ついてきてください。」
とダニエルさんに言うと白バイに跨りサイレンをならし
俺たちの車の誘導を始めた。
『あぁ、もう着く。とにかく準備を頼む。』
白バイに誘導されたおかげで、
それからの道中はとてもスムーズでサイレントともに
あっと言う間に病院敷地内へと入っていった。
☆
「ねぇねぇねぇ!これ見て!!」
リョウクが少し前を歩くウニョクを呼んだ。
「何?どうした?」
ウニョクはリョウクが見つめる手元を覗き込んだ。
「え?これシウォン先生じゃん。あっ、ダニエルさん。なにこれ。」
「今日のトップニュースに上がってきたんだよ。さっき。」
「へぇ~。先生なにやってんだこれ。」
「チャリティーだって。かなり大きな。」
「へぇ~。謹慎中なのにそんなのに出てていいのか?」
「しらな~い。」
リョウクが興味なさそうに答えた。
「え?ちょっとちょっと、ねぇ、ヒョク!」
「なんだリョウク。なに慌ててんだ?」
リョウクがまん丸な目で画面を見つめていた。
「これこれ。これ見てよ!」
「ん?なに?……え?これ、キュヒョンじゃ…
何やってんだ、こいつまで。」
最新の画像にはシウォンとダニエルとその傍らにたたずむ
キュヒョンが写っていた。
顔は写っていなかったが、2人には一目でそれがキュヒョンだとわかった。
「キュヒョンの事一体誰なんだって騒がれてるみたい。」
「なんだそれ。どういうこと?」
「なんか、今話題の青年実業家のダニエルさんと
この国、屈指の医者であり実業家でもある先生たちが
一緒にいるってことが、まずスクープなんだって~
で、そんな二人と一緒にいるこの青年が誰なんだって
ネット上で話題になってるみたい!」
「へぇ~」
「あっ、ほらこっちの画像なんてダニエルさんが
エスコートしてるかのようで、ただ者じゃないだろうって…」
「あぁ~、まぁ、確かにただ者じゃないっつったらそうだし…
間違っちゃいないよな…。」
「そりゃそうだけど、それみんな知らないし。」
「あぁ。だよな。この病院でも知ってるヤツいないしな。」
「大丈夫かなぁ…なんか変なことなんないといいけど…」
「しばらく穏やかだったのにな…
なんでこの人たちってこういつもいつも…」
ウニョクが意味深いため息をついた。
「え?え?え? 大変!ダニエルさんの愛人じゃないかって!」
「へぇ~ダニエルさん愛人なんているの?そもそも結婚してたっけ?」
「違う、違う!キュヒョンがダニエルさんの恋人じゃないかって。」
「はぁ?なんだそれ、誰がそんなこと言ってんだ?」
「なんかどっかのゴシップ紙のニュース。
ダニエルさん元々そういう噂あるから…
多分勝手にそう書いてるだけだろうけど…」
「あぁ~やだやだ…まためんどくさいことに…」
「しかもシウォン先生の事もあれやこれや…」
「この不詳の若者とシウォン先生も何かあるんじゃないかって…」
「いや、それは…正解だな。」
「褒めてどうすんのさ!」
「あ、いや、つい…」
「これ、どこまで広がるかなぁ…」
「いや、すぐ消えるだろ。そんな根も葉もないこと…」
「そうかなぁ…キュヒョン大丈夫かなぁ…」
「てか、あの人たちはバカなのか?
先生もダニエルさんも自分たちがどんだけ注目されてるかって
自覚あんのか?」
「そんなこと気にしないから大物になれるの!
ヒョクじゃムリだよねぇ~」
「リョウク…お前なぁ…」
ウニョクがリョウクの首根っこを押さえて
”こいつ~”と言いながら揺らした。
リョウクの笑いが止まらない。
「おい!ウニョク!リョウク!」
急に名前を呼ばれて振り返るとドンヘが手招きをしていた。
「なんですか先生。」
ふたりはドンヘの方へ駆け寄った。
「今から急患が来る。アテンド頼む。」
「救急車ですか?症状は?トリアージは?」
「着いたらそのままOPE室直行になる。
点滴立てて採血して、モニターつけて…
すべてを移動しながら並行でやる。」
「え?そんな重篤?」
「あぁ。放射線チームもスタンバイしてる。」
「へぇ~」
「まぁ、情報としてはそこまでだ。
リョウクは記録頼む。」
「は~い。」
遠くからサイレンの音が聞こえてきた。
「来たら驚くぞお前たち。」
「え?」
「ん?」
聞き返すとドンヘはヘラ~っと笑ってウィンクをした。
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えっと…
ミノ登場。
ギュライン集結中。