…キュヒョン
…キュヒョン
ヒョンが呼んでる…
…シウォン
…シウォン
その声の向こうで誰かがヒョンのことを呼んでる。
あぁ…ダニエルさん…
それが誰なのかすぐわかった
そんな自分にクツクツと笑った。
俺のヒョンだぞ…
気安く呼ばないでよ。
そう言いたかったけどヒョンがまた俺を呼ぶから
ちょっとうれしくて気にしないことにした。
”気にしないことにした”って言うのは
本当は気になってるって証拠で
本当に気にしてなければそんな風には思わない。
だから、本当は気になってるってことで…
これって妬いてるってこと?
この俺が?
そんなこと思ってたらまたおかしくなって
笑いがこみあげてきてクツクツと笑った。
『おい、キュヒョン!!』
ヒョンの大きな呼び声がして大きく体が揺れた。
…え?なに?
俺はガバッ!と体を起こし、バクバクする心臓を押さえながら
何が起こったのかを理解しようとした。
『キュヒョン…ほら、ちゃんと起きて…』
その声がさっきよりもっ鮮明に聞こえたので
目をあけると目の前にギロリと俺を見つめる
ヒョンの顔がドアップで迫ってきていた。
「う、うぁ…」
俺はソファーから思わずズリ落ちた。
『おい、大丈夫か?』
「うん、あ、いや、その…大丈夫。」
俺はソファーに座りなおした。
『起こしてごめん。』
ヒョンは謝りながら俺の横にドサッと腰を下ろした。
「お疲れ…長かったね…」
『ん…』
「びっくりしたね。」
『ん…』
「よくなる?」
『ん…』
ヒョンは疲れ切っているようで
俺の問いに相槌を打つのが精いっぱいみたい。
「ヒョン…来て…」
俺はヒョンに向かって胸をパンパンと叩き、
両手を広げて”さぁ、おいで…”とおどけて見せた。
ヒョンは”ん…”と言って頭をコテっと俺の胸につけると
そのままずるずるずる…と膝に上に崩れ落ち
俺の腰に手を回ししっかりと抱きついてきた。
でも、いつものように力強い腕ではなかった。
俺ヒョンの髪に指を絡め静かにすいてやった。
ヒョンが愛おしかった。
何度も何度も優しく髪をすく。
どんどんその思いが胸の奥で大きくなってきて苦しくなってきた。
ヒョンを愛してる。
心の底から愛してる。
俺に体を預けるヒョンの規則正しくなる寝息ですら愛おしい。
でも俺はそれを伝えるのがどうも苦手だ。
ダニエルさんのこと…
気にならないってそんなのウソだ。
気にならないわけがない…
でも、こうしているときのヒョンは紛れもなく俺のヒョンで…
…お前何の為に俺の代わりに医者になった!
ダニエルさんは確かにそう言った。
ダニエルさんの代わりに医者?
「ヒョン…こんなに頑張ってるの…ダニエルさんの為なの?」
俺はヒョンの寝顔に向かってそう聞いたけど
もちろんその声はヒョンには届いていなかった。
☆
…ん…あれ…えっと…
気が付いたら俺はベットの中だった。
そして俺の膝の上で寝息を立てていたヒョンがいなかった。
…ん???
ボーっと天井を見上げながら頭が回転しだすのをしばらく待った。
…あぁ、俺ねちゃったのか
気が付いたヒョンが俺をベットに運んでくれたらしい。
枕を引き寄せギュ―と抱きしめながら体を丸めた。
…なんか俺、かっこ悪いよな。寝ちゃうなんて
俺はうぅ…と小さく呻って枕に顔を押し付けた。
簡易バスルームからシャワーの音が漏れてくる。
ヒョンがシャワーを浴びてる。
しばらくその音を耳で感じていた。
ヒョンのシャワーの浴び方は豪快だ。
コックを捻ると頭からザーッと浴びて
シャンプーして体を洗って泡に包まれた体を
またザーッと流す。
誰もがする同じようなことなのにヒョンがすると違った意味を持つ。
俺がよく称するダビデ像が動いたらきっとこうなんだろうな…
と想像して止まない美しい肢体のパーツパーツが蠢くさまから
目が離せなくなる。
シャワーの音を聞いているとヒョンのそんな姿で頭がいっぱいになった。
…あ、えっと…どうしよう
熱くなる首筋と下半身の変調に戸惑う。
ヒョンの熱く俺を射るような視線を思い出すともうそれは止まらい。
…バカッ!おさまれ…
俺はクールダウンしようと大きく深呼吸をした。
しかし、それとは裏腹に、手は下半身の明らかに昂ぶるそれを見つけた。
…ヒョンがシャワーから出てくるまでになんとかしなくちゃ
こうなってしまうともう、なまじっかじゃ治まらないのはわかっている。
言えばヒョンが何とかしてくれ…る…
…いやいやダメだ。ヒョンの裸体を想像してこうなったんて言えない
出すもの出してしまえばすっきりする!
俺は自分でなんとかしようと、なんとなく壁の方を向いた。
そしてそれを一刻も早く収めようと必死だった。
『キュヒョン…それ…俺が何とかしてやろうか?』
「えっ?う、うわぁー!!」
突然耳元でヒョンの声がして、思いっきり叫んだのは
思いっきり熱を放ったのと同時だった。
「うっ…」
止められるものなら止めたいところだが、
そうはいかないのは仕方ないことで…
俺は迸る熱を全部吐きだした。
「ふ、ふぇ…ヒョ、ヒョ、ヒョ…」
はき出した直後の虚脱感と余りの恥ずかしさに声が出ない。
かっこわるさでヒョンを見られない俺は穴があったら入りたい…
涙がにじむ。
ヒョンが髪にキスを落として抱きしめてくれた。
「あ、あの…俺…俺…」
言葉が続かない。
『俺に言ってくれればいいのに…』
…そ、そんなのムリ!
俺は頭をブンブンと左右に大きく振った。
首筋にヒョンの吐息を感じる。
ヒョンが俺の耳たぶを食み、
腰のあたりにはヒョンの昂ぶりが…
…あぁ、もぉ!!
頭で考えてから行動するはずの俺の体が
考える前に動いた。
「ヒョン…ヒョン…」
俺は目をまん丸くするヒョンの首にしがみついた。
…俺、どうかしちゃったのか?
何やってんだろ…
でも、ヒョンに組み敷かれた瞬間
頭を過ったそんなことは一瞬で吹き飛んでしまった。