チェ・シウォンが初めてこの部屋を訪れたのは、アメリカから帰国し、
この病院で勤務する事に決まった数日後だった。
勤務開始の前に必ず全員この部屋を訪ねる決まりになっている。
アメリカではごく当たり前なプログラムなので、シウォンにとっては
何も抵抗はなかったようだった。
ボリョン・メディカルグループのCEOを父に持ち、
母親もまたファッション関係の会社のCEOを務め、
自身も医者として頭角を現し始め世界的権威の1人として
名を馳せるだろうと言われている人物。
目の前の彼は満面の笑みでえくぼを見せながらその手をこちらへ差し出した。
「チェ・シウォンです。よろしく。」
「カウンセリング担当のイェソンです。まぁ、おかけください。」
軽く握手をして一通りのあいさつを済ましたところでお互い顔を見合って
どちらともなくお笑い出してしまった。
「どうもイェソン先輩。元気そうで何よりです。」
「あぁ、おかげさまでな。君も元気そうじゃないか。」
「そうですね。何とか・・・それにしても先輩がここにいるとは。びっくりしましたよ。」
「もうそろそろ2年になるかな。お前とはすれ違いだったな。
あれからもう何年たったんだ?5年?6年?」
「えぇ、見事にすれ違ってましたからね。もうすぐ6年になりますね・・・」
「そんなになるか。まぁ、こちらはお前の名を聞かないことはないってくらい
噂は耳に入ってたけどな。」
「悪い噂じゃなきゃいいんですけど・・・」
シウォンがそう言って涼やかに笑った。
「まぁ、挨拶はこのくらいにして・・・早速なんだがこのみんなに疎んじまれる
メンタルチェックってやつを終わらそう。」
チェックリストに沿って通り一遍の質疑応答を行ってOKのサインを記入した所で
この面談は終了した。
「じゃぁ、人事にこの書類を提出しておくから。すぐにでも仕事に入れるよ。」
「それはよかった。よろしくお願いします。」
「シウォナの活躍楽しみにしてるよ。」
「そう言ってもらえるとうれしいですよ。ジョンウン先生。」
「おいおいその名前は・・・ここではイェソンで通してるんだ。」
「そうなんですか?まぁ、でも俺にはジョンウン先輩だから・・・」
そう言ってもう一度握手を交わしシウォンはその部屋を後にした。
******
「とっても素敵な先生ですね。よく話してくれる3人組の後輩の中の一人の先生ですよね?」
リョウクがそう言いながらコーヒーを持ってきてくれた。
「そうなんだよ。彼はねぇ、とにかくよくモテた。女だろうが男だろうがあの笑顔に
惹きつけられたものだったよ。真のセレブなのに驕ったところもなくて・・・みんな虜だったな。」
懐かしさもあってそんな言葉がすらすらと出た。
「・・・せいも?」
「え・・・?」
手元の書類から顔を上げ見上げると頬をちょっとふくらまして口をとがらせる
リョウクと目が合った。頬がほんのり赤くなっている。
「先生もシウォン先生の虜だった?」
「え・・・?」
もう一度聞き返すと、”なんでもない・・・!”と言って部屋を出ようと
リョウクが背中を向けた。
そのかわいい姿に思わず体の力が抜ける。
「待って、リョウク・・・」
その背中を追いかけ後ろからそっと抱きしめた。