「CTの結果も何ともないけど、どうする?様子見るために大事を取って入院するか?」
結果が映し出されているモニターを見ながらキュヒョンとシウォンにドンヘが問いかけた。
「どうする?キュヒョン。泊ってくか?」
「・・・ヒョン・・・俺、早く家に帰りたい・・・」
「そうか。うちの方がゆっくり休めるしな。俺が付いてれば大丈夫だろ?」
「そりゃ、シウォン大先生が付いてればな。よし。じゃぁ、帰宅OKということで。
シップと痛み止め出しておくから。」
「あぁ、ありがとう。」
「俺、今日、当直だから、何かあったらすぐ来ればいいよ。
無理に我慢とかしないでちゃんとシウォンに言うんだよ。」
ドンヘの言葉に頷きながらキュヒョンはみんなにお礼を言いシウォンとERを後にした。
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「車回すから待ってて。」
そう言ってシウォンがその場を離れると、どこからともなくジョンファが現れた。
急に物陰から現れたのでキュヒョンは一瞬たじろいた。
「ごめんごめん。驚かしちゃったね。もう帰れるんだね。」
「あぁ、びっくりした・・・えぇ。何ともないってことで無罪放免です。」
「家どこ?ここからどうやって帰るの?」
「あぁ・・・家は・・・」
「足ある?送って行こうか?」
「いや、あの・・・送ってもらうので大丈夫です。すみません・・・」
「謝る事なんかないよ。余計な心配だったね。」
「いや、そんな・・・気を使ってもらってありがとうございます。」
キュヒョンはちょっと困って頭をかいた。
「思ったより背が高いんだね。」
「え?」
「ぼくが182だから・・・180ぐらい?」
「ん・・・?あぁ・・・180・・・かな?」
「やっぱり。当たりだ。迎えが来るの?」
「えぇ・・・今車を取りに。」
「そう。そんな役得、あの中の誰なんだろ・・・ちょっとうらやましいな。」
「いやぁ・・・そんな事・・・みんなおせっかいなだけで・・・」
「君、みんなに愛されてるんだね。」
「やだなぁ・・・そんなんじゃ・・・」
「僕も、その中の一人になれないかな・・・」
「はぁ?」
「なんてね。」
「とにかく体大事にして。心配だから」
「ありがとうございます。」
キュヒョンはお礼を言いながら下げた頭を上げようとすると
ジョンファが不意に手を伸ばしキュヒョンの頬に触れようとした。
(え・・・?何?)
と思った瞬間、車が横付けされ名を呼ばれた。
「キュヒョン!」
ジョンファの手はその声に驚いたのか、すっとひっこめられた。
「あっ・・・迎えが来た。」
「迎えって、あれ?」
ジョンファはシウォンの運転する車を一瞥した。
「えぇ、シウォン先生が送ってくれるんで・・・」
「へぇ・・・」
「あの、えっと、じゃあ、これで・・・」
「あぁ、シウォン先生か・・・そりゃ安心だね。じゃ、また。」
ジョンファは軽く舌打ちをしながらキュヒョンに笑いかけた。
「キュヒョン!大丈夫か?乗って。」
「はい、先生。」
キュヒョンはその声に頷くとジョンファに別れを言って急いで車に乗り込んだ。
助手席に乗り、シートベルトをはめるキュヒョンの手が震えていた。
「どうした?あいつに何か言われたのか?大丈夫か?」
「うん、大丈夫。ちょっとびっくりして・・・」
「なんだ?何かあったか?」
「ううん。大丈夫・・・
ヒョン。俺疲れた・・・早く帰りたい・・・」
「あぁ、わかった。早く帰ろうな。」
シウォンがキュヒョンの頭を引き寄せ優しく撫でながら髪に軽くキスをした。
車内はいつもながら心地よい音楽が流れ、シウォンの香りに包まれており、
キュヒョンはやっと緊張がほぐれ体の力が抜けていくのがわかった。
「ヒョン・・・心配かけてごめん。」
「ばかだなぁ。なに謝ってるんだよ。大変な目にあったのにそんなこと気にするな。」
「うん…でも・・・」
「大丈夫だって。そりゃ、搬送中って聞いたときはびっくりしたけど打撲だけでよかった。
痛むか?大丈夫か?」
「うん。少し痛いけど大丈夫・・・でもちょっと疲れた・・・」
「あと少しで着くけど、ちょっとの間でも目をつぶって休んでて。」
キュヒョンはコクリと頷きながら目を閉じた。
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車が静かに走る中、キュヒョンは気が緩んだのかすぐに寝息を立て眠ってしまった。
シウォンは額にかかる髪に手を伸ばしかきあげながらさっき見かけた光景を思い出していた。
車を回すと言ってキュヒョンを待たせていたほんの数分の間の事だった。
車に乗り込むとき、キュヒョンの姿を確認しようと目を向けると
そこにはキュヒョンだけではなく例の救命士が立っていた。
その距離が異様に近かった。
もともとそう言うことに疎いキュヒョンはそのまま、されるがまま突っ立っていた。
ジョンファがキュヒョンの髪に、頬に、その手で触れようとしていた。
一瞬頭に血が昇ったが何とか踏みとどまった。
アクセルを思いっ切り踏み込んでエンジン全開で突っ込んでやろうかと思ったくらいなのに。
俺は大人だからな。
キュヒョンの想い人は紛れもなくこの俺だし。
その気持ちはこの俺が一番わかってるし。
そう自分に言い聞かせてもやっぱり気にはなる。
自分に声を掛けてくる人間はみんな善人だと思って疑わない。
自分が狙われてると気づきもしない。
周りの人間は一目瞭然、皆心配しているというのに・・・
全く、このかわいい恋人には本当に困ったもんだ。
シウォンはため息をつきながらキュヒョンの頭を撫で寝顔に微笑みかけた。