「キュヒョン!お前、これどういう事だ?チェ・シウォンの名前でいきなり配送されてきてるんだけど。なんなんだこれ!!」
ウニョクが興奮しきった様子で電話をかけてきた。
多分、今、自分の目の前で起こってるのと同じことが起きているからだろう。
「えっ?なに?知らないよ。俺だって今、びっくりだよ。」
テキパキと配送会社の作業員に指示をしているシウォンを目で追いながら、キュヒョンは答えた。
「ん?どうした?誰から?」
「えっ?なに?あぁウニョクだけど・・・あっ」
言い終わらないうちにシウォンが携帯を取り上げ、
「もしもし?ウニョクか?よかった。そっちにも届いてるんだな?
トゥギにはもう話してあるから大丈夫!まぁ、いろいろ世話になってるお礼だって事で・・・
こんなもんじゃ足りないかもしれないけど、まぁ、勘弁してくれ。」
そう言いたい事だけ言って携帯を返してきた。
「もしもし?」
「あ~キュヒョン。なぁ、お前、また何かあったのか?じゃなきゃ、先生、こんな事しないよな?」
「いや、何もあるわけないだろ?
俺がこういうのねだったりしないのお前が1番知ってるだろ?」
「だよな・・・だいたい欲しけりゃ自分で買えるしな・・・いや、でもやっぱり何かあるな。」
「(ぐぅ・・・やっぱり鋭い)いや、ないって。とにかく先生と話ししなきゃ。じゃ、また後で」
そういいながら挨拶もそこそこに、電話を切りシウォンを目で追うと、
こちらに気がつき満面の笑みで笑いかけてくる。
事の発端は多分、3日前のあの話からだ。
「なぁ、キュヒョン。いつにしようか。休みいつだっけ?シフト、合う日あるかなぁ。」
そう言ってスケジュールを確認し始めたシウォンがいったい何を言っているのか、
キュヒョンにはわからなかった。
「・・・なんの話し・・・ですか?」
「なんの話しって、決まってるだろ。引っ越しだよ。」
「・・・ひっこし・・・ってだれの?」
「誰のって、キュヒョンのに決まってるだろ!!」
「あぁ~俺ね・・・」
って、
何言ってるんだ?この人は。
「え?俺、引っ越しませんけど?
って、もし仮に引っ越すとしてもなんで先生に関係あるんですか?
俺の引っ越しに。」
「お前こそ、何言ってるんだよ。
俺の家に来るのになんでキュヒョナが関係ないんだよ」
「ちょちょちょちょちょ・・・先生、俺、引っ越しませんけど?」
「なに言ってんだよ!この前言っただろ?」
「いつ?なにを?ダレが?」
大きく見開いて今にもおっこちそうな目をしているシウォンにキュヒョンは冷たい声で言い放った。
「おいおい、言ってる事かわわからないぞ?
この前、甘えた声で『ずっとそばにいるから』って言ったじゃないか!
ずっとそばにいるって言ったら一緒に住むってことだろ?
別に俺はキュヒョナのところに行っても構わないけど
でもキュヒョナのとこは寮で一緒に住むのはムリだ。
第一、みんながパニック起こすだろ?
だからお前がうちに引っ越しくるんだろ?
それでばっちりだろ?」
そう言って両手を広げ、肩をすくめながら大げさなジェスチャーをした。
キュヒョンは飽きれて言葉がでなかった。
頭のいい人の思考回路がわからない。なんでそう直結するんだ?
「先生、確かに俺言いましたけど、それは別に一緒に住むという意味ではなくて・・・」
でも先生は聞いてない。
「先生、先生!!とにかく俺、引っ越しなんてしませんから。
第一、寮から出たらそれこそみんなに何言われるか・・・」
「俺のところに来るって言えばいいじゃないか。何か問題あるか?」
「あるに決まってるでしょ?!先生何言ってるんですか。」
キュヒョンはあきれ返って頭を振りながら言い放った。
「先生のところとイトゥク先生のとこに今より大きなTVが入って
ネット環境が寮の俺のうちと変わらないくらい整わない限り
引っ越しはお預けです!」
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忘れてた・・・
地位も、名誉も、お金も何もかも持ってるこの人には
こんなことはぜんぜん大した事じゃないんだってこと・・・
あぁ~俺・・・甘かった・・・
相手がシウォン先生だってこと忘れてた。
イトゥク先生も断ってくれればよかったのに。
どうしよう・・・
俺ほんとに先生のところに来るの?
いや、ダメだ!
そんなのムリ!
だって恥ずかしすぎるだろそれ。
別にここに泊るときは泊ってるしわざわざ同居って決めなくても・・・
なんで決めなきゃならないんだよ。
あっ、ヒョクから電話だ・・・
「もしもし・・・」
「おい!お前どういうことだよ。お前先生と同棲始めるんだって?
何で黙ってたんだよ!!」
あぁ~、やっぱりこうなった
「同棲・・・って、同居っていえよ。って、俺そんな気ないから。
先生が一人で勝手に・・・」
「いいじゃないか。俺もそれ、すっごくいいことだと思う」
「お前なあ。おもしろがってんじゃねぇよ」
つい、声を荒げた。
「とにかく俺、ほんとにそんな気ないんだよ。ヒョク、助けてくれよ。」
「いや、こんなの届いちゃったら、それムリ。
おまえさぁ・・・あきらめろ。もう逃げらんないな。これ」
「逃げられないって・・・なんだよそれ。他人事だと思って・・・」
「とにかく先生とちゃんと話せよ。癇癪起こすなよ~」
「もういい。じゃ。」
気が付くと業者の人はもういなかった。
リビングの今まさに設置ほやほやのTVの前で、先生が満足気に立っていた。
「どうだキュヒョナ。いいだろーこれ。」
「先生・・・これ、まさかほんとにこんなことに・・・」
しどろもどろの俺に先生は満面の笑みを浮かべながら近づいてきた。
そしてやさしく抱きしめながら髪にキスされた。
「気にするな・・・こんなことぐらい・・・」
「先生・・・」
今度は唇に優しく触れてきた。
「ん・・・はぁ・・・」
って、ちがーう!!
俺は思いっきり先生を突き飛ばし
「先生!これなんだよ!!ヒョクのとこまで巻き込んで。
なんであなたはそうなんですか?」
口を拭いながら悪態の限りを尽くして抗議した。
「キュヒョナ、お前、怒ってるのか?何で怒る必要があるんだよ。」
シウォン先生が不思議そうにそう言った。
この人は本当に・・・
目の前でちょっと困惑しながら俺の顔を覗き込んでるシウォンを
見つめながらため息をついた。
「先生。ちょっと落ちつて話しましょう。」
「ん?話?それよりこっちがいいな・・・」
そう言って先生は俺の腰をホールドし、首筋に唇を這わせた
「ちょ、ちょっと先生、違うってば。ま、待って・・・」
その時、ドクターシウォン用のスマホが鳴った。
「ごめん。病棟で急変だ。残念だけど行かなくちゃ。帰ってきたら話そう。」
そう言って先生は慌てて出て行った。
「気を付けて・・・」
そう言って送り出した。
俺は一人残されリビングのイスに腰を下ろし設置したてのTVのスイッチを入れた。
そして俺はザッピングを始め、TV画面をただただながめてた。