「豆入れる瓶、貸して。」


「はい。ありがとう💕」 

 

 



うちの夫はこだわりが強い。

自分で食べたいと思ったものは、自分が納得のいくものができるように追求して追求して自分が美味しいと思えるものになるまで何度も改良を進める。


元々、アレルギー体質だった夫は、子どもの頃、鼻炎で本当に辛い思いをしてきたため、大人になってから食事で身体の体質は変えられると知り、できるだけ添加物などを使わないよう、無農薬のものを好んで手に入れる。



お店で出す珈琲も、もちろん無農薬。豆は自分で焙煎する。



たまに、私にもその焙煎したこだわりの珈琲豆を分けてくれるのは、珈琲好きの私にとってありがたい限りだ。



今日も夫が焙煎してくれた豆をくれたので、私のお気に入りの手動式の卓上ミルで挽いてコーヒーを淹れていると、夫がミルを見て眉をひそめた。



「あれ?何、それ?前の俺のやつは?」



俺のやつというのは、夫が釣りやキャンプのときに使うように買っていたハンディ型の手動ミルで、家で豆を挽くなら使って良いよと言われていたものだ。

 


「あー、あれ、あるよ。これはこの前本屋さんで売ってて可愛かったから、買ったんだー♪見てみて!ここ!ここにニョロニョロがついてる♪」


「何これ、精子みたいだな。」


「はぁ?ニョロニョロ知らないのー?」


「知らん。」



まさか、ニョロニョロを精子というやつがこの世にいたとは・・・


大好きなキャラだけに、何だか複雑な気分だ。



「っていうか、これいくら?安いやつじゃない?」


「そんなに安くはなかったけど、インテリア的に可愛かったから。」


「あんまり安いやつだとたぶん美味しくなくなるよ。ちょっと飲ませて。」





「うわ!雑味エグ!!!」


私も一口飲む。確かに雑味はあるが、いつもこんな感じだけどなーと思っていると、夫の力説が始まった。



「お湯の温度は?80度ぐらいで淹れてる?何でせっかくの豆をわざわざ美味しくなくして飲むわけ?喫茶店で働いてたことあったでしょ?良い豆なんだから、最高に美味しくして飲みたいと思わない?」


「うん。それは知ってるけど別に私はコーヒーを飲めれば良いし。究極の一杯は飲んでみたいとは思うけど、私は別に自分で作りたいとは思わないから。」



そう言えた自分にちょっと成長を感じた。


以前の私は、夫が度々してくるこちらを否定してくるような発言に対して、いちいち傷ついていたのだ。自分が悪いんだ、それができない自分は粗悪品なんだ。そうやって自分を否定して悲しくなっていた。



それが、自分を全肯定できるようになった今、夫の言葉を笑ってやり過ごせるようになった。


あなたはそうかもしれないけれど、私はそうじゃないんだと軽く言い返せるようになったのだ。

 

 


「そんなにミルや温度で違うって言うなら、明日はミルと温度を適正な状態にして入れてみるよ。」 

 



そう言って、今朝、夫のハンディ式のミルを使って、お湯の温度を80度ぐらいにして淹れてみたわけなのだが



口に含んで驚いた。 

 

 








うま・・・・


雑味が全く無い・・・ 




やはりちゃんと淹れたコーヒーは美味しい。 

 


当たり前のことだ。 

 



そう、当たり前なのだが、その当たり前を、時間がないからとかめんどくさいとかそんな理由でやってこなかった自分。




何を重視して生きたいのか。



適当に扱っていないだろうか。モノだけでなく自分自身も。そんなことをふと考えた。 




自分の声は聞けるようになってきた。

これからは、自分自身の身体にも目を向けてあげる時が来たのかもしれない。


少しずつ自分のできる範囲で自分自身のメンテナンスをしていこう。



そう思った。