「もっと本が読みたい・・・」
 
 
無表情でずっと無言だった女の子が、一言だけボソッとつぶやいた。
彼女の本音のその言葉は、母親には届かなかった・・・。
 
 
 
 
 
私は書店で働いている。毎日様々なお客さんがやってきて、いろんな親子のやり取りを目にし、色々なことに気づかせてもらえている。
 

数日前の話だ。 
 
自分の担当である児童書売場の本を整理していると、子どもの名前を叫んで呼ぶお母さんの声が聞こえた。
 
 
「ちーちゃん!こっちに来なさい!どれにするか早く選んで!」
 
 
少ししてから、チョコチョコとお母さんの方に歩いて行った女の子がいた。この子がちーちゃんだろうか?年齢は4歳ぐらい。表情がなく、口をつぐんだままだ。
 
 
「早く決めて!これなんか良いんじゃない?」
 
 
幼児用の学習ドリルを目の前にして、女の子は興味なさそうにチラリとだけ見ておばあちゃんがいる方に歩いて行ってしまった。
 
おばあちゃんがお母さんに話しかける。
「ねえ、まちがいさがし買ってあげようか?」

「まちがいさがし?そんなことより他にやらなきゃいけないことがたくさんあるのよ!ちー!!!もう!決めないならママが決めるよ!」
 
 
お母さんがイライラしているのをよそに、ちーちゃんはおばあちゃんと時計の読み方が勉強できるドリルを手に取って見ていた。
 
「わー!時計が読めるの?すごいね。」
 
おばあちゃんの声がする。

 
ちーちゃんはお母さんの方に戻り、「こっち」と言っておばあちゃんがいる方を指さし、時計のドリルをお母さんに見せた。
 
 
「ん?とけい?」
 
お母さんは、一瞬、その時計のドリルを手に取ったが、
 
「・・・でも・・パパ、ひらがなができるようになるの買えって言ってたでしょ!これじゃないよ!」
 

そう言うと、お母さんは時計のドリルを元に戻し適当にひらがなのドリルを選び、ほかの子どもたちがいるところに行ってしまった。
 
 
 
 
 
ほどなくして、母親の声が響き渡る。
 
 
「ちーちゃん!ほら、行くよ!早く来なさい!」
 
 
ちーちゃんが、小さな声で一言だけ呟いた。
 
 
 
「・・・もっと本が読みたいな・・・」
 
 
 
 
 
ちーちゃんの気持ちが伝わってきて、胸がしめつけられるようだった。
 
 

これはあくまで私の推測の話だが、
 
興味があるのは、今は時計の読み方で、それができるところをママに見せたいのに・・・
どうしてそんなに急ぐの?どうしてそんなに怒鳴るの?ママ、もっとゆっくりここで本を読みたいよ。ママも一緒に見ようよ。
 
そんな声が聞こえてくるようだった。 
 

 
仕事が終わったあと、あのお母さんは、何であんなに怒っていたんだろう、焦っていたんだろうって考えたら、昔の私と一緒だったんだって気付いて、お母さんもギュッてしてあげたくなった。
 
 
周りばかり気にして、世間の常識が絶対で、それからはみ出たらいけない!ちゃんとさせなきゃ!夫に怒られないようにしなきゃ!早く帰って家のことしなきゃ!いろんなことが強迫観念のように心を支配していて「今」を生きていない状態。


今、目の前の子どもを見ずに、育児書通りに育てようとして、周りから評価される子育てをしようとして、必死だった昔の私。 

 
そんな状態の時、娘の中で私の順位は保育園の先生より下だった。「○○先生の方がすき!」そう言われたとき、自分が何か間違ってしまっているのではないかと気づき始め、大切なのは、先の未来の心配より、「今」この時を大切に生きることだって気づいていったことを思い出す。
 
 
 
 
 
子育ては、誰かのためにするものではない。
 
誰かに恥ずかしく思われないようにちゃんとした子供を育てなきゃ!
○歳にもなってこんなことができないなんて、周りにどう思われるかわからないからちゃんと躾しなくちゃ!
夫に怒られないように!
母親に、義母に小言を言われないように!
世間から変な目で見られないように!
 
 
そんな自分を保身する考えばかり持って子育てをしていたら、子どもと心から向き合うことは難しい。たしかに、放っておいてもどんどん大きくなって育ってはいくだろう。目の前の子どもと向き合わなくても子どもは成長していく。 
 
 
だけどさ
 
 
せっかく母親になったのだから、こどもにとって「お母さんがお母さんでよかった」そう思ってもらえたら嬉しいなって私は思ったから。だから、そうなりたくて自分の在り方を見つめ直すことにずっとチャレンジしてきたのだ。
  


 どんな子育ても正解でも間違いでもない。

ただ、自分が後悔しない子育てを自分の意志で選択して欲しい。
 
 
子育ては自分育て。

先の不安から頑張り過ぎてるママさん。
周りを気にして頑張ってしまうママさん。
いつもすごく頑張っていて、本当にすごい!


でも、もし無理し過ぎてたら、目の前の子どもが笑顔じゃなかったとしたら、ちょっと立ち止まってみて欲しい。自分に聞いてみて欲しい。 

 

あなたの本当の幸せはなんですか? 
 
あなたの本当の望みはなんですか?