放課後、冊子としてまとめるための資料を受け取りに夕と雪乃は職員室へ向かった。
人気もまばらになったクラスには夕の友人たちが
「あれー?夕帰らないの?」「仕事あるの?手伝う?」
と、クラス内でも比較的真ん中の席にいる夕にいくつかの言葉を投げ掛ける。しかし夕はにこりと彼女らに微笑みながら、
「んー、大丈夫。副委員が手伝ってくれるからー。」と窓ぎわの席に座っていた雪乃の方を向き
「そろそろいこっか。」
と促した。
「じゃあねー、また明日ー」夕は彼女らにひらひらと手を振りながら廊下へ出る。雪乃も少し早足で夕に続いた。
「藤平さんお疲れー」
「あっ…うんっ、お疲れさま」
夕の友人(雪乃にとっては名字にさん付けで呼び合う間柄なのであえて「夕の友人」としよう)たちの前を通る瞬間にさらりと話し掛けられ、とっさに返事をした。不意をつかれてつい声がひっくり返る。
パタパタと廊下に出て夕の後について階段を下りる。
「多分一回で運べると思うんだよね、プリント。」
登り下り合わせて「2人車線」の幅狭い階段だったため、夕が首を後ろにひねりながら雪乃に言う。
「そっか。一回で済むといいね」
「ねー」
階段を降りる振動が頭にやって来る度にふわふわと跳ねる夕の茶色がかった肩まである後ろ髪に雪乃はふと目が行ってしまった。
クラスでは級長、明るく聡明で人望もあつく、美人の夕…。ほのかに茶色っぽい髪は水泳部に所属しているため、塩素やけを起こしているようだった。ただでさえ生れつき茶色いのに、髪が傷んでますます変な色になったとクラス内でぼやいている夕を見たことがあったが、今の雪乃には塩素のダメージも夕を美しくする要素に見えた。
(神様は、与える人には二物も三物も与える…って、本当みたいね)
そんなことばかり頭の中で考えていたため、4階のクラスから1階の職員室までは一瞬だった。
とん…、とん…、
「ひゃっ!」
「やだ大丈夫!?」
夕があわてて振り向く。
3年間毎日のように登り下りしていた階段の最後の段で、危うく足を踏み外す所だった。