高橋秀之の小説 -9ページ目

高橋秀之の小説

高橋秀之の妄想小説へようこそ。
作品の内容、人物の名前等すべてフィクションです。

この物語はフィクションです。

実在するものとは一切関係ありません。


仮面夫婦【8】


 直樹は、優美の膝の上に置いた手をスカート

の中へと滑らせていった。

 優美が素早く、スカートの上から直樹の手を

強く押さえ、それ以上の侵入を拒んだ。

 『先生、こんなところで、どなたかが来られま

す』

 「誰も来ないさ、それにドアの向こうはきみの

部屋じゃないか。来訪者は、きみの部屋のドア

をノックする」

 直樹は、再び優美を強く抱きしめようとした。

 しかし、それを阻止するかのように隣の部屋

の電話の着信音が聞こえた。


 優美は、副院長である直樹を押し退ける様に

立ち上がり、直樹の机の上の電話機を使って

着信を受けた。

 『はい、副院長室でございます』

 ・・・・・

 『おられますが』

 ・・・・・

 『ちょっと、お待ちください』

 優美は受話器を手にしたまま、保留ボタンを

押し、直樹に言った。

 『医局秘書の矢田さんからですが、警察の方

が先生に面会を求めているそうですが』

 「警察が」

 直樹は、とんだ邪魔が入りやがって、と思い

がら

 「通してくれ」と言った。


 優美は、電話機の保留を解除して

 『会われるそうです。案内してください』と、答

髪と衣服の乱れを直しながら来訪者を迎えに

出た。


 暫らくすると、優美に案内され二人の男が入っ

て来た。

 40代と思われる男が、警察手帳を示しながら

 「お忙しいところ恐れ入ります。旭警察署の河

村といいます」と名乗った。

 後ろにいた男が、河村の横に並び

 「西枝です」といいながら警察手帳を示した。


 直樹に促され、ソファーに二人が腰を下ろした

あと、直樹は問いかけた。

 「警察の方が、何の御用でしょう」

 河村と名乗った男が答えた。

 「先生は、迫田真緒という女性をご存知ですか」

 「迫田真緒、さあ、知りませんが、誰です」

 「25才の女性ですが、昨夜、旭区内の淀川河

川敷で殺されましてね。まあ発見されたのは今

早朝ジョギングしている人によってですが」

 「昨夜殺された女性?何を藪から棒に言い出す

んです、そんな人知りませんな」

 「ご存知ない?」 と、言うと河村は身を乗り出

すようにして 直樹の顔を見つめた。

 


 

 


この物語はフィクションです。

実在するものとは一切関係ありません。


仮面夫婦【7】



 橋本直樹は宿直業務から解放され、救急外来から

副院長室に戻った。

 扉を開けると、秘書の高村優美が立ち上がり出迎え

た。

 『おはようございます』

 「おはよう」

 直樹は、優美の前を通り奥の部屋へと進んだ。

 自分の席に腰を下ろし暫くすると、優実がコーヒーを

運んできて机の上に置いた。

 『お疲れ様でした。昨夜の当直は大変だったようです

ね』

 「ああー、近くで大きな事故があってね、重症が二人

担ぎ込まれてきた。オペ室に缶詰だ」

 『テレビのニュースで見ましたわ』


 白いブラウスと紺のフレアースカートを身に着けた優

美が、愛くるしい表情で直樹を見つめている。

 『先生、今日の予定はどうされますか』

 「そうだな、病棟へ行って回診を済ませたら帰らせて

もらうよ」

 直樹は、そう言うが早いか優美の手を取り強く引き

せた。

 不意に引き寄せられ、バランスを崩した優美は直樹

の膝の上に崩れた。


 高村優美は4年余り前、正職員として病院に採用され

整形外科病棟の事務に就いた。

 その当時、一整形外科医だった橋本直樹が目に付け

意のままにするようになった。

 しかし、結婚相手として選ぶのではなく、結婚は院長

の娘である倫子とした。

 副院長に就任して暫らくした頃、事務職員が主力メン

バーとなり労働組合が立ち上げられた。

 義父の院長から、その対策を一任された直樹は、同じ

大学の法学部を卒業し弁護士になっている同級生のア

ドバイスを受けながら、事務職を派遣社員に切り換えた。

 そのときに病棟事務員であった優美も、解雇される筈

であったが、自分の秘書にして正職員として残している。

 


 直樹の膝の上から慌てて起き上がろうとする優美を、

覆うようにして直樹は優美の唇を塞いだ。

 直樹は最近、今朝のように当直明けで疲れている時や

オペを終えたときに女性を求めたくなっていた。

この物語はフィクションです。

実在するものとは一切関係ありません。


仮面夫婦【6】


 病院から自分の所属する派遣元の会社へ、戻され

るのを恐れ小さくなっている迫田を見ていて、直樹は

湧き上がる衝動を抑えきれなくなった。

 制服のタイとスカートの裾から伸びている、ナチュラ

ルカラーのストッキングに包まれた脚に、先ほどから

直樹の目が釘付けにされていた。

 そのような女性は、医師である直樹の周りにはごろ

ごろいる筈であるが、なぜか迫田の事が気になった。

 

 「詳しく話を聞こう」

 直樹は迫田に言った後、特診室中待合のソファーに

座るよう促した。

 腰を下ろした迫田の横に直樹も腰を下ろした。

 これで直樹の今までのパターンからいうと、迫田とい

う女子派遣社員を手中に収めたも同然の状態だ。


 その時、直樹の白衣のポケットで医療器具に障害を

与えない電波の携帯が着信を知らせた。

 総合案内からの着信だ。

 電話に出た直樹に、午後5時を過ぎ案内係から引継

ぎを受けている警備係が、妻の倫子の面会を告げた。

 秘書の高村優美が休みであるため、倫子は総合案

内に行ったのであろう、と考えつつ直樹は早く行かねば

と思った。

 妻の倫子が怖いわけではない。この病院での不動の

立場を築き上げるまでは波風を立ててはまずいと考え

ていた。


 直樹は、ポケットから手帳を取り出し素早くスケジュ

ールを確かめた。

 翌日は宿直になっていた。

 いくら好みではない女性とはいえ、いつ外来に呼び

出されるかもわからない状況の中では味わうものも味わ

えない。

 「明日は宿直で、明後日は明けだ。きみは明後日の

夜の予定は?」

 迫田は瞳を泳がせながら少し考えた後

 『別にありません』と答えた。

 「よし、じゃあ明後日午後6時、梅田のセントラルホテ

ルのロビーラウンジに来てくれ」


この物語はフィクションです。

実在するものとは一切関係ありません。


仮面夫婦【5】



 「書類が出来上がれば速達で郵送すれば良いさ、

きみが直接持って行く必要などない」

 『でも、直接持って行かない事によって、患者様が

憤慨された場合、病院の方から私の会社宛に問題

社員として通告されませんか?私は、この病院を気

にいっているから、ここを辞めさせられたくないので

す』

 迫田は、そう言うと縋るような眼差しで直樹を見つ

めた。

 直樹の好みのタイプの女性ではなかったが、迫田

の眼差しを見つめていると、抱き寄せたい衝動に駆

られた。

 ここは密室である。


 直樹は、院長の娘である倫子と結婚するまでは、

この様な機会を利用して、否、看護師や病院職員の

中に好みのタイプを見出すと食指を動かし、策を練り

手中に収めていた。

 しかし倫子と結婚してからは、そういう行動から遠の

いていた。

 それは、妻の倫子に満足しているというのではなく、

義父である院長、村瀬徹から副院長というポストを与

えられ職務に専念していたからである。

 しかし最近、余裕が出てきて、というわけではないが

獲物を狙う野獣のような感覚が起き上がりつつあった。

 そして、以前の様に若い看護師だけにでなく、自分よ

り年上の看護師にも興味を抱き始めた。

 今春、内科病棟の主任に昇格した阿部真奈美という

30代後半の人妻看護師に、直樹は今一番関心を寄せ

ている。

 直樹は、彼女を整形外科病棟への移動させることを

企んでいた。

この物語はフィクションです。

実在するものとは一切関係ありません。


仮面夫婦【4】



 橋本直樹は、副院長として目を通すべき書

類に確認印を押し終えると、副院長室の掛時

計に目を向けた。

 「もう時間か」

 誰に言うでもなく、小声でつぶやくと立ち上

り、窓から見える国道2号線の渋滞を眺め

たあとブラインドを下ろした。


 直樹は副院長室を出ると、新館2階の特診

へと急いだ。

 特診フロアーは、午後5時前になると全て

診察は終わり明かりは落とされている。


 医療事務の迫田を待つ間、直樹は椅子に

腰を下ろした。

 しかし待つまでもなく、ドアーをノックする音

応答すると、ドアーが少し開けられ緊張した

表情の迫田が顔を覗かせた。

 「入りなさい」

 直樹の声に促されるように、迫田は全身を

部屋の中に入れ後ろ手でドアーを閉じた。

 直樹は、じっと迫田を見つめ観察した。

 顔は普通だが、スタイルの良い女だと直樹

は感じた。

 迫田は小さく頭を下げた後、直樹の視線を

避けるように目を伏せた。

 「昼も聞いたが、きみは今、患者と何かトラ

ブルを抱えているのか」

 『えっ?いいえ、否、わたしのミスで患者様

から依頼されていた書類の作成が手付かず

のままになっておりました』

 直樹は、迫田の顔を見つめ説明を聞いて

いた。

 『今日書類を作成して外科の先生の方へ

回しましたから、戻り次第患者様に郵送、否

、患者様から持って来るようにと言われまし

たのでお伺いして手渡します』


 直樹は立ち上がり、呟くように言った。

 「別にきみが持って行かなくても郵送で良い

さ」

 『でも』

 迫田は、そう言いながら直樹を見つめた。

 直樹は、その視線を見つめながら、彼女が

書類を持っていくと、昼間の喫茶店での奴ら

の会話から、どうなるか目に見えている、と

思った。