高橋秀之の小説 -8ページ目

高橋秀之の小説

高橋秀之の妄想小説へようこそ。
作品の内容、人物の名前等すべてフィクションです。

この物語はフィクションです。

実在するものとは一切関係ありません。


仮面夫婦【13】



 倫子は、自分のクローゼットのある部屋で着替え

ながら、夫の直樹に問いかけられた言葉について

考えていた。

 あのおぞましい悪夢の様な出来事を、夫に知られ

てはいけない、と思った。


 一昨日、倫子は父や夫のいる病院に行く前に、梅田

近くの喫茶店で、ある男性と会った。

 それはその日の午前中、知らない男性から電話があ

り倫子の運転免許証を拾った、と告げられた。

 そしてそれを受け取るために、相手の指定する店へ

出向いた。


 倫子は店の前までたどり着き、あることに気づいた。

 倫子にとって、そこは初めての場所ではなかった。

 夫の直樹に、初めて出会った時に連れてこられた店

である。

 その店は、夕方までは喫茶店で夜はスナックという

営業をしていた。

 直樹に連れて来られた時は、午後6時を過ぎていた

からスナックの時間帯になっていた。


 そこで倫子は、直樹に勧められるがままに飲み酔い

つぶれてしまった。

 倫子は、今でもそう信じて疑っていなかった。

 しかし、現実は違った。

 事前の根回しはなかったにせよ、倫子は直樹を父の

病院に勤める医師とは知らなかったが、店のマスター

は直樹の手術を受け退院した直後で、倫子が強い睡

魔に襲われるよう暗黙の了解の如くしかけた。

 倫子は、運転免許証を拾ってくれた人に会うため、

今またその店に入った。

この物語はフィクションです。

実在するものとは一切関係ありません。


仮面夫婦【12】


 直樹は、刑事らと言葉を交わしながら悟られないように

事の状況を思い巡らした。

 迫田真緒を乱暴した上で殺したのは、あの患者達とみ

てまず間違いない。しかし、あの様な奴らと妻の倫子が

どう関わりがあるというのだ。


 先生、って呼ばれる声に直樹は、ハッと我に返った。

 河村が、覗き込むように見つめていた。

 「先生、どうされました?」

 「否、別に」

 「今の話は気になさらないでください。つまらん奴が逃

口上に言ったことですから」


 暫くして刑事たちは帰っていった。

 直樹は今日の夕方以降、時間も場所も迫田のために

確保していたが、彼女の死亡により必要でなくなった。

 彼女と待ち合わせしていたホテルに、部屋を予約して

いた。

 秘書の高村と利用することを思いついたが、妻の倫子

のことが気になった直樹は、午後早々に帰宅した。


 直樹が帰宅すると、妻の倫子は驚いた表情で出迎え

た。

 『あら、早く帰られたんですね』

 「あー、昨日は疲れた。あれ?何処かへ出かけていた

のか」

 直樹は、倫子の服装に目を留め問いかけ、倫子は答

えた。

 『ええ、お買い物から帰ってきたとこよ』

 「買い物?一昨日に済ませていなかったのか」

 『一昨日は、あなたを疲れさせてはいけないと思い途

中で切り上げたのよ』

 「そうか、ところで一昨日、きみは何時頃病院に来たん

だい」

 直樹は話の矛先を、それとなく倫子の一昨日の行動

に向けた。

 『一昨日?おかしなことを聞くのね』

 「どれぐらい、きみを待たせたのか、と思ってね」

 『確か、3時ぐらいだったかしら』


 着替えてくるから、と言葉を残し部屋を出る倫子の背

を見送りながら、直樹は自分自身が確認出来ているの

は、午後5時以降からだという点が気になった。

     

 

この物語はフィクションです。

実在するものとは一切関係ありません。


仮面夫婦【11】



 刑事の口から妻の名前を聞かされ、直樹は戸惑

いを隠しきれなかった。

 「み、倫子が、妻がどうしたというんだ?」

 「いや、大したことじゃないんです。一昨日、病院

に来られ夜は先生と食事に行かれましたか?」

 「一昨日?ええ、わたしの仕事が終わるのを待っ

て、食事というか買い物に付き合わされましたよ。

それが何か?」


 「そうですか。間違いない。そうだろうと思いまし

た。実わですな、先ほどの迫田真緒さんのヤマで

すがね、々警察では一定のデーターを持ってい

ましてね」

 「そうらしいですね、日本の警察の優秀さは日頃

情報収集に基づいているとか聞きましたね」

 「あのヤマで、我々が日頃からマークしている奴

別件で引っ張りましてな」

 「別件で。ちょっと待ってくださいよ、その様な話と

妻がどう結びつくのです」


 「いやいや、だから、あーいう奴らは口から出まか

をいうものです」

 「しかし、なんだというのです」

 「その別件は、一昨日午後3時半頃のことです

が、奴はアリバイを主張しましてね」

 「アリバイを?」

 「言うにことかいて、先生の奥さんとしけこんで

いた、というのです」

 「しけこんでいた、ってラブホテルにですか?」

 「いや、ここにお訪ねする前に、先生のご自宅

にお伺いしてきました。奥さんはきっぱり否定さ

れ、いま先生にウラをとらせていただきました」



この物語はフィクションです。

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仮面夫婦【10】



 「だったら、私にはアリバイがありますよ。あなた方も

警察だったらご存知でしょう。昨夜の阪神高速長柄出

口での事故を。私は、その件で今朝未明まで手術室に

缶詰でしたよ」

 河村は、直樹の言葉に右手を左右に振りながら

 「いやいや、先生のその件は承知しております。調査

済みです。ところで、先生は彼女がそうなることに何か

心あたりはありませんか?」


 「心あたり?あるわけないでしょう、今言った通り深く

知らない人物の事だから。乱暴され殺されていた、と

言われましたよね、何時頃だか知らないが夜に女性が

一人そんな川原に行くこと事態が」

 「そうそう、今、下の事務所で聞いたのですが、彼女

の住まいは西淀川区だそうです。しかし、殺されたのが

旭区で」

 「そりゃ、恋人か友人が旭区にいるのじゃないですか」

 「ほぉ、そのあたり先生何かご存知で?」

 「知るわけないでしょう。それを調べるのが、あんたた

ちの仕事だ」


 今まで口を開けなかった若い方の刑事、西枝が問い

かけた。

 「彼女の交友関係は調査中ですが、今夜彼女は先生

に何を相談したかったのでしょうかね?」

 「さぁー、内容については」

 「彼女は、何かトラブルに巻き込まれているとかいう事

はなかったですか?職場で揉めているとか恨まれてい

るとか?」

 「そういう事は、わたしなどより事務長や医事課長らに

聞いてください」


 西枝は、直樹の言葉に頷きながら河村の方に目を向

けた。

 河村は、手にしていたコーヒーカップを皿の上に戻し

 「彼女の件はこれぐらいにして、わたしたちが先生に

お尋ねしたいのは、奥さんの倫子さんの事ですがね」

 「倫子の?妻がどうしたというのです」

この物語はフィクションです。

実在するものとは一切関係ありません。


仮面夫婦【9】



 秘書の高村優美が入ってきて、来訪者の

前に来訪者の前と直樹の前にコーヒーカッ

プを置き、先ほど直樹に出していたカップを

引き上げた。

 優美が去ると河村は言葉を続けた。

 「この病院の従業員の方なんですけどね」

 「うちの職員?看護師ですか」

 「いえいえ、看護師さんじゃありません」

 「一階の受付の事務員さんですよ」

 「医事課の?あーそれじゃ知らなくて当然

だ。職員であり身近にいる看護師や医療技

術者の名前もすべて把握出来ていないのに

医事課の方は職員ではなく派遣社員でね」

 「ほぉー、ご存知でない、それはおかしい

ですな」

 河村は、直樹を見つめたまま言った

 直樹は、その視線を逸らすことなく河村を

見た。

 「ガイシャ、否、迫田さんは乱暴されたあと

殺された様なんですが、所持品の金品は持

去られていました。ただ、手帳が残ってい

ましてな」

 河村は、頭を小さく下げコーヒーカップを口

運んだ。

 「その手帳にはね先生、今日の午後6時に

先生と会う予定、と書かれているんですがね」


 「今日、僕と会う予定?」

 直樹は、呟くように言うと宙を仰いだ。

 「じゃあ、彼女が迫田という名前なのか」


 「と、仰いますと?」

 「医療事務の子に、相談したいことがあるの

で時間をくれと、頼まれました」

 「ほぉー、その場所がホテルで」

 「そこで僕は知人に会うようになっており、そ

の後、時間の都合をつけているんだ。刑事さん、

一体何を言いたいんだ。だいいち、彼女は昨夜

殺されているんでしょう」

 直樹は、興奮気味に言った。