高橋秀之の小説 -10ページ目

高橋秀之の小説

高橋秀之の妄想小説へようこそ。
作品の内容、人物の名前等すべてフィクションです。

この物語はフィクションです。

実在するものとは一切関係ありません。


仮面夫婦【3】


 派遣社員の迫田真緒にとって、派遣先であ

る病院の幹部から問題を指摘される事は致

命的であり萎縮した。

 派遣社員にとって、ミスを犯せば派遣会社

の方へ連絡され交代させられるのは日常茶

飯事だからだ。


 その上、派遣先からのクレームは派遣会社

での評価も下がり、次の派遣先は今よりラン

クの低いところになり、度重なると賃金も下げ

られる。


 『すみません。数日中に解決出来ますので』

 真緒は、小声で言ったあと目を伏せた。

 「状況を聴きたいので、夕方仕事が終わったら、

新館2階の特診室まで来てくれないか」

 『新館2階の特診室?』

 「あー、そうだな、一番奥のリウマチ外来と

して使っている部屋がいいな。それにきみの

立場があるだろうから誰にも気づかれない様

に」

 橋本は、それだけ言うと踵を返して医事課を

出た。


 真緒は午後からの仕事をしながら、今後どう

なるのだろう、いう事ばかり考えていた。






この物語はフィクションです。

実在するものとは一切関係ありません。


仮面夫婦【2】



 直樹は目的の喫茶店に入ると、いつも指定

席にしている席に体を沈めた。

 オーダーしたアメリカンをブラックで口にした時、

先ほどの二人連れも、喫茶店に入って来て金魚

が気持ちよく泳いでいる水槽で隔てられた直樹

が座る横の席に座った。


 聞き耳を立てるまでもなく二人のひそひそ話が

直樹の耳に届いた。

 「うまくいったじゃないか」

 「うまくいったって?」

 「あの女が、おまえの部屋まで書類を持ってくるん

じゃねえかよ」
 「別に、あの女(ひと)が言ったように郵送でも良か

ったけど、どうせ遅れているのだから」

 「何を言っているんだよ。あいつが部屋に来たら、

引きずり込んでやっちまえよ」

 「そんな、いくらなんでも」

 「手続きを忘れた罰だよ。おまえがやらなくても俺

がやってやるぜ」

 「えっ?池田も来るのか」

 「こんなうめえ話を見逃せるかよ。あいつがおまえ

の部屋に来る日には、俺もおまえところに行って待

つさ」


 直樹は、病院に戻ると外来受付カウンターの方へ

行った。

 先ほどの女子事務員は忙しそうに動き回っていた。

 直樹が暫く眺めていると、女子事務員がカルテの

束を抱えて奥の医事課の方へ行った。

 直樹も医事課の方へ向かった。

 女子事務員は、カルテ棚の定位置にカルテをひと

つひとつ戻していた。

 彼女の胸を見ると、迫田真緒と記された名札を付け

ていた。

 「きみ、迫田さんというのかな?」

 『えっ?はい、迫田です』

 迫田真緒は、突然副院長に声をかけられ驚いた表

情で直樹を見つめた。

 「きみは今、患者さんと何かトラブルを起こしていな

いか」

この物語はフィクションです。

実在するものとは一切関係ありません。


仮面夫婦【1】


 橋本直樹は、職員通用口からではなく病院

正面入り口から中に入った。

 入り口の警備員が慌てた様に立ち上がり

 「おはようございます」と、声をかけ頭を下げ

る。

 直樹は、警備員の方に目を向け軽く会釈を

しエレベーターの方へと進んだ。


 直樹は、大阪市北区にそびえ立つ村瀬総合

病院の優秀な整形外科医であるとともに、院

長の娘、倫子の夫であり副院長である。

 直樹に対し病院の内外を問わず、院長の娘

婿だから副院長になれた、と誰一人陰口を叩

く者はいない。


 直樹が副院長になって間もなく、水面下で

準備されていた事務職員が中心となった労組

が立ち上げられた。

 直樹は、その対応を義父である院長から託

され手腕を発揮し、解体に持ち込んだ。

 直樹は、国立京府大学医学部出身であるが

高校時代の同級生で同じ大学の法学部を卒

業して弁護士になっている、坂上、山本の二

人の指導を受け労組を封じ込めた。


 その日、直樹は外来診療がなく、午前中に

病棟回診を済ませた。

 副院長室に戻った直樹は、院内ではなく病

院近くのクラシック音楽の流されている喫茶店

へ行こうと病院から出た。

 直樹に続いて、二人連れの診察を終えた男

二人も病院から出てきた。


 『夏川さま』

 二人を追いかけ、病院の制服を着た女子事

務員が声をかけた。

 二人の男は立ち止まり、女子事務員を見た。

 直樹は、振り返りさりげなく三人の方を見た。

 何かミスを犯したのか、女子事務員が男達

に頭を下げている。

 直樹の知らない女子事務員である。


 労組問題が生じたとき直樹は、付き合ってい

た整形病棟の女子事務員を自分の秘書として

残し、労組の中心となっていた医事課職員を排

し医事課業務を派遣会社に委託した。

 頭を下げ謝っている女子事務員は、派遣会社

から派遣され来ていることになる。

この物語はフィクションで

実在する人物・団体等とは一切関係ありません。


ホスピタリティ・おもてなしの心【61】


 専務の都倉一樹がホテルを離れた後、麻耶は都倉哲也と会う必要

から解放され、支配人としての業務に徹した。

 一樹に直接、裕樹の事を推薦してあるので前向きに進展する筈だか

ら、麻耶は今晩にでも裕樹に連絡を入れようと考えていた。


 夕方になって、麻耶の方から電話するまでもなく相手の方から電話

あった。

 とはいっても、それは裕樹本人ではなく上司である支配人の中垣内

からだ。

    浜田支配人に、岩谷裕樹のことについて耳に入れておきたい

    事がありまして

 『岩谷のこと?岩谷が、どうかしたの?』

    辞める、と言ってきまして

 『辞める?どうして?それで、あなたは止めているんでしょうね』

    本人の意志が固そうなので、提出してきた退職届けを本社に

    送ったところです

 『意志が固いって、どうして?

    次の行き先が決まっていて、それは前いたところに戻るのじゃ

    ないかしら


 麻耶は、中垣内からの電話を切った後、裕樹に電話を入れようかと

考えたが中垣内が言うように、次の行き先が既に決まっているのなら

話しても無駄か、と思いなおした。


 確かに、裕樹が悩んでいて相談を受けたとき話を訊くのが遅れたが

退職届を提出する前に声をかけてほしかった、と不満感を抱いた。

    裕樹、それじゃホテルマンとしてどころか社会人としても失格よ


 後日、麻耶は専務の意向、会社からの内示を受け入れ、ホテル都倉

大阪地区の代表マネージャーに就任した。

                                  《おわり》

この物語はフィクションで

実在する人物・団体等とは一切関係ありません。


ホスピタリティ・おもてなしの心【60】


 専務の都倉一樹は、事務所のパソコンのある机の前に腰を降ろすと

モニターを見ながら操作し始めた。

 麻耶は、自分の席からそれを眺めながら

    本社のデーターベースを呼び出して、人事部の資料を見ている

    のだろう、と思った。

 支配人である麻耶でも、その資料を目にするパスワードは教えられて

いない。


 麻耶の推測が当たっていたのか、一樹は振り向いて言った。

 「彼は、若いですね。どうして彼を推薦するのですか?」

 『彼は、時と場合に応じてお客様にどうすべきかを心得ています』

 一樹は、もう一度モニターに眼を戻したあと

 「確かに彼は我社に入る前に、有名な観光ホテルでの経験を経てい

る様ですが、支配人の職に就くとか、それ以上になるとそれだけでは

ね」

 と、麻耶を見つめながら言った。


 麻耶は、その視線を逸らすことなく

 『わたしたちだって、最初はそういう面では未経験でした。しかし各自

の情熱と努力の積み重ねによって成長してきたのです』と言いながら

一樹の方に歩み寄った。

 一樹は、パソコンモニター上に開かれていたファイルを閉じ

 「二日ほど考えさせてくれ。その場合でも、きみに彼の後見人になって

貰う。そして、彼には無理だと判ると、後はきみにやって貰う」

 と言いながら立ち上がった。