高橋秀之の小説 -11ページ目

高橋秀之の小説

高橋秀之の妄想小説へようこそ。
作品の内容、人物の名前等すべてフィクションです。

この物語はフィクションで

実在する人物・団体等とは一切関係ありません。


ホスピタリティ・おもてなしの心【59】


 どう答えて良いのか戸惑っている麻耶に、一樹の声が突き刺さってきた。

 「浜田支配人には彼は何も?」

 『わたしには何も。部長は、わたしなんかには』

 「そんな事はないでしょう。彼が理想とするようなタイプ、いや、誤解しない

でください。こんな事をいうと僕もセクハラだと言われますな。何もないのな

ら良かった。我社のように女性従業員をメインにしている企業にとって彼の

ような破廉恥な行状は重要問題です」

 『で、部長は、この大阪地区でもその様なことを』

 「勿論です。名前は公表出来ませんがね」

 麻耶は、少し間をおいて答えた。

 『気がつきませんでした』

 そう答えた麻耶の顔を見つめながら、一樹は言った。

 「それでは困りますね」

 『えっ?』

 「確かに、浜田支配人率いる館からは声は上がっていません。しかし本社

としては、浜田支配人には大阪地区を、先にはもっと広範囲の地域の管理

をも御願いしたいと思っているんです」


 『わたしなんかには無理です』

 「そんな事ないでしょう。皮肉なことに、これは哲也も言っていたことです」

 『でも、そういう業務は、やはり男性の方が』

 「いま、その様な人材が確保できないんだ」

 『直ぐには無理かもしれませんが、そういう方向で一人の人物を育てて頂

けませんか』

 「育てる?その人物は、うちの従業員ですか?」

 『西垣内支配人の下にいる、岩谷裕樹です』

 「岩谷裕樹?僕には名前からどんな人物か分かりませんが、まだ若すぎる

でしょう」

この物語はフィクションで

実在する人物・団体等とは一切関係ありません。


ホスピタリティ・おもてなしの心【58】


 翌朝目覚めた麻耶は、気分が優れないのに気づいた。

 就寝前にホテルに電話を入れ、宿直者から何のトラブルもなく稼動し

いる、との確認を取っているので、その店は安心できた。

 翌日、つまり今日の夜の予定について心の隅で気に病んでいた。

 岩谷裕樹の件で、部長の都倉と会わねばならないのだ。

 会えば、彼の目論み通りの事の進展に応じなければならないのだ。

 彼の目論みは、見え見えなのである。

 裕樹のためには仕方がないと、決心したが気は重い。


 麻耶はシャワーを浴びると、気分をすっきりさせ出勤した。

 いつもの様に、本来出勤しなければならない時間より早く出勤してフロント

業務を手伝った。

 一段落すると麻耶は事務所に戻り、本社からの業務連絡のメールに目を

通した。

 その後、本日の宿泊客のデーターを確認する。

 続いて、客室から引き上げられてきているアンケート用紙に目を通した。

 お褒めの言葉を頂いた客には礼状を、クレームの記された客には詫び状を

記した。

 クレームについては、すぐ改善し今後その様な事が無いよう、担当者に手配

した。

 管内で昼食を済ませ一息ついたとき、思わぬ人物が事務所に顔を出した。


 『あっ、専務、おはようございます。お珍しいですね。どうされました?』

 都倉グループの社長の息子で、専務の都倉一樹が不意に訪れた。

 今日麻耶が、会わなければならない都倉哲也の従兄弟になる。


 「早急に調べなければならない事があってね」

 一樹は困り果てたような表情で、そう言うと一息入れた。

 「身内の事で、言いにくいが哲也のことなんだけどね」


 麻耶は、今晩会う人物の名前が専務の口から飛び出し驚いたが、表情が

強張るのを抑え問いかけた。

 『営業部長の?』

 「そう。浜田支配人も知っていることがあれば、教えて貰いたいのだが、彼が

セクハラ、パワハラ行為を行なっているという従業員からの声があってね」

 一樹は、そう言うと麻耶を見つめた。

 麻耶は、自分でもどうしてだかわからなかったが、その視線を逸らせた。

この物語はフィクションで

実在する人物・団体等とは一切関係ありません。


ホスピタリティ・おもてなしの心【57】


 支配人の浜田麻耶が、若いフロントマンやウーマンとともにフロント

カウンターに立つのは、たて込んできたチエックイン客を待たせないた

めだ。

 常連客に気づくと、カウンターからロビーに出て声をかける。

 昼食後のひと時を利用して、その日の宿泊客のデーターに目を通し

以前宿泊された客の名前を頭に叩き込んでおく。

 勿論、一回宿泊したことのある客の顔は、はっきり記憶していないが

チエックインの時に知りえた名前により、顔と頭に入れてあるデーター

を記憶し直す。

 翌朝チエックアウトするまでに機会があれば、声をかけ感謝の意を表

す。


 また、麻耶は若い従業員と一緒にカウンターに立ち、彼らの仕事振り

を、優れた点劣った天を見抜き、特に優れた点を記憶しておく。

 人間誰しも得手不得手はあるが、その不得手に寄って客に不快感を

与えてはいけない。

 麻耶は、一人一人の従業員と二人になったときに、その従業員の長所

を褒める。そのときに、このような点を改善すれば気をつければもっと良く

なると思うよ、と付け加える。


 麻耶は21時過ぎ、チエックイン客も落ち着いたので、宿直者の体調を

確認した後、任せて帰宅した。

この物語はフィクションで

実在する人物・団体等とは一切関係ありません。


ホスピタリティ・おもてなしの心【56】


 麻耶は、以前から目をつけていた会社を訪問して、大阪に出張してくる

社員の宿泊施設として利用して貰える契約をこぎつけ、気分良くホテルに

戻った。

 事務所に入ると、壁の掛け時計に目をやり慌てたようにマスターキィーを

手にして事務所を出た。

 委託会社の手によって、清掃、セットされた客室をくまなく見て回り不具合

のないことを確認した。

 午後3時前に麻耶は、化粧室で化粧を直したあと若いフロントウーマンらと

カウンターに立ち客を受け入れる為にフロントに向かった。


 フロントでは、客の到着を待つ時間を持て余すかのように清水葉月と竹本が

私語に弾んでいた。

 『あなたたち、フロントでの私語は禁物よ。いつお客様がお見えになるか分か

らないのよ』

 麻耶の言葉に、主任の立場の清水葉月はバツの悪そうな表情で小さく頭を

下げた。

 ところが竹本の方は、不服そうな表情をしたあと麻耶の視線から目を逸らせた

この物語はフィクションで

実在する人物・団体等とは一切関係ありません。


ホスピタリティ・おもてなしの心【55】


 裕樹は、22時を少し過ぎると宿直勤務の西垣内に声をかけホテルを出た。

 コンビニで少し買い物をしただけで寮に帰った。


 麻耶は、自宅マンションの前まで戻ると部屋のある三階の方を見上げた。

 明かりは点いていない。

 勿論、裕樹と会う約束はしていない。

 裕樹が来る事を待ってはいないといっても、何か寂しさを感じた。

 部屋に入ると、直ぐに服を脱ぎシャワーを浴びる為浴室に向かう。

 浴室の扉の前まで行くと、ふと立ち止まった。

 今日は、後ろから誰も抱きしめてはくれない。

 後ろを振り返っても、誰もいない。


 翌日麻耶は出勤すると、いつも通りにチエックアウトする客を送り出した後、

事務所で今日宿泊する客のデーターをチエックしていた。

 机の上の電話が着信を告げた。

 『お電話ありがとうございます。ホテル都倉大阪中央の浜田が承ります』

    浜田くんか、丁度良かった。先日の件、決心ついたかね

 『あっ、都倉部長、おはようございます。・・・・・・・・』

    どうした?

 『明日の夜なら都合つけられますが』

    明日?分かった、とりあえず午後そちらに行くよ

 『岩谷の件は、間違いないですよね』

    大丈夫だ

 麻耶は、受話器を降ろしたあと宙を仰いだ。

 暫くすると取り直したように立ち上がり、ロビーに汚れがないか見て回った後

一時間ほどセールスに出かけた。