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高橋秀之の小説

高橋秀之の妄想小説へようこそ。
作品の内容、人物の名前等すべてフィクションです。

この物語はフィクションです。

実在するものとは一切関係ありません。



仮面夫婦【28


 松井は智代と約束した喫茶店で、すっぽかされたかと

考え出すほど待たされた。

 『ごめんごめん、遅くなってしもうたわ』

 「病棟で、容態の急変した患者でも?」

 『違う違う、ここの病院は、師長が師長なら主任も主任

や、申し送りのやり方が下手で、だらだらと』

 智代は、松井の前の席に座るとまくし立てる様に言った。


 「それやったら、再就職先は村瀬の方が良かったのと違

うの?」

 『橋本のいるところなんかに戻りたくないわ。それより橋本

が院長の娘と結婚したなんて、逆玉もええとこやんか』

 「ギャフンと言わしてやりたいと、思っているねん」

 『松井さんが?』

 「俺だけやない。同じ冷や飯を食った医事課のメンバー

と、今でも連絡取り合って作戦練ってる」

 『面白そうやん、それ』

 「下津さんが、仲間に入ってくれるんやたら百人力やけ

ど」


 『橋本をギャフンと言わせるって、わたしは何をすれば良

いの?』

 「橋本が、院長の娘婿で、居れんようにするんや」


この物語はフィクションです。

実在するものとは一切関係ありません。



仮面夫婦【27

 


 ※今は湊病院に勤める松井の前に、以前松井と

   同じく村瀬総合病院に勤めていた看護師の

   下津知代が現れた※


 湊病院の松井和良は、午後の外来診療が終わり

最後の患者も支払いを終え帰ったので集計に取りか

かった。

 そこへ看護師長が、一人の看護師とともに来て

 『医事課のみなさん』と、声をかけた。

 松井だけではなく、その場にいた者全員が師長の

方を見た。

 松井は、師長の横に立っている看護師を見て、

 あれっ?村瀬にいた下津知代さんじゃ、たしか結

婚するって言って退職した、と思った。


 『今日から、病棟で勤務している下津さんです』

 師長が大きな声で紹介した。

 『下津(しもつ)です。よろしくお願いします』

 下津が、自己紹介して頭を下げた。

 医事課の人間が、口々にそれに応えた。

 下津が医事課の者を眺め、松井に気づいたのか

会釈してきた。

 松井は、慌てて会釈を返した。


 松井は集計を終えると、伝票と手提げ金庫を持っ

て2階の経理課に向かった。

 『松井さん』

 経理課の前で、背後から声をかけられた。

 下津知代だ。

 『やはり松井さんだったの?』

 「師長さんが紹介する、下津さんを見てびっくりし

たよ。たしか下津さん結婚するからって辞めたんじゃ」

 『ええ、まあ、』

 下津が触れてほしくなさそうだったので、松井は

それ以上訊くのを止めた。


 『松井さんこそ何なの?村瀬で、良いポストにいた

のに、こんなところに』

 「橋本先生に、医事課全員放りだされたよ」

 『橋本って、整形の?』

 「そうか、下津さんは整形病棟にいたんだな」

 『そうよ、橋本って名前を聞くと気分が悪いわ。

 「橋本先生と、何かあったの?」

 『何もないわよ』

 下津は、慌ててそういうと松井から目を逸らせた。

 「橋本先生も、今じゃ、ただの整形外科医ではなく

副院長やで」

 『橋本が?それはどうしてよ、まあドクターとしての

腕はあったけど』

 「院長の娘と結婚したんや」

 『院長先生の娘と?でも、ちょっと待ってや、彼女は

歯科の南先生と結婚するんじゃなかったの』

 「周りでは、皆そう見とったけどな」

 『その話、もっと詳しく聞きたいわね』

 下津知代は、興味深そうに言った。

この物語はフィクションです。

実在するものとは一切関係ありません。



仮面夫婦【26


 副院長室に戻った直樹は、遅い昼食をとった。

 優美が

 『先生、明日、先生のお宅にお邪魔する事になりま

した』と声をかけてきた。

 「あっ、そうか、よろしく頼むよ」

 『先生は、おられますか』

 「いや、多分いないだろう、その方がきみらも女同

士だけででいいんじゃないか」


 とは、言ったものの直樹は、明日の予定など何も

ない事に気づいた。

 

 昼食を済ませ暫らくした後、病棟回診に出向いた。

 回診を終え、自分の部屋に戻るため一人乗ってい

たエレベーターに一人の看護師が飛び込むように乗

てきた。

 昼の円陣パスをしていた、直樹が初めて目にした

看護師だ。

 彼女は、直樹が乗っていたことに気づき、慌てて

ペコリと頭を下げた。

 「きみは、昼の」と言った後、直樹は既に昼休みに

名札を見て名前rを知っていたが、いま初めて知った

様に言った。

 「石原さん、というのか?」

 『はい、石原亜由美といいます』

 「今年、入ったの?」

 『はい、4月に入り内科病棟にいます』

 「そうか、あっそうだ、明日は土曜日だけど、きみは

休みか?」

 『はい、休みです』

 「きみのような女(こ)は、休みとなればデートに忙し

いのだろうな」

 『そぉーんな事ありませんよ、誰も誘ってくれないし、

島根から出てきたんですけど、行きたいと思うところは

いっぱいあるけど、大阪って一人歩きは怖いような気

がして、どうせ寮でごろごろしていると思います』

 昼休みに見せた、直樹の心を癒す笑顔で言った。


 「じゃぁ、明日、僕とデートしてみるか?」

 『先生とですか?』

 「僕なんかとじゃ否か」

 石原は、笑顔で首を大きく横にふたあと言った。

 『先生は、わたしなんかとで良いのですか』

 「きみの行きたいところ、すべて案内してあげるよ」

この物語はフィクションです。

実在するものとは一切関係ありません。



仮面夫婦【25


 村瀬総合病院は、本館、新館、新新館と、コの字型に

建てられていて、その空間に芝生が敷き詰められた中

庭と呼ばれている場所があった。

 翌日直樹は長引いた午前の外来診察を終え、その中

庭を通かかった。


 そこでは、昼食を終えたナースや医療技術者らが男女

入り混じり休憩時間を円陣パスをして楽しんでいた。

 直樹も、その輪の中に自ら入っていった。

 ちょうどボールを手にしていた、直樹のまだ知らない顔

の看護師が直樹にボールを手渡した。

 「ありがとう」と応え、ボールを受け取った直樹の上げた

パスにより再び円陣パスが始まった。

 休憩時間も終わりにさしかかった頃、誰かが上げたパス

が円陣の真ん中に落ちそうになった。

 直樹は、素早く飛び込み差し出した手でボールを地に

着かせることなくすくい上げた。

 看護師や医療技術者から歓声があがった。

 すぐに起き上がれない直樹の横に、一人の看護師が

近づいて手を差し出した。

 先ほど直樹に、ボールを手渡した若い看護師だ。

 直樹は、自分でパッと跳ね上がるように立ち上がる事

が出来たが、敢えて彼女の手に引かれるようにして立ち

上がった。

 彼女の胸の名札を見た。

 石原と記されていた。

 顔に目を移すと、もし自分が入院患者なら、こんな看護

師に看病されたら癒されるだろうな、と瞬間的に思った程

に可愛い笑顔を向けていた。

この物語はフィクションです。

実在するものとは一切関係ありません。



仮面夫婦【24

 


 直樹は定時に病院を出ると、タクシーを拾って

大融寺近くまで向かった。

 竹内芳樹という元患者が開いてる店を覘く為

だ。

 ちょうど喫茶タイムからスナックタイムに切り替

える時間帯である。

 直樹が店に入ると

 「おや、先生、お珍しい、久しぶりです」と、竹

内がカウンターの中から笑顔で応えた。

 「覚えてくれていたかい」

 直樹がカウンター席に腰を下ろすと、グラスと

ビールを持ってきて竹内が言った。

 「先生のご恩は忘れませんよ。俺のダチも骨

折して他所の病院のヤブに手術をして貰ったが、

後が悪く泣いてますよ、勿論、俺もまだ季節の

変わり目には違和感を感じますけどね」

 「だろうね、しかしそれも追々薄らいでいくさ」

 「俺は、先生に手術して貰えて良かったすよ」


 直樹は、暫らくしてから思い出したように問い

かけた。

 「それはそうと、きみは今でも、あーいう事を

しているのかね」

 「あーいうこと?あー、またいい女があればい

つでも連れて来てくださいよ。手伝わせて貰い

ますよ」

 「最近、池田とかいう男が来たのか?」

 「池田?」

 竹内は、一呼吸入れたあと言葉を続けた。

 「なぁんだ、先生は池田の野郎をご存知で」

 「否、まぁ、ちょっとだけな」 

 「来ましたよ、来ました。あの野郎ときたら、

あいつには似つかない女を連れてきた。否、

女の方が後から来たのかな、でも女は酒を

飲まなかったので眠って貰う事にしたんです

よ」


 直樹は、その女が3年余り前に自分が連

れてきた来た人物と同一人物と気づいてい

ないようなので、その話は切り上げた。