高橋秀之の小説 -4ページ目

高橋秀之の小説

高橋秀之の妄想小説へようこそ。
作品の内容、人物の名前等すべてフィクションです。

この物語はフィクションです。

実在するものとは一切関係ありません。



仮面夫婦【33


 自分たちの立ち話が行き交う人々の通行を妨げている

事に気づいた直樹は、

 「久しぶりに会ったのだから、時間があるなら立ち話で

はなく何処かでお茶でも飲みながら話さないか?」と、

知世に問いかけた。

 『いいわよ、でも、お茶よりも飲みに連れて行ってほしい

わ』

 「よし、分かった。じゃあ行こう」

 直樹は歩き出した。

 知代は後を追うように歩きながら、後ろを振り返り親指と

人差し指でマルを作って示した。

 知代の視線の先には松井が立っていて、小さく頷いた。


 知代は昨夜、松井と話をしている中で村瀬に勤めていて

放り出された事務の面々が、橋本直樹を痛めつける計画

を立てていることを教えられた。

 「何があったか知らないが、下津さんも橋本を怨んでいる

のなら我々の仲間に入らないか」

 『それは出来ないわ、腐っても鯛という言葉があるように、

わたしは腐っても看護師よ、人の体を傷つける仲間になれ

ないわ』

 「下津さん、それは僕らも一緒や、痛めつけるとは橋本が

副院長でいられなくすることや」

 『そうなの、それなら面白そうね』

 松井らの計画に興味を抱いた知代は、今日の午後もまた

松井と会って話をしていた。

 知代と松井が、地下街の喫茶店から出てきた時、偶然に

歩いている直樹を目にして、知代は飛び出し直樹とぶつか

るように仕掛けた。


 「何処へ行く?」

 前を歩く直樹に駆け寄り腕を絡ませた知代に、直樹は

問いかけた。

 『どこでもいいわ、あのときのホテルのラウンジでもいい

わよ』

 「あのときのって?」

 『先生たら、そんな事まで私に言わせるつもり』

 「しかしあそこは、きみにとって不快な場所だろう」

 『それはそうだけど、わたし、あのときの先生とのことが

忘れられないの

 直樹は、知代の顔を見つめながら

 (何か話ができすぎているな)と感じつつも、若い看護師

石原との夢世界を自ら流した後だけに、好みのタイプでは

なかったが知代と戯れるのも悪くはないと思い足を急がせ

た。





この物語はフィクションです。

実在するものとは一切関係ありません。



仮面夫婦【32


 直樹は、遊園地を出たあと予定を急遽変更して、梅田で

亜由美と別れた。

 副院長になるまでは、看護師たちを好きなように弄んでい

た直樹にとって、今日の結果は無様なものだった。

 直樹は、そのまま真っ直ぐ家に帰る気になれず、さりとて

何処へ行くという当てもなく、人込みでごった返している梅田

地下街を歩いた。

 いつもなら進行方向の入り乱れた雑踏の中でも、スイスイ

泳ぐように誰にぶつかる事もなく歩けた直樹だが、その日は

一人の女性とぶつかってしまった。

 「あっ、失礼」

 『ごめんなさい』

 直樹が言葉を発するのと相前後して、相手の女性も謝った。


 直樹は、相手の女性の顔に目を向け驚いた様に言った。

 「きみは、看護師の下津さん。いや、今は結婚してなんとい

う名前かな?」

 『いいえ下津で結構です。今も下津ですから』

 「今でも下津って、きみは婿養子をもらったのか?」

 『離婚したんです』

 「離婚?そういえば、きみは結婚して3年以上経つな。離

したって、ご主人が3年目の浮気でもして腹をたてたとか、

それともきみが浮気をしたとか」

 『失礼ね、どちらでもないわ。先生は、わたしが大切に守

っていたものを力ずくで奪っておいて』

 「そんなことがあったっけ」

 『その傷心が、わたしたち夫婦を破滅させたわ』

 地下街を行き交う人々が、雑踏の中で立ち止まり話して

いるのが通行の邪魔になり迷惑そうに目を向け通り過ぎて

行く。

 

この物語はフィクションです。

実在するものとは一切関係ありません。



仮面夫婦【31


 『わかったわ。わたしの思い過ごしだというのね、高村さんは』

 倫子は、優美の説明に納得したのか、自分の思っていたような

答えを聞きだせなくがっかりしたのか、続く優美の言葉を制した。


 『さぁ、お茶にしましょう。高村さんの為においしいケーキを焼い

たのよ』

 『わたしの為にですか?』

 『だってそうでしょう、わたしの可愛い妹なんですもの』

 『そんな風に意って下さって嬉しいです』

 『だから、これからお姉さんに何でも報告するのよ』


 倫子が夫の秘書とお茶を楽しんでいる頃、橋本直樹は若い看

護師と遊園地に来ていた。

 直樹にとってこういう場所は場違いで、来る気など毛頭もなか

った。

 しかし直樹の手法として、女を物にするときは先ず好きな所に

連れて行くようにしていた。

 今朝、看護師の石原亜由美が開口一番、遊園地に行きたい

と言ったときに、うへーと思ったが

 「はいはい、どこへでもお供しますよ」と答えた。

 童心に帰りメリーゴーラウンドを楽しんでいる亜由美を、直樹

は横目で見ながら

 (そんなに回るものが好きなら、夜は回るベッドのある所で

楽しませてやるさ)と、一人ほくそ笑んでいた。

 

 ところが事態は急転回した。

 「えっ?きみは今日、僕と会う事を主任に言ったのか」

 遊園地内のレストランで休憩しているときに、亜由美が今日

のことを病棟主任に言ったということを口にした。

 「今日の事は誰にも言うなって口止めしておいただろ」

 『先生に誘われたあと、ルンルン気分のわたしに気づいた

主任が、何か良いことがあったの、と訊くものだから』

 「で、主任は何と言ったのだ」

 『石原さんも、それでお決まりね、って。どういう意味なんで

しょうかね?結果を楽しみに待っているわ、ですって』

 (惜しいが、こいつとこれ以上深入りしては駄目だ)

 膝上丈のフレアースカートから伸び出ている亜由美の脚を

眺めながら、直樹は考えた。


この物語はフィクションです。

実在するものとは一切関係ありません。



仮面夫婦【30


 優美の問いかけに

 『そう』と応えた倫子の顔を見て、真顔である事に

気づき畏怖の念を抱いた。

 しかし優美は、倫子が橋本と優美との事を疑って

いるのではないと感じ、意を強くして言った。

 『橋本先生の事をって、何をですか?』

 『彼が父の片腕として、病院で頑張ってくれている

と分かっているけど、帰宅はいつも日付の変わる直

前。最近ふと思うのよ』


 優美は、小首を傾げる様にして尋ねた。

 『どんな風に?』

 『彼が、わたしとよりあなたと一緒にいる時間の方

が長いのじゃないかって』

 『えぇー、そんなことありませんよ。だって、わたしの

お仕事は9時から5時までですし、先生は外来診察、

病棟回診で殆どお部屋には。オペ日にはオペ室に入

られたままなんですよ。ですから、先生の秘書だと

いっても』

 倫子は、優美の顔を見つめ耳を傾けていた。


 『それに先生は、副院長になられてから一般整形

だけでなくスポーツ整形の分野も担当されるように

なり』

 『スポーツ整形?』

 『運動をされる方やスポーツ選手の障害。奥様は

プロ野球の羽谷(はや)選手をご存知ですか?』

 『わたし、野球の方はあんまり、でも名前だけは耳

にしたことあるわ』

 『先月、その羽谷選手を大学の瀬川教授が、村瀬

病院の患者としてではなく、大学の瀬川教授の患者

として、村瀬でオペされたんです』

 『どうして大学の患者さんのオペを、うちの病院で?』

 『大学でなら、羽谷選手の手術といえども順番待ちで

早くて1ヵ月後、ですから教授は週に一度診察に来られ

ている時を利用して村瀬でオペされるのです

 『早くするために、村瀬で』

 『それだけではありませんわ、オペ後のケアを安心し

て任せられる教え子の橋本先生がおられるからなんで

す、だから橋本先生は奥様の元に戻られるのが遅くな

ると思います』

この物語はフィクションです。

実在するものとは一切関係ありません。



仮面夫婦【29


※村瀬総合病院副院長・橋本直樹の秘書の高村優美は、

  直樹の妻・倫子から招かれ家へ。倫子の真意は?※


 土曜日

 高村優実は、倫子に言われた時間通りに直樹の家を訪

ねた。

 『よく来てくださったわね』

 『遠慮無しに厚かましく、お邪魔しました』

 『遠慮なんていらないわよ、さぁ、入って』

 『橋本先生は?』

 『大学時代の友人と会う約束があるとかいって留守なの、

だから、そう固くならないで』


 リビングに通された優美は、

 『何をお持ちして良いか分からず、無難かと思い、お花を

買ってきたんです』と言いながら、来る途中で買ってきた花

束を差し出した。

 『まぁー、きれいな、お花ね。後で生けさせてもらうわ。あ

がとう』


 倫子と優美は倫子の手料理を食しながら、仲の良い姉

妹の様に他愛のない会話に興じた。

 食事を終えると、思い出したように倫子は

 『あっ、そうだわ』と言葉を発し立ち上がり、隣の部屋へ

行き小さな包みを手に戻ってきた。

 『これ、この前、お買い物に行ったときに見つけ、高村

さんに似合うのではと思い買ってきたの、良かったら使っ

て』

 『何ですか?』

 『開けてみて』

 優美は頭を小さく下げ、梅田のデパートの包装紙を開

いた。

 上品な感じのネックレスだ。

 優美の目にも、高価なものであることがわかった。

 『奥様、こんな高価なもの頂けません』

 優美は、慌てて包みを倫子の方に押し戻した。

 『何言っているの、遠慮しないで、今日から二人は姉妹

よ。わたしの方が年上だから姉、姉のいうことは素直に

訊くものよ』

 『本当に、こんな高価なものを頂いて良いのですか?』

 『いいわよ、姉からのプレゼント。その代わり』

 『その代わり?』

 『これからも、今日の様に来て、うちの人の事について

話を聞かせてくれる』

 『えっ、橋本先生のことを?』