高橋秀之の小説 -6ページ目

高橋秀之の小説

高橋秀之の妄想小説へようこそ。
作品の内容、人物の名前等すべてフィクションです。

この物語はフィクションです。

実在するものとは一切関係ありません。



仮面夫婦【23


 橋本直樹が、知っていることを刑事らに教えた日の

3日後、久しぶりに直樹は自宅で倫子と夕食のテーブ

ルについた。

 刑事から倫子に関する事柄を耳にして以来、妻に疑

惑の念を抱いていた。

 昨晩も、直樹のベットに滑り込んできた倫子に対し、

疲れているから、背を向けた。


 食事の途中で倫子が言った。

 『高村さんを、お茶にお招きしてもいいかしら』

 「高村を?どうして」

 『どうしてって、いつも、あなたのお手伝いをしていた

だいているのだし、だめかしら?』

 「だめって、いう事はないさ、ただ急にそんな事を言い

出すから」

 『前々から考えていたのよ。じゃあ決まりね。直樹さ

んから声をかけてくださる』

 「そういう事は、きみから直接彼女に電話するがいい。

ただし無理強いはだめだぞ」


 翌日、直樹が午前中の外来診察、午後の病棟回診を

済ませ副院長室に戻ると、高村優美が言った。

 『お疲れ様でした』と声をかけたあと、

 『先生、実は今日、奥様から家の方へ遊びに来ないか

と、お招きを受けたのですが』

 「迷惑じゃなかったら、うちの奴の話し相手になってやっ

てくれないか、あいつは暇を持て余しているんだろうから」

 『それでは、遠慮なしにお邪魔させて頂きます』

 優美が軽く頭を下げ、その場を離れようとした時

 「但し、二人の関係を悟られない様にな」と、直樹が言っ

た。

この物語はフィクションです。

実在するものとは一切関係ありません。



仮面夫婦【22


 高村優実は、豊中市郊外の閑静な住宅街に立つ

高級マンションに母と二人で住んでいた。

 しかしそこは、優美が自ら契約したり家賃を払って

いるのではなく、すべて橋本直樹が手配したもので

ある。

 とはいえ、家賃は直樹が開いた優美の知らない優

美名義の口座から自動引き落としされており、契約

書類にも直樹の名は一切なく、家賃の高さに注意を

向けられなければ、直樹の影すら見出せない。


 優美は、初めて直樹に抱かれた時に、彼の妻にな

ると考えることはなかったので、彼が院長の娘さん

と結婚したときも何のショックもなかった。

 その後、母が病気になり費用がかさむ様になった時、

事務系の職員が全員切られるとの噂が流れ優美は困

惑した。

 しかし、その直後、事前に直樹から何の話もなかった

が、優美に整形外科病棟事務から副院長秘書への異

動の辞令が出た。



 新しい職場を見つけなければ、と思っていた矢先に

降って沸いたように恵まれたポストを与えられ、優美

は今の立場を守り通せねばと考えていた。

この物語はフィクションです。

実在するものとは一切関係ありません。



仮面夫婦【21


 

 「高村さん」

 高村優美が仕事帰りに、大阪駅前の書店に立ち寄り

女性雑誌コーナーで目当ての本を探していると、背後か

ら声をかけられ振り向いた。

 『あら、松井係長』

 「もう、係長なんかじゃないよ」

 松井は、3年前まで村瀬総合病院に医事課係長として

勤めていた男である。


 「通りすがりに似ているなぁと気づき、懐かしく思い声を

かけさせてもらいました。高村さんは、まだ村瀬に?」

 『はい、あの当時は整形外科病棟の事務でしたが、副

院長先生の秘書をさせてもらっています』

 「橋本のね」

 松井は、表情を歪め吐き捨てるように言った。

 そして、すぐに表情を戻すと、問いかけた。

 「高村さん、時間ある?」

 『えっ?』

 優美は、腕時計を目にしたあと

 『少しなら』と答えた。


 松井は、優美を梅田地下街の喫茶店に連れて行き、

サラリーマンの帰宅時で混み合っている店内に空席を

見つけ腰を下ろした。

 『松井係長は、今どちらに?』

 「高村さんは知っているかな、湊病院、村瀬の四分の

一にも満たない小さな病院や」

 『湊病院ですか』

 

 松井は、オーダーしたホットを口にしたあと言った。

 「それにしても、高村さんのような美人と、このように

出来るなんて夢の様や」

 『松井係長って、そんな冗談を言われる方でしたっけ?

奥さんに叱られますよ』

 「女房にとは別れました、逃げられたんです」

 『えっ?』

 「ちょうど子供が高校へ進学し、金がたくさんいる時

に村瀬を追い出され、湊には請われて入ったんじゃな

くて、頼み込んで入れてもらい給料も半減したんや、

そうしているうちに女房は子供を連れて」

 『そんなの、ひどいわ、松井係長に責任はないのに』


 「僕は、高村さんのことを好きだったから、あのとき

高村さんが村瀬に残れると耳にして周りの連中は色々

言ってたけど、僕は心から喜んでた」

 『色々言われていたのでしょうね

 「あぁー、あの高村は橋本と怪しいとか」

 『わたしが橋本先生と?先生には奥様がいらっしゃ

るのよ』

 「橋本は、医師としての腕は優秀だったけど、女癖

の方はね。我々事務畑には、あいつに弄ばれたのは

いなかったようだけど、ナースや検査技師、薬剤師の

なかには・・・・、それに女房の方にしても、あいつは

歯科の南先生と結婚するんだと思っていたよ、あの女

も何を考えているのか。あっ、高村さん、ご結婚は?」

 『まだ一人です』

 「恋人とか彼氏は?」

 優美は、手を左右に振りながら

 『そんな男(ひと)いませんよ』と、微笑みながら言っ

た。

 松井は、白くてきれいな歯並びを覗かせる優美の

口元を見ながら言った。

 「村瀬のことを色々聞きたいから、良かったらまた

この様に時間をとってもらえるかな」

この物語はフィクションです。

実在するものとは一切関係ありません。



仮面夫婦【20


 直樹は、河村という刑事の話に乗ってみるのも悪くは

ない、と考えた。

 「僕が実際に妻の姿を見たのは午後5時過ぎで、その

とき妻は、2時間ほど待ったと言っていたので、僕はそ

の聞いたとおり言ったまでで他意はありませんよ」

 「ほぉー、そうですか」

 「それより、あの迫田という事務員の件ですが」

 「我々も、奥さんのことより、そっちの方のことを伺いた

いですな」

 河村は、そう言うと身を乗り出すようにして直樹を見つ

めた。


 直樹は、暫らく宙を仰ぎ思考を巡らせたあと言った。

 「たしか迫田は、その写真の男ではありませんが、連

れと思われる外科の患者の書類の件でトラブルがあった

ようです」

 「トラブルですか?」

 「ええ、彼女が謝罪しているときに、僕がたまたま通り

かかり知りました」

 「その患者の名前は?」

 「それは、否、僕ら医療人には守秘義務があります」

 「これは、殺人事件の捜査なんです。その取り扱いには

配慮しますから」

 直樹は、一呼吸おいてから言った。

 「夏川、夏川圭男だと思います。たしか住所は旭区だっ

かな」

 「旭区?」

 河村は、そう言葉を発したあと西枝の方を見た。

 西枝は頷くと、記録を取っていた手帳を手に部屋から出

て行った。


 河村は、質問を続けた。

 「ところで先生は、その夏川というのと、この池田が連れ

だとどうして分かるのです?」

 「一緒にいるところを見たからです」

 「ご覧になった、目撃されたわけですな」

 「迫田が夏川に謝罪しているときに、その写真の男が横

にいました」

 「横に、つまり一緒にいた訳ですな」

 「その時点では、どういう件なのか理解できていませんで

したが、僕が近くの喫茶店でくつろいでいると、彼らも入って

来ました」

 「この池田が入ってきた訳ですな」

 河村は、池田が写っている写真を指差しながら言った。

  

 直樹は、頷いたあと話を続けた。

 「聞くとは無しに彼らの話し声が耳に入ってきました」

 「ど、どんな話です?」

 「迫田のミスで、夏川という患者に渡す書類が遅れてしま

ってたようですが、迫田は夏川に出来次第郵送すると説明

したようです」

 「郵送を?」

 「夏川は、納得してくれたようですが、写真の男の方が夏

川の家まで持参するように言ったようです」

 「と、いうことは、ガイシャ、否、迫田さんは夏川の家に行っ

た、旭区の夏川の家に行ったということですな。それは、いつ

の事です?」

 「前回、刑事さんたちが帰られた後、医局で確認したら彼女

が殺されたという日の午後、彼女に渡したとのことでした」

 「なるほど、なるほど、それで迫田さんは、奴の罠にはめら

れた。わたしの睨んだとおりです」

 「さすが、刑事さんの読みはすごいですね」

 「いやあ、長年の経験による勘です」

 直樹に、心をくすぐられる様なことを言われ、気を良くしたか

のように続けていった。

 「いやぁ、どうもどうも、先生、ご協力ありがとうございました。

感謝いたします。あっ、奥さんのことは、わたしたち何も聞かな

かった見なかった事にします。勿論、他言はしません。それに

ですな、写真を見てもらえば分かりますが、奥さんは自分の

意思で歩かれているのではないようです。多分、薬か何かで

・・・・」

 河村は、来たときとは打って変わった表情で帰っていった。


この物語はフィクションです。

実在するものとは一切関係ありません。



仮面夫婦【19】


 優美と一緒に副院長室に戻ると、先日の刑事らがいた。

 直樹は、優美に席を外させたあと、彼らに言った。

 「あなた方でしたか、今日はどうされました?いや、事務員

を殺した犯人は捕まりましたかと、尋ねるべきですかね」

 直樹は、無関心を装って彼らに言った。

 

 直樹と同年代の西枝という刑事が

 「先生、嘘を言われちゃ困りますね」と、挑発するかのように

言った。

 「嘘を言った?何ですか、藪から棒に、僕が何を嘘を言った

というのだ」

 「あんたも、奥さんも嘘の証言をしたんだ。奥さんは、あの日

3時半頃には病院には来ていなかっただろう、二人とも偽証罪

で引っ張ることもできるんですよ」

 「偽証罪?冗談を言ってもらっては困るね、わたしも妻も宣誓

をしていないのでね」

 「ほぉー、誰かの入れ知恵か」

 「友人の中には弁護士も多くいるさ、反対にこっちの方から

あんた方を訴えることもできますよ。だいたい嘘を言っている

と何を証拠に吠えているんだ」


 「まあまあ、先生、落ち着いてゆっくり話をしましょうや」

 河村という刑事が二人の中に割って入った。

 「じゃあ、これを見ていただけますか」

 河村は、上着のポケットから一枚の写真を取り出し、直樹に

示した。

 直樹は、その写真を手に取り眺めると、目が釘付けになった。

 ラブホテルの廊下と思われるところを、妻の倫子が男に抱き

かかえられるように歩いている。

 「これは、先生もお分かりだと思いますが、ラブホテルの防犯

カメラの映像です。女性は奥さんですよね、」

 直樹は、無表情で黙っていた。

 河村は、人差し指で写真に記されている数字を示し言った。

 「これは、その時の時刻です。※月※日15時30分です。

だから、3時半に奥さんが病院にいたというのは嘘です」

 河村は、直樹を見つめた。

 直樹は、その視線を逸らし宙を仰いだ。

 「しかしね、先生、我々も先生と同じく、ここに写っている内容

は気に食わんのです」

 そう言う河村に、直樹は視線を向けた。

 「この前、先生に言いましたやろ、我々は迫田真緒さん殺しの

ヤマ、そのホシを追っているんです。しかし、まだ、何の手がか

りもありまへん。しかし、我々は日頃から性犯罪歴のある男とし

て、その写真の男をマークしていて、今回のヤマも奴がらみと

睨み、前日にあった事件で奴の身柄を確保しました。そして

別件の事より本件の取り調べをする予定でしたが、こんな写真

が出てきて別件でも身柄を拘束できず釈放しました、我々の

勇み足でした。そこでね、先生、協定を結びませんか」

 「協定?」

 「わたしはね、先生、先生は迫田真緒さんの事について何か

知っていると睨んでいるんです。図星でしょう」

 河村は、そう言って、直樹の顔を覗き込むように見つめた。

 直樹は、河村の問いかけを無視した。

 「先生、わたしは、その写真は見なかった、知らないと、きれ

さっぱり忘れますわ。その代わりというとなんですけど、先生

の知っていること、迫田真緒さんのこと教えて貰えませんか」

 河村の横で、西枝は直樹の顔を見つめていた。

 「どうでっしゃろ?我々が、その写真について調べ回ったら、

こんな大病院の副院長先生の御宅で波風がたつのと違いま

すか。この病院内を調べ回ったら大騒ぎになりますよ。あっ、

そうそう、今日はじめて知りましたが、先生の奥さんは院長

先生の娘さんだそうで・・・・」