この物語はフィクションです。
実在するものとは一切関係ありません。
仮面夫婦【19】
優美と一緒に副院長室に戻ると、先日の刑事らがいた。
直樹は、優美に席を外させたあと、彼らに言った。
「あなた方でしたか、今日はどうされました?いや、事務員
を殺した犯人は捕まりましたかと、尋ねるべきですかね」
直樹は、無関心を装って彼らに言った。
直樹と同年代の西枝という刑事が
「先生、嘘を言われちゃ困りますね」と、挑発するかのように
言った。
「嘘を言った?何ですか、藪から棒に、僕が何を嘘を言った
というのだ」
「あんたも、奥さんも嘘の証言をしたんだ。奥さんは、あの日
3時半頃には病院には来ていなかっただろう、二人とも偽証罪
で引っ張ることもできるんですよ」
「偽証罪?冗談を言ってもらっては困るね、わたしも妻も宣誓
をしていないのでね」
「ほぉー、誰かの入れ知恵か」
「友人の中には弁護士も多くいるさ、反対にこっちの方から
あんた方を訴えることもできますよ。だいたい嘘を言っている
と何を証拠に吠えているんだ」
「まあまあ、先生、落ち着いてゆっくり話をしましょうや」
河村という刑事が二人の中に割って入った。
「じゃあ、これを見ていただけますか」
河村は、上着のポケットから一枚の写真を取り出し、直樹に
示した。
直樹は、その写真を手に取り眺めると、目が釘付けになった。
ラブホテルの廊下と思われるところを、妻の倫子が男に抱き
かかえられるように歩いている。
「これは、先生もお分かりだと思いますが、ラブホテルの防犯
カメラの映像です。女性は奥さんですよね、」
直樹は、無表情で黙っていた。
河村は、人差し指で写真に記されている数字を示し言った。
「これは、その時の時刻です。※月※日15時30分です。
だから、3時半に奥さんが病院にいたというのは嘘です」
河村は、直樹を見つめた。
直樹は、その視線を逸らし宙を仰いだ。
「しかしね、先生、我々も先生と同じく、ここに写っている内容
は気に食わんのです」
そう言う河村に、直樹は視線を向けた。
「この前、先生に言いましたやろ、我々は迫田真緒さん殺しの
ヤマ、そのホシを追っているんです。しかし、まだ、何の手がか
りもありまへん。しかし、我々は日頃から性犯罪歴のある男とし
て、その写真の男をマークしていて、今回のヤマも奴がらみと
睨み、前日にあった事件で奴の身柄を確保しました。そして
別件の事より本件の取り調べをする予定でしたが、こんな写真
が出てきて別件でも身柄を拘束できず釈放しました、我々の
勇み足でした。そこでね、先生、協定を結びませんか」
「協定?」
「わたしはね、先生、先生は迫田真緒さんの事について何か
知っていると睨んでいるんです。図星でしょう」
河村は、そう言って、直樹の顔を覗き込むように見つめた。
直樹は、河村の問いかけを無視した。
「先生、わたしは、その写真は見なかった、知らないと、きれ
いさっぱり忘れますわ。その代わりというとなんですけど、先生
の知っていること、迫田真緒さんのこと教えて貰えませんか」
河村の横で、西枝は直樹の顔を見つめていた。
「どうでっしゃろ?我々が、その写真について調べ回ったら、
こんな大病院の副院長先生の御宅で波風がたつのと違いま
すか。この病院内を調べ回ったら大騒ぎになりますよ。あっ、
そうそう、今日はじめて知りましたが、先生の奥さんは院長
先生の娘さんだそうで・・・・」