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高橋秀之の小説

高橋秀之の妄想小説へようこそ。
作品の内容、人物の名前等すべてフィクションです。

この物語はフィクションで

実在する人物・団体等とは一切関係ありません。


ホスピタリティ・おもてなしの心【23】


 唐沢志穂のいる役員室を田島と真鍋千鶴が去った後、メイドの須川茜が

訊ねて来た。

 『あら、茜さん珍しいわね。こんなところにわたしを訪ねて来てくれるなん

て、どうしたの?』

 志穂は、笑顔で茜を快く迎えた。

 須川茜は、このホテルに勤めて15年になる中堅社員である。

 『わたし、辞めさせていただきたいと思って』

 『辞める?どうして?わたしより先輩であり年上の茜さんに、こんな事を言う

のは生意気かも知れないけど、茜さんご主人と離婚され子育てを一人でされ

てるんでしょう。お金がいるでしょう。辞めてやっていけるの?それともどこか

もっと収入の良いホテルを見つけてあるとか』

 茜は、少し間を取って答えた。

 『違うんです。わたし今のリーダーとはもうやっていけません』

 『茜さんの班のリーダーって、藤野さんだったわね。藤野さんの事については

色々耳に入ってくるけど、どうなのかしら?茜さんは藤野さんと上手くやってく

れているんだと思っていたけど』

 『わたしは、常に班の中で,否このホテルの中で一番下と考え勤めてきました

から』

『そうだったの。あなたのつらい気持ちを打ち明けてくださってありがとう。須川

さんの物の考え方って立派ね。わたしも見習わなければ』

 『女将さんは、その様なことをしなくても』

 『ううん、わたしはお客様にも働いて下さっている従業員の人たちにも仕えな

ければと思っているの』

 唐沢志穂は、首を横に振った後そう言った。

 『藤野さんの事は、何とかするから、須川さんは頑張って頂戴』

 志穂は、そう言って茜を送り出した。

この物語はフィクションで

実在する人物・団体等とは一切関係ありません。


ホスピタリティ・おもてなしの心【22】


 田島は、役員室から出ると真鍋千鶴に問いかけた。

 「俺たちは、どうする?」

 『どうするって、辞めると決めたのだから、あの人が何を言おうと辞めるわよ』

 千鶴は、田島に目を向けることなく前を見たままきっぱりと言った。

    俺は、やはり山川係長の言った通り千鶴にひきずられているのか?

 田島は、千鶴の横顔を見つめながら、そう思い、そしてもう一つ問いかけた。

 「ここを辞めてどうする?」

 『そうね、都会へ行こうよ。岩谷くんや中村さんを訪ねて』

 千鶴は、そう言った後、前を指し

 『えっ?あっ!』と言った。

 田島が、千鶴の発する意味不明の言葉に前を見ると、いま千鶴が言っていた

岩谷が前から歩いてきたのだ。

 「岩谷」

 「田島、どうしたのだ?」

 「命の恩人、中村さんのお墓参りに来たのさ」

 「墓参り?なんだ、それ、彼女がまるで死んだみたいに言って」

 『そうよ、まるで裕美さんが亡くなったみたいに言って。それに命の恩人だなん

て』

 岩谷は、二人から矢継ぎ早に放たれる質問に整然と答えた。

 「実は、僕は腎不全になり、移植しか助かる術がなくなり困り果てているときに

彼女は腎臓を一つ僕に恵んでくれたんだ。そして僕は今もこの様に元気に生きて

いる」

 「へえー、知らなかったな」

 田島は、そう言った後、千鶴を見つめ

 「真鍋は、僕がそうなったとき腎臓をくれるのかな?」と訊いた。

 千鶴は即

 『無理無理、そんな怖い事わたしにはできないわよ。えっ、彼女は中村さんは

岩谷くんに腎臓を提供して亡くなったの?』と、田島の顔を見た後、岩谷の顔を

覗き込むように見て言った。

 「違うよ、彼女が元気に退院した後、信号待ちしているところに車が突っ込んで

来て事故死だよ」

 『むごい!彼女が可哀想過ぎる。でも、彼女の腎臓、岩谷くんの体の中で生き

ているのよね』


 岩谷と田島、そして真鍋の三人は場所をホテル近くの喫茶店に移し話し始めた

 「岩谷、いま真鍋と話していたところなんだ。大阪へ行こう、岩谷の所へ行こうって」

 田島が、そう言うと横で千鶴も頷いた。

 「どうして?」

 岩谷が、不思議そうに訊ねると、千鶴が

 『わたしたち、いまホテルを辞めてきたのよ。マニュアル通りに徹してやってても

報われないわ』

 「マニュアル通りにね」

 『なに?その言い方』

 「マニュアル通りにする事は、勿論大切だけど、俺たちには、それ以上のものが

求められるような気がしてさ」

 岩谷の言い草に、千鶴はふくれっ面をしてみせる。

 田島にいたっては、彼女の前で良い所を見せなくては的に

 「なんだ岩谷、来るなり俺たちに喧嘩を売る気かよ」と拳を握って見せた。

 「田島、落ち着けよ。俺たちホテルマンは、マニュアル通りの振る舞いだけでは

駄目で、常に相手の立場にたって考え行動する必要があるんだ」

 『岩谷君って、そういう人だった?』

 横から千鶴が口を挟んだ。

 「いや、俺なんかまだまださ。でも、お腹の中の腎臓が僕にそうさせようとする

んだ。元の持ち主がそうであっただけに」

 岩谷は、そう言ったあと宙を仰いだ。

この物語はフィクションで

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ホスピタリティ・おもてなしの心【21】


 震災以降、客足が遠のきホテルの運営が厳しくなったときの唐沢志穂の

発言に感銘を受け、女将を助けよう、と立ち上がったパート従業員の中から

も音をあげる声が出た。

 『女将さん、またキャンセルの襲撃だなんて、この先どうなるの』

 志穂は、その呟きに微笑みながら

 『大丈夫よ。頑張りましょう。ここは海と温泉の町よ、台風一過の週末から

晴れるっていうし、何よりも23日からメッセージ花火が始まるし、月末には

恒例の花火大会ある。忙しくなるわよ』と答えた。


 フロント係の田島と真鍋千鶴のカップルが、係長の山川に退職したい意向を告げ

てきた。

 「辞める?どうしてだ。いまのご時勢じゃ、何処へ行っても同じだぞ」

 「ここにいても、つまらないから」

 「つまらないか。しかし田島、たしかおまえは、こんな仕事が好きだと言って入って

入って来たのじゃなかったのか」

 山川は、田島を見つめた。田島は、その視線を逸らせた。

 山川は、田島の横にいる真鍋に目を向け

 「真鍋は、どうなんだ。田島が辞めるのなら自分もということなのか?」と、問いか

けた。

 真鍋は首を横に振り

 『言い出したのは、わたしです』と答えた。

 「なんだ、男が女にひきずらてか」

 山川の、その言い回しに二人は不快感を露わにし見つめた。


 田島と真鍋の退職届は、山川から総務課に回され、二人の意向が唐沢志穂の

耳にも届いた。

 志穂は、二人に自分のところまで来るように総務課長に告げさせた。

 役員室に、志穂を訪ね二人が来た。

 『辞めるんだって?わたしは、あなたたちが就職してきた時から知っている』

 志穂は、そこで一呼吸入れて二人を見つめた。

 二人が就職してフロントに配属されてきたときには、志穂は単なるフロント係の

主任だった。

 それが女将になり、今では社長同然の立場である。

 『わたしjは、ホテルがどんなに苦しくなっても、従業員の雇用に手をつけるのは

最後の最後だと思っている。しかし、自らの意思で辞めるという人を留めないわ。

でも、一回だけチャンスをあげる。考え直せないの?』


この物語はフィクションで

実在する人物・団体等とは一切関係ありません。


ホスピタリティ・おもてなしの心【20】


 ホテル・ブルービーチ白浜の会議室で、新社長の唐沢志穂を軸に夏休みの

客の受け入れの対応について話し合われていた。

 『みなさんご存知のように、ゴールデンウイーク以降、金、土、日と一定の数

のお客様は確保は出来ていますが、平日は減ったままです。この夏休みに来

て下さったお客様を心からおもてなして気持ちよくお帰り頂く様にしたいと思い

ます』

 「でも今年はついてないですよ。初っ端から台風の見舞われそうです」

 唐沢は、発言したフロント係長に目を向け尋ねた。

 『こっちへ来るのかしら?』

 「直角に進路変更して、紀伊半島に向かって来るそうです」

 『仕方がないわね』


 18日の海の日にはイベントがホールで開かれ賑わっていたが

 天気予報通りに、台風6号は進んで来て7月19日からキャンセルが出始めた。

 

この物語はフィクションで

実在する人物・団体等とは一切関係ありません。


ホスピタリティ・おもてなしの心【19】


 ホテル都倉大阪中央、

 フロントカウンター裏の事務所で、支配人の浜田麻耶と都倉哲也本社営業部長、

に加わって、休日に麻耶を訪ねてきた岩谷裕樹が話し合っていた。

 「大阪の状況はどうかね?岩谷くん」

 都倉が、そう言いながら裕樹に視線を向ける。

 その視線に戸惑いを見せながら、裕樹は恐る恐る尋ねる。

 「僕の様なペーペーの言葉に耳を傾けていただけるのですか」

 「勿論だよ、きみは貴重な戦力であり、きみのようにお客さんの立場にたった観点

で物事を見る者の意見こそ重要だよ」


 裕樹は、都倉部長の言葉に気を良くしたかのように口を開いた。

 「あの震災以降外国人のお客様が皆無に等しいです」

 『そうよね、うちのホテルに皆無というのではなく訪日外国人の方が皆無と言って

もいいのじゃないかしら』

 裕樹の発言に同調するように、麻耶が口を挟む。

 都倉は、二人の顔を眺めながら頷いた後

 「成田での入国者そのものが減っているね」と言って宙を仰いだ。

 『チエーンといっても、うちのホテルだけで打開するのは難しいですよね』

 麻耶が、そう言うと裕樹が思いついたように

 「部長、うちのホテルチエーンの従業員慰安旅行を被災地方面に行ってはどう

なんですか。そして、それをマスコミに取材して貰うのですよ。日本は安心な所

だとアピールするために」と一気に喋った。

 「う~ん、それも策の一つとして良いだろう。どうせ慰安旅行を取りやめるわけ

にはいかないから」