この物語はフィクションで
実在する人物・団体等とは一切関係ありません。
ホスピタリティ・おもてなしの心【18】
総務課長が手を挙げ、美津枝に問いかけた。
「女将のポストは今まで通り、唐沢さんだと分かりましたが、後継者というか
代表者は?」
『あなたは、何を訊いていたのですか?勿論、所有者は何れ戻ってくる息子
の昭夫になりますが、ホテルの運営は全て唐沢さんに任せます』
「と、いうことは社長は?」
長谷川は、総務課長の口から自分の事に関する言葉が出てきたので、思わ
ず美津枝を見た。
『長谷川さんは、社長のポストではなくなります。女将の唐沢さんを応援して
いこうと思うのなら、残って助けてあげて頂戴。やめようと思われるのならやめて
くださっても構いません』
美津枝は、そこで一旦言葉を切り長谷川を見た。
長谷川は、その視線を逸らし宙を仰いだ。
美津枝は、会場内を眺め回したあと言葉を続けた。
『他のみなさんも同じです。唐沢さんを盛り立てていこうと思う人は、残って
頑張って頂戴』
説明会が終わった後、大野香織は長谷川を見つめ問いかけた。
『オーナー婦人のいう通りよね。唐沢さんに任せるのなら彼女がやりやすい
体制にしてあげなけりゃ』
長谷川が答える前に、営業部長の中沢圭吾が近寄ってきて長谷川に声を
かけた。
「意外な結果が出たな。長谷川社長はどうするのかね?」
「もう社長じゃないさ、俺もまだ子供に一番金がかかる時期でね。いまここを
やめても過去の栄光に見合うポストを確保できるような社会情勢ではない」
長谷川は、そこで一呼吸入れた後
「きみの方こそ、どうするつもりなんだい?つい先日まで唐沢に噛み付いて
いた筈だが」
中沢は、手で頭を撫でながら
「どうだい、久しぶりに一杯飲みながら相談しないか」
二人の話を横で聞いていた大野香織は
『どちらかといえば、個人的には仲が良くなかった方たちが、休戦してタッグ
を組もうというの?』と言って、二人の顔を見つめた。
「大野係長、きみも一緒に来いよ」