この物語はフィクションで
実在する人物・団体等とは一切関係ありません。
ホスピタリティ・おもてなしの心【31】
志穂の発した言葉が図星だったのか、気まずいような重苦しい沈黙の
時間が生じた。
まずい、これから大事な契約だというのに。言葉を発する前に配慮
が足りなかったわ
志穂が、この雰囲気をどう修復しようか、と考えている間に幹事と打ち合
わせ場所になっている、先方の事務所に着いた。
案内された会議室に入ると、中沢が聞かされていた時間前であるがメン
バー既に席に着いていた。
「遅くなって申し訳ありません」
中沢が、素早く言いながら頭を下げた。
横で志穂も倣った。
「いやいや、まだ、お約束の時間前ですよ中沢さん。で、こちらの方は?」
先方の代表格の人物が、そう言って、志穂のことを中沢に訊ねた。
「紹介させていただきます、山岡さん、女将の唐沢でございます」
中沢が、山岡と呼んだ人物だけでなく、その席の全員が志穂を見た。
『ご挨拶が遅れまして。ホテル・ブルービーチ白浜の女将、唐沢志穂で
ございます。この度は、わたしどものホテルをご用命賜りありがとうございま
す』
志穂は、そう言ったあと深ぶかと頭を下げた。
山岡が、志穂を見つめながら
「あなたが、女将さん、お若くて綺麗。ただ、まだお宅のホテルにと決めた
訳ではありません。女将さんの腕次第です」と、言った。
『心得ております。お決まりのおもてなしではなく、お客様のニーズに沿っ
た形でおもてなしさせて頂きます』
志穂は、誠心誠意ホテルの説明をした。
その場での説明も底をついた頃、中沢が
「近くの料理屋で、山岡さんとの一席を手配してあります」と、志穂に耳打ち
した。
会議室での説明会を終え、中沢の説明通りに、場所を移し山岡と志穂、中
沢だけになった。
上座に座る山岡に、志穂は
『ご希望に副えるよう努力致しますのでよろしくお願い致します』と、声をか
けたあと、山岡の横に移り酌をした。
山岡は、その志穂の手をグラスを持たない方の手で握り
「あなたの様な若い女将を応援しないとね」と、言った。
『ありがとうございます。山岡さまの様なお方に応援して頂くと心強いですわ』
志穂は、そう言いながら山岡の手に空いた手を添えた後、すり抜けるように
両手を抜いた。
すると山岡は、空いた手をスカートの裾からはみ出した志穂の膝の上に置いた。
ストッキング越しに、男の手のぬくもりが伝わってくる。
まずい。何とかしなければ。この人が手を動かせばスカートの中に滑り込ん
でくる。でも、ここは、二人きりではない
志穂は、チラッと中沢の方を見た。
中沢は、横目でこの情景を楽しみながら見ているかの様に志穂は感じた。