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高橋秀之の小説

高橋秀之の妄想小説へようこそ。
作品の内容、人物の名前等すべてフィクションです。

この物語はフィクションで

実在する人物・団体等とは一切関係ありません。


ホスピタリティ・おもてなしの心【33】


 岩谷裕樹は、ホテル都倉大阪中央へ研修として派遣された。

 ホテル都倉チエーンとして、何かあったときに即戦力としてどこのホテルでも

活躍出来る様に養成しておくためである。

 「想像以上に、客足が安定していますね」

 裕樹は、自分の配属場所であるホテル都倉大阪北の稼動状況も含め、震災

直後落ちた客足が持ち直している事を、支配人の浜田麻耶に言った。

 『そうね。関西の方は助かっているけど、関東の方は原発問題の影響をもろに

受け都倉チエーンでも東京の方は大変そうよ』

 「そうなんだ。じゃあ、関東の仲間達は頑張っているんですね」

 『都倉哲也営業部長が、率先して頑張っているそうよ。だから、それに倣って

みんなが頑張っている』

 裕樹は、麻耶からの情報を聴き

 「恵まれている僕達は、感謝の意を込めてお客様に何かお返ししなければ」と

呟くように言った。

麻耶は、横目で裕樹を見ながら笑みを浮かべた。


 裕樹は、本来ならば今日公休日であったが、全員が一日ずつ公休出勤して予

想より増えた客に対応している関係で出勤している。

 白浜の唐沢志穂には、この休日を利用して前日から行って会う約束していたが

連絡することなく流れてしまった。

この物語はフィクションで

実在する人物・団体等とは一切関係ありません。


ホスピタリティ・おもてなしの心【32】


 「女将のホテルを利用したならば、女将のおもてなしとはどういうものなの

かな」

 山岡は、志穂の顔を覗き込むようにして問いかけた。

 『幹事であられる山岡様に、恥をかかせるような事は致しませんわ』

 「女将が、何かサービスしてくれるのかね」

 『わたしが?わたしは不調法ですので、ホテルからのサービスで何人かの

コンパニオンをつけさせていただきます』

 「当日、コンパニオンをね。う~ん。まあ当日はそれで良いだろう。しかし、

ねえ女将、今日日(きようび)どこのホテルでも最初は、その様なことをして

してくれるんだよ」

 志穂の膝の上の山岡の手に力が入った。

    ほら、おいでなさった。男性って、すぐこうなのよね


 『山岡さま、幹事様にとって事前の事より、当日お集まりの皆様にご満足

頂ける方がよろしいでしょう』

 志穂は、そう言って膝の上の山岡の手を両手で握り持ち上げ、微笑み

ながら山岡を見つめた。

 「上手い事言って、上手にかわすね、女将。まあ、中沢君も横にいる事だ

から、まあ、これからもあるから良いか」

    この方、あまりしつこくないのね。良かった


 志穂は、頷いて山岡の手を握っている手に力を入れた。

この物語はフィクションで

実在する人物・団体等とは一切関係ありません。


ホスピタリティ・おもてなしの心【31】


 志穂の発した言葉が図星だったのか、気まずいような重苦しい沈黙の

時間が生じた。

    まずい、これから大事な契約だというのに。言葉を発する前に配慮

    が足りなかったわ


 志穂が、この雰囲気をどう修復しようか、と考えている間に幹事と打ち合

わせ場所になっている、先方の事務所に着いた。

 案内された会議室に入ると、中沢が聞かされていた時間前であるがメン

バー既に席に着いていた。

 「遅くなって申し訳ありません」

 中沢が、素早く言いながら頭を下げた。

 横で志穂も倣った。

 「いやいや、まだ、お約束の時間前ですよ中沢さん。で、こちらの方は?」

 先方の代表格の人物が、そう言って、志穂のことを中沢に訊ねた。

 「紹介させていただきます、山岡さん、女将の唐沢でございます」

 中沢が、山岡と呼んだ人物だけでなく、その席の全員が志穂を見た。

 『ご挨拶が遅れまして。ホテル・ブルービーチ白浜の女将、唐沢志穂で

ございます。この度は、わたしどものホテルをご用命賜りありがとうございま

す』

 志穂は、そう言ったあと深ぶかと頭を下げた。


 山岡が、志穂を見つめながら

 「あなたが、女将さん、お若くて綺麗。ただ、まだお宅のホテルにと決めた

訳ではありません。女将さんの腕次第です」と、言った。

 『心得ております。お決まりのおもてなしではなく、お客様のニーズに沿っ

た形でおもてなしさせて頂きます』

 志穂は、誠心誠意ホテルの説明をした。

 その場での説明も底をついた頃、中沢が

 「近くの料理屋で、山岡さんとの一席を手配してあります」と、志穂に耳打ち

した。


 会議室での説明会を終え、中沢の説明通りに、場所を移し山岡と志穂、中

沢だけになった。

 上座に座る山岡に、志穂は

 『ご希望に副えるよう努力致しますのでよろしくお願い致します』と、声をか

けたあと、山岡の横に移り酌をした。

 山岡は、その志穂の手をグラスを持たない方の手で握り

 「あなたの様な若い女将を応援しないとね」と、言った。

 『ありがとうございます。山岡さまの様なお方に応援して頂くと心強いですわ』

 志穂は、そう言いながら山岡の手に空いた手を添えた後、すり抜けるように

両手を抜いた。

 すると山岡は、空いた手をスカートの裾からはみ出した志穂の膝の上に置いた。

 ストッキング越しに、男の手のぬくもりが伝わってくる。

    まずい。何とかしなければ。この人が手を動かせばスカートの中に滑り込ん

    でくる。でも、ここは、二人きりではない


 志穂は、チラッと中沢の方を見た。

 中沢は、横目でこの情景を楽しみながら見ているかの様に志穂は感じた。



この物語はフィクションで

実在する人物・団体等とは一切関係ありません。


ホスピタリティ・おもてなしの心【30】


 8月2日、火曜日、白良浜は海水浴客で賑わっていた。

 ホテル・ブルービーチ白浜のロビーは、チエックアウトして海水浴に行く

人、滞在客で海水浴に行く人、また帰る人でごった返していた。


 午後のミーティングを終えた後、志穂は井田支配人を呼んで

 『わたし、夕方から中沢部長と、9月にお泊り頂く団体さんとの打ち合わ

せに出かけますから、後をよろしくお願いするわ』と、不在になる事を告げ

た。

 「ほおー、9月にお泊りくださる団体さんと。ありがたいですな、それは」

 『そうなのよ。10月からは農協さんや、年金組合さんなどの団体や慰安

旅行の予約を確保できているのだけど、9月中旬の話は助かるわよ』


 午後4時過ぎ、志穂は中沢の運転する車の樹種席に乗り込んだ。

 車は、紀伊田辺インターから高速道路に入った。

 「女将、いや唐沢くんをこの様に車に乗せ走るのは初めてだな」

 『そうですね』

 「ところで、長谷川とは、もう切れているの?」

     えっ、このおじさん急に何を言い出すの。むかつくわ。あっ、がまん

     がまん、中沢のおかげで団体客を確保できるのだから

 

 志穂は、苛立ちを隠してまっすぐ前を見詰めていた。

 「僕は、唐沢くんがフロント主任だった頃から、いや唐沢さんがフロント係に入っ

て来たときから注目していたんだよ。それが長谷川とね」

    何を言いたいの、それってセクハラ

 「なあ、今回の話が決まれば僕と組まないか?」

 『組むって?』

 「二人でホテルをやっていこうって事さ」

 『ホテルって、一人や二人ではやっていけないわ』

 「だから、二人でその牽引車になろうっていっているのじゃないか」

    ここで断れば、これから進め様としている契約も流れるのか?


 『お訪ねしますけど。もし、あのとき奥寺の女将さんが社長の座を長谷川さんから

中沢さんにって言っていたら、女将は誰になっていたのでしょう?』

 「勿論、唐沢くん、きみだよ」

 『そうかしら?東京のエージェントに勤めておられた、お嬢さんが帰ってきておられ

るそうですね。そのお嬢さんを女将にって考えておられると聞いたような』

 志穂は、横目で運転席の中沢を見た。

 中沢は、志穂の言葉に答えることなく無言でハンドルを握っていた。

 『黙っているのはビンゴだからでしょう』

この物語はフィクションで

実在する人物・団体等とは一切関係ありません。


ホスピタリティ・おもてなしの心【29】


 車が今何処を突っ走っているのか分からなかったが、志穂は車内で見ず

知らずの男達に弄ばれながら

    殺される事はない。この状態じゃ抵抗は無理、と考えながら過去の

    事を思い出した。


    数年前わたしは、人を使って中村裕美さんを襲わせた。本人に告白

    して誤ったが、いま実際に自分も同じように襲われて、あのとき彼女

    が受けた恐怖感、屈辱感、苦痛というものを現実味を帯びて理解で

    きた。


 どれぐらい時間が経過したのだろうか、野獣たちは欲情を遂げ志穂を車

から放り出し解放した。

 志穂は放心状態で周囲を見ると、見慣れた風景の白良浜の近くだ。

 とりあえず、他人の手を借りることなく、知ったものに出くわすことなく自分

の車に戻る事が出来、家に戻った。

 直ぐに浴室に向かい、色んな意味での汚れを洗い流した。


 翌日、志穂は何事も無かったかのようにホテルに出て、昨日の事を忘れる

程に仕事に没頭した。

 一息つくために、役員室で自分の椅子に腰を降ろすと、昨日あの車の中で

思ったことを、もう一度考えてみた。

    自分が、その立場になってみて、本当にその人の気持ちが分かる


    お客様をおもてなすのにも、同じ事が言えるのではないだろうか

    こちら側で勝手に準備したマニュアル通りの、おもてなしで本当にすべての

    お客様に満足して貰えるのだろうか


    個々のお客様が好みによって、取捨選択できるようなパターンを常に自分達

    の頭の中に描いておかなければ・・・・・競争に勝てない


 独りその様な事を黙想していると、机の上の電話のベルがなった。

 『はい、唐沢です』

    女将、中沢です

 『中沢部長、お疲れ様です』

    先日の県ですが、8月2日の火曜日に決まりました。

 『8月2日、火曜日ですね。分かりました。わたし、どういう服装で伺えばよろしいの

でしょう?和服?』

    いやいや、女将、洋服で結構ですよ。4時過ぎには出たいと思いますので