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高橋秀之の小説

高橋秀之の妄想小説へようこそ。
作品の内容、人物の名前等すべてフィクションです。

この物語はフィクションで

実在する人物・団体等とは一切関係ありません。


ホスピタリティ・おもてなしの心【38】


 裕樹は、都倉哲也に続いて浜田麻耶が駆け足でホテル帝都グランド大阪に

入ったのを見て

    浜田支配人が、今日は予定がある、と言ったのはこういうことか

 と気づき、その場から離れた。


 裕樹の心に何か虚しい気持ちが生じ、このまま寮になっているマンションに

帰る気になれず、北新地に向かった。

 北新地といっても、高級な店ではなく御堂筋側入り口近くのビル地下にある

裕樹が大阪に出て来たころ、知り合ったホテルマン仲間に連れて行って貰った

兎我野町にあったラウンジが移ってきていた。


高橋秀之の小説-北新地

 案内されて席に着いた裕樹が、誰か指名されますか、と問いかけられ、以前

席についてくれた子の名前を告げたが、今はもういない、と言われた。

 そのとき、一人の客が同席しても良いか、と声をかけてきた。

 「長谷川社長」

 「いまは社長ではないんだ。営業で大阪に来ていてね」

 長谷川は、一週間余り前、裕樹がホテルブルービーチ白浜を訪問した事を知

らないようだ。

 「大阪のホテル業界も、市内は元気なようだね」

 「長谷川さんのホテルの方はどうですか?」

 「まあ、お陰でさんで夏休みの間は客の確保は出来ているけどね。いま一番

元気なのは九州だよ。放射能から離れているし新幹線が出来たからね」

 長谷川は、裕樹にそういうと何かを考えるように宙を仰いだ。

この物語はフィクションで

実在する人物・団体等とは一切関係ありません。


ホスピタリティ・おもてなしの心【37】


 岩谷裕樹は、ホテル都倉大阪中央の従業員出口から出ると、まるで夢遊病者

の様にふらふらと地下鉄の駅に向かって歩き出した。


 裕樹は、支配人の浜田麻耶に何かを求めていたわけではない。

 ただ、いま自分の心に引っかかっているものを聞いて貰いたい気がしていた。


 裕樹は今、唐沢志穂と浜田麻耶との間をふらついていた。

 二人の女性の間をふらついているというのではなく、自分の一生の仕事場として、

都会のビジネスホテルに勤めるか、観光地の温泉旅館的なホテルに勤めるか、迷

っているのだ。


 白浜の唐沢志穂は、自分を必要として呼び求めてくれている。

 ホテル都倉グループでは、自分を必要としてくれているのだろうか、という事を志穂

に訊ねてみたかった。


 勿論、当然のこととして、お腹の中の腎臓は、

    自分の進むべき道は、自分自身が冷静にゆっくり判断して決めるべき、と助言

    している。


 裕樹は、寮として貸与されているワンルームマンションに帰る途中、ホテル帝都

グランド大阪の前を通りかかった。

 中村裕美が、以前勤めていたホテルだ。

 裕樹が、そのホテルの玄関を眺めていると、一台のタクシーが滑り込むように着いた。

 そこから一人の男性が降り、急いでいるのであろうか風のようにホテル内に消えた。

     都倉部長だ。そうか今晩部長は、大阪に泊っているのだ


 裕樹は、都倉哲也に胸の内を聞いて貰おうと考え、ホテルに向かって歩き出した。

 続いて何台かのタクシーが、ホテルの玄関に入って行った。

 その内の一台のタクシーから降りホテルに駆け込む女性を見て、ホテルに入るべく

足を進めていた裕樹の動きはピタッと止まった。


    浜田支配人!


この物語はフィクションで

実在する人物・団体等とは一切関係ありません。


ホスピタリティ・おもてなしの心【36】


 予約客全てのチエックイン手続きが終了し、浜田麻耶はフロントカウンター内の

時計を眺めた。

    9時半か、今日はスムーズに事が進んでいるわね


 麻耶は、当直者のホテルウーマンにカウンターを任せ、事務所に入った。

 そこへ建物外部からの従業員通用口から、岩谷裕樹が入ってきた。

 外部からは、社員証ナンバーを読み取らせパスワードを入力する事によって、開

錠され入室できる。

 『あら、岩谷くん、まだいたの?』

 「あっ、浜田支配人、お疲れ様です。ちょっと忘れ物しちゃって」

 裕樹は、いつものように人懐っこい表情で麻耶を見た後、事務所横の新しく造られ

た男性更衣室に駆け込んだ。

 

 ホテル都倉チエーンは、女性従業員だけでの運営をキャッチフレーズにスタート

していたので、裕樹の様なホテルマンのために各ホテルに男性更衣室が増設され

ている。


 更衣室から事務所に戻って来た裕樹が、直ぐに事務所から出て行こうとせずに

壁に掲げられた予定表のボードを見つめている。

 『どうしたの、まだ帰らないの?』

 麻耶が、裕樹を見つめ問いかけた。

 裕樹は、その視線を捉え

 「浜田支配人は、まだ帰られないのですか?」と訊いた。


 『わたし?そうね』

 麻耶は、そう言いながら壁の時計を眺め

 『わたしも、彼女達に後を任せようかな』と、呟くように言った。

 「それじゃ、どこかで呑むか食事しませんか」

 『えっ、岩谷くんと?』

 「僕が相手じゃもの足りませんか?」

 『そんな事無いわよ。ただ今日は少ししなければならない事があるので』


 麻耶は、裕樹に誘いの言葉をかけられたとき、脳裏に都倉哲也のことが浮かび

あがった。

 否フロント業務が一段落したときから、心は都倉哲也の方に傾いていた。

 

 麻耶は、裕樹の誘いをかわした時、以前都倉哲也との打ち合わせ場所に助けに

来るように裕樹に頼んだことを思い出していた。

    今日のわたしは、何かが違う


 以前の、いや本来の麻耶ならば、裕樹の誘いをこれ幸いに

    部下から、相談を持ちかけられて、と都倉の方へ行くのをキャンセルしていた

    だろう


 麻耶は、自分自身でも、そう考えながら

    岩谷くんの様な若い子よりも、都倉の様な年上の男性と時間を過ごしたい、と

 感じていた。


 麻耶は、自分を見つめる裕樹の視線を避けながら

 『それとも、何か相談か話があるのかしら?』と訊いた。

 裕樹は、声を発することなく、何か言いたいような表情をして見せた。


 麻耶は、もし、いま裕樹が自分の直接の部下なら、このまま裕樹とどこかへ行って

裕樹の心の内を覗いたかも知れない。

 しかし、いま裕樹は、このホテル都倉大阪中央へ応援に来ているだけで数日後に

は自分の属している大阪北へ戻るか、大阪南へ応援に行く。

 『何か話があるのなら、明日にでも聞くわ。それでいい?』

 麻耶は、そう言うと帰り支度を始めた。

この物語はフィクションで

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ホスピタリティ・おもてなしの心【35】


 都倉哲也にとって、岩谷裕樹という思いがけない邪魔者の出現によって

慌てて麻耶の手を放し、パソコンのモニターに目を移した。


    なんだ、またこいつか!今日はいつになくうまい具合に話が進み

    これからだ、というときに


 「日本政府も、原発事故を起因とする被害を救済することに決めたらしい

な。そしてそれを東電に請求するそうだ。あの事故によって閑古鳥が鳴いて

いる観光地や宿泊施設も含まれるのだろう」

 都倉は、あたかもいま支配人の浜田麻耶とその様な話をしていた、と言わんば

かりにそう言って麻耶を見つめた。

 麻耶は、その視線を逸らし

 『うちのホテルの該当する施設も保証されるのかしら?』と、都倉の話に合わせ

問いかけた。


 「風評被害も含まれるという話もあるが、実際どうなるのか」

 都倉は、そう答え邪魔者の裕樹を見た。


 書類キャビネットの中から探し物を見つけ出した裕樹は

 「風評被害といえば、外国から見ると日本全体が被害者ですけどね」と、言葉を

残しフロントの方へ戻った。


 都倉は、裕樹が出て行ったドアーが閉じられるのを確認したあと

 「遅くなるといっても、10時にはホテルを出る事ができるだろう」、と、麻耶の顔を

見つめながら訊いた。

 『ええ、遅くともその時間には』

 「jじゃあ、宿舎のラウンジで待っているよ」

 『そんな遅くにですか?危ないですね』

 「何を言っているんだ、まだ宵の口だ、それに仕事の話だ、勘違いするな。必ず

着てくれなくちゃ困るんだよ」

 麻耶は、どういうわけか都倉の言葉に、小さく頷いた。

この物語はフィクションで

実在する人物・団体等とは一切関係ありません。


ホスピタリティ・おもてなしの心【34】


 午後になって、不意に営業部長の都倉哲也がホテル都倉大阪中央に

顔をだした。


 『部長、突然どうなさったんですか?関東地区の客足で落ち込んでいる

ホテルの対応にお忙しいでしょうに』

 支配人の浜田麻耶が、驚きの声を上げた。


 「あー、あっちは大変な状況だ。でも、頑張ってくれている西日本の連中

の労を労う為に、今日の大阪を皮切りに近畿地区、西日本を回ろうと思っ

ている。僕の本来の担当は西日本だからね」

 『大きく日本を、西と東に分け西は部長、東は社長の息子さんでしたね。

で、実際のところどうなんです、あちらの方は?』

 「被災地そのものではない東京でも原発事故問題の影響が出ているね。

ビジネスのお客様でも、東京方面への出張は控えさせている会社なんか

があるようだ」

 『まあ、外国からのお客様もそろそろ回復かというニュースもあるという

のに』

 麻耶は、そう言って事務所壁に吊るされたホワイトボードを見つめた。


 「大阪の三つのホテルは夏休みに入って好調なようだね」

 都倉は、事務所にあるパソコンを操作してモニターに映し出された予約

状況を見ながらニンマリした。

 『おかげさまで。いま部長が仰ったように東京方面を敬遠されてでしょう

か、予想外にビジネスのお客様が多いですし、観光客や神戸の方に宿を

取れなかった高校野球観戦のお客様もいらっしゃいます』


 「そうか、それは良かった。これも、浜田くんが頑張ってくれているからの

成果だ」

 『いいえ、部長の宣伝による成果ですわ。ボツボツ結果が現れてきている

ようです』

 「どうだね浜田くん、僕は今日あと二つのホテルを回った後、大阪で一泊

し、明日大阪を出る。今晩一緒に飯でも食わないか」

 都倉は、そう言いながら横に立つ麻耶の手をとった。

 「ありがとうございます。でも今日は、仕事でホテルを抜けれるのが遅く

なりますから」

 麻耶は、そう言って都倉を見つめたが、いつものように都倉に握られた

手を振り解こうとはしなかった。


 都倉は、それに気を良くしたかのように

 「僕の話も、きみの労を労うだけでなく今後のことに関する打ち合わせと

いう仕事だ」と言ったかと思うと、手に力を入れ麻耶を引き寄せようとした。


 そのとき事務所のドアが開き、岩谷裕樹が入ってきた。