この物語はフィクションで
実在する人物・団体等とは一切関係ありません。
ホスピタリティ・おもてなしの心【43】
レストランでの朝食営業が終了し後片付けも終わったとき、汗を拭いながら
責任者の大野香織が志穂の所に駆け寄ってきた。
『女将さん、ありがとうございました。助かりました』
『香織さんたちこそ、毎日ご苦労様』
志穂は、笑顔で香織を見つめ答えた。
『若い子達が、感動していました』
『何をですか?』
『女将さんが、他所の女将さんの様に司令塔として上から目線でガミガミ言う
だけの方(かた)でなく一緒に現場で率先して自分達の手本の様に動いてくださ
るって』
『女将と言ったって、わたしも香織さんたちと同じ従業員ですよ』
志穂は、そこで一息入れた後、言葉を続けた。
『それより香織さん、そんな事を大きな声で言っていたら、他所の女将さんたちの
耳に入り睨まれますよ』
『ううん、わたしはここのホテルでの経験しかありませんけど、わたしより若い子
でも何ヶ所か渡り歩いている子達がいて、彼女らがそう言っているもの』
志穂は、香織を見つめながら少し間をおいた後
『香織さん、近いうちに、その若い人たちと集まって飲まない?』と問いかけた。
『彼女達とですか?でも来るかな』
香織は、そう言って宙を仰いだ。
『あら、どうして?』
『女将さんも、若いといっても失礼ですけど30代になられましたよね。彼女らに
とって30代というのはおばさんですよ。話が合わないといって敬遠すると思います』
『ふ~ん。そういうものなの?』
『でも、女将さんが声をかけてくだされば、また違った意味で集まるかも』
そう言うと香織は、まだ少し遣り残している事があるから、と頭を下げその場を離れた。