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高橋秀之の小説

高橋秀之の妄想小説へようこそ。
作品の内容、人物の名前等すべてフィクションです。

この物語はフィクションで

実在する人物・団体等とは一切関係ありません。


ホスピタリティ・おもてなしの心【43】


 レストランでの朝食営業が終了し後片付けも終わったとき、汗を拭いながら

責任者の大野香織が志穂の所に駆け寄ってきた。


 『女将さん、ありがとうございました。助かりました』

 『香織さんたちこそ、毎日ご苦労様』

 志穂は、笑顔で香織を見つめ答えた。


 『若い子達が、感動していました』

 『何をですか?』

 『女将さんが、他所の女将さんの様に司令塔として上から目線でガミガミ言う

だけの方(かた)でなく一緒に現場で率先して自分達の手本の様に動いてくださ

るって』

 『女将と言ったって、わたしも香織さんたちと同じ従業員ですよ』

 志穂は、そこで一息入れた後、言葉を続けた。

 『それより香織さん、そんな事を大きな声で言っていたら、他所の女将さんたちの

耳に入り睨まれますよ』


 『ううん、わたしはここのホテルでの経験しかありませんけど、わたしより若い子

でも何ヶ所か渡り歩いている子達がいて、彼女らがそう言っているもの』

 志穂は、香織を見つめながら少し間をおいた後

 『香織さん、近いうちに、その若い人たちと集まって飲まない?』と問いかけた。

 『彼女達とですか?でも来るかな』

 香織は、そう言って宙を仰いだ。

 『あら、どうして?』

 『女将さんも、若いといっても失礼ですけど30代になられましたよね。彼女らに

とって30代というのはおばさんですよ。話が合わないといって敬遠すると思います』

 『ふ~ん。そういうものなの?』

 『でも、女将さんが声をかけてくだされば、また違った意味で集まるかも』

 そう言うと香織は、まだ少し遣り残している事があるから、と頭を下げその場を離れた。

この物語はフィクションで

実在する人物・団体等とは一切関係ありません。


ホスピタリティ・おもてなしの心【42】


 ホテルブルービーチ白浜の女将、唐沢志穂は出勤すると朝食会場の状況を

見るために、足早にレストランに向かった。


 夏休みだけあって家族連れの客が多い。

 食事を終えた二組の、就学前と思われる子供と父親に立て続けにすれ違った。

 『おはようございます。ありがとうございます』

 志穂は、すれ違う度、当然の事として立ち止まり笑顔で声をかけ頭を下げた。


 一組目の父親は無反応で通り過ごした。

 二組目の父親は、少し照れるような表情で

 「おはようございます」と、言葉を返した。

 すると、横を歩いている幼子が父親の真似をするかのように

 「おはようございます」と、挨拶を交わす。


 志穂は、その子を見つめ、もう一度笑顔で

 『おはようございます』と声をかけた。


 志穂は勿論、ホテルの女将として、ホテルに勤める者として、返礼を求め挨拶

しているのではない。

 心から、宿泊して下さったことへの、このホテルを利用して下さったことへの感謝

の気持ちから、心地よくホテルで過ごして頂こうと声をかけている。


 朝食会場のレストランは、ごった返していた。

 志穂は、すぐ手を洗いエプロンを着けホール係の仕事を手伝った。

この物語はフィクションで

実在する人物・団体等とは一切関係ありません。


ホスピタリティ・おもてなしの心【41】


 翌日裕樹は、フロントカウンターで仕事が一段落したとき、昨日長谷川から

投げかけられた問いについて一人考えていた。


 このホテル都倉グループの宿泊料金は、他のホテルより少し安い。

 しかし、安かろう悪かろうでは話にならず、客足は遠のいてしまう。

 ビジネスで宿泊してくれたお客さんに、流れ作業的な対応ではなく心から

お客様の立場にたった対応をし続けるのならば、プライベートでも利用して

頂けるのだ、という結論に達した。


 支配人の浜田麻耶が出勤してきた。

 『おはよう』

 「あっ、支配人、おはようございます

 裕樹は、昨夜ホテル帝都グランドの前で見かけた事などおくびにも出さず

いつもの様に挨拶を交わした。

 麻耶は、いつもの笑顔を見せた後

 『昨日は、ごめんね。岩谷くん、わたしに何か話があったのじゃない?』と、

裕樹に問いかけた。

 「否、もういいです」

 『ん?もう、いいっていうことは、やはりあったんだ。今晩なら、付き合えるけ

ど。岩谷くんが応援にきてくれているのも、後もう少しだから』

 裕樹は、そう言う麻耶の顔を見つめながら

    浜田支配人は、あれから都倉部長とどうしたのだろう?、と考えていた。


 麻耶は、裕樹の考えていることなど露知らず、裕樹の視線に笑顔を向けて

いた。


この物語はフィクションで

実在する人物・団体等とは一切関係ありません。


ホスピタリティ・おもてなしの心【40】


 裕樹は、長谷川の顔を見ながら

 「ブルービーチ白浜も、やり方次第で、業績がまだまだ伸びる余地はあり

ますよ」とグラスを手にして言った。

 「やり方次第?どんな方法なんだね?」

 「あの地域のホテルにとって、温泉、海、景色や新鮮な魚介類、条件は皆

同じです。設備は千差万別ですが極端な差はないでしょう」

 「まあ、そうだな」

 「だから、そこで働く人間に優秀な人材が要るのです」

 「それが、きみだとでも言うのかい?」

 長谷川は、裕樹のグラスにビールを注ぎながら訊いた。


 裕樹は、手を左右に振りながら

 「僕なんかは、まだまだ。例えば以前いた中村裕美さんのような人です」

    なんだ、また、あの女の話か

 「岩谷くんとか、言ったけな。まあ、総論ではきみの話にも納得できるが、

各論ではな。きみもまだ若い」

 「えっ?」

 「中村裕美とやらが、どんなに抜きん出たホテルウーマンだったか俺は

知らない。ホテルにそんなスーパースターが一人いても仕方がない。先日

うちのホテルの評価について、ネット上の書き込みを見ていたら、予約係の

対応について二つの意見が書き込まれていた。はっきり言って、一人の

事を書いているのではない」

 「どういうことですか?」

 「俺が、スーパースターが一人いても仕方がない、という意味は、例えば

予約係のAは客から良い評価を受けているが、Bは客に不快な思いを与え

ている」

 裕樹は、頷きながら長谷川の言葉に耳を傾けていた。


 「ホテルはチーム作業だ。見たところ、きみはホテルマンとして並以上の

ものを兼ね備えているだろう。もしきみが、そのAだったとしよう。しかしきみ

とて365日仕事をできないだろう。休みの日はどうなる」

この物語はフィクションで

実在する人物・団体等とは一切関係ありません。


ホスピタリティ・おもてなしの心【39】


 ホテルブルービーチ白浜の唐沢志穂は、客室から回収されてきたチエッックア

ウトした客が書き記してくれたアンケート用紙に目を通していた。


 実際に自分のホテルに宿泊して下さったお客さんの、率直な意見でホテルの

現状を教えられ改善に生かすことが出来る。


    フロントの対応が悪いというニュアンスの意見が気になるわね


 志穂は、そう呟きながら机の上の電話でフロントに電話し

 『唐沢だけど、山川係長に来てもらって』と山川を呼んだ。


 暫くして、ノックと共にドアが開きフロント係長の山川が顔を覗かせた。

 『山川係長、こちらに来てこれを見てくれないかしら』

 「おはようございます。拝見します」

 山川は、以前は部下であった志穂に媚をうるようにして、アンケート用紙の束を

手に取る。


 山川がアンケート用紙の束の上から4枚ほど読み終えたとき、志穂は

 『フロントの不手際の指摘が多いように思えるけど』と言って、山川を見つめた。

 山川は、その視線を捉え

    こうやって見ると、確かに良い顔をしているよな、と考え、先日写真週刊誌

    に、いま光輝く女性、ホテルの女将、と題して志穂のことが掲載されていた

    のを思い出しながら

 「申し訳ございません」と答えた。


 『責任者として、気をつけて貰わなければ困るわ』

    何が困るわ、だよ。おまえがフロント主任の時には、係長の俺がどんなに

    注意しても応え応じたか?えっ、唐沢くん

 「心得ております。ただ」

 『ただ何なの?わたしとあなたの間で何の遠慮があるの、はっきり言って』

    わたしとあなたの間?そういえば、この女、俺の女房の姉婿である長谷川

    と切れている筈だし、俺も50を前にしてこのホテルを辞めると他に仕事も

    難しいな、ここでこの女と密接になれば将来は安泰か


 「女将もご存知のように震災時に、人減らしをしたままで夏休みにお客様が増え

フロントはてんてこ舞いです」

 『確かにそうね』

 「一度、女将に時間をとって頂いて、色々相談したいのですが」

 山川は、そう言って志穂を見つめた。