この物語はフィクションで
実在する人物・団体等とは一切関係ありません。
ホスピタリティ・おもてなしの心【48】
『そんなの駄目よ』
麻耶は、子供に諭すようにやんわり言いながらも力強く裕樹を押し放した。
『断っておくけど、昨日も、それより以前も、岩谷くんが想像しているような
ことはないわよ。でもショックだわね、あなたがわたしをそんな風に見ていた
なんて』
麻耶は、そう言って裕樹を見つめた。
裕樹は、その視線から目を逸らし、しかし力強く言った。
「そ、そんなの、支配人、麻耶さんが悪いんです。僕のことを無視して部長
と、あんな時間にあのような場所で会っているのですから、想像もします」
『わたしは、そんな軽い女じゃないわ。それより早くシャワーを浴びさせて』
麻耶は、そう言いながら浴室の方へ足を向けた。
裕樹は、後ろから麻耶に抱きつき胸を鷲づかみにした。
『いや』
顔を裕樹の方に向けた、麻耶の唇を裕樹は口で塞いだ。
二人は、ベッドに横たわっていた。
裕樹は、添乗を見つめ呟くように言い、麻耶は裕樹の横顔を見つめ訊いて
いる。
「僕は、不安なんです。迷っているんです」
『何が不安なの?何を迷っているの?』
「以前いた白浜のホテルの女将に戻ってこないかって」
『それで、戻るの?今日この様になってしまったけれど、あなたを無理に
縛らないわ』
そう言うと、麻耶は裕樹に体を寄せた。
裕樹は、それに応えるように再び麻耶を抱きしめた。
「僕は、麻耶さんと離れたくない。でも、ここのホテルでは、女性体制だから
いつまで経っても、どんなに頑張っても今のままの状態です」
『確かにそうね。白浜のホテルじゃ、あなたの様に出来の良い子は、上が
馬鹿じゃない限り相応しいポストまで上っていけるんでしょうね』
麻耶は、そう言うと天井を見つめ何か考え出した。