高橋秀之の小説 -13ページ目

高橋秀之の小説

高橋秀之の妄想小説へようこそ。
作品の内容、人物の名前等すべてフィクションです。

この物語はフィクションで

実在する人物・団体等とは一切関係ありません。


ホスピタリティ・おもてなしの心【53】


 再び笑みを浮かべ、勝ち誇ったように麻耶を見つめる都倉に対し

 『わたしは常々、ホテルマンとしての、ホテル経営者としての部長の才覚や

センスに尊敬の念を抱いていますが、部長の頭の中はそれだけじゃなさそう

ですね』と言いながら、麻耶は壁の時計に目をやり立ち上がった。

 「僕は、ただ綺麗な花を見れば綺麗と率直に感じるだけだ」

 『綺麗な花?』

 「きみの事だよ。断っておくけど、これはセクハラなんかじゃないぞ。会社の

人事に、きみの私的感情が入り込んでいないか見るためだ」

 『わたしは、上司として岩谷のことも竹本のことも日々公平に観察しておりま

す。その上で、ホテルの為を考え提案しているだけです』

 「そうかな、三十路になり慌てて若いツバメに入れあげているって事はないか?

で、どうする踏み絵の方は?」

 『にさん日考えさせてください』

 麻耶は、そう答えると会釈してフロントカウンターの方に向かった。


 前日までのホテル都倉大阪中央を終え、大阪北での業務に戻りカウンター

に立っていた裕樹の前に一人の女性が立った。

 「いらっ、女将さん」

 ホテルブルービーチ白浜の女将、唐沢志穂は、素早く裕樹にウインクすると

 『今晩、お部屋空いていないかしら?』と、面識のない一見客を装った。

 「暫く、お待ちくださいませ」

 裕樹は、言葉を発するのと同時にモニター画面を見ながらキーボードを叩い

た。

 「お客様、禁煙シングルなら、一部屋ご用意できますが」

 『じゃあ、御願いします』

 志穂は、裕樹の顔を見つめ答えた。

この物語はフィクションで

実在する人物・団体等とは一切関係ありません。


ホスピタリティ・おもてなしの心【52】


 「きみ、まさか、きみのいう人物とは、あの岩谷じゃないだろうな」

 都倉は、不愉快そうに問い質した。

 『そうです』

 「駄目だ奴は」

 吐き捨てるように言った都倉の言葉に臆することなく、麻耶は詰め寄った。

 『どうしてなんです?』

 「きみも知っての通り、うちのホテルは女性従業員のみで立ち上げ、女性

目線での行き届いたおもてなしで好評を得て成長してきた」


 『しかし昨年春以来、各ホテルに男性が一人ずつ配属されました。あれは

部長の発案だと窺っております』

 「そうだが」

 『まさか、ただ単に力仕事をさせようと配置したわけではないでしょう』

 「あたりまえだ。しかし、そのポストに男性を据えるのなら、奴より今きみの

下にいる竹本の方が相応しいだろう。そう思わないか?

 『確かに彼は大卒で、専門学校を出ています。彼のことを否定はしません

が、岩谷の方がより相応しい、と考えます』

 「奇妙な話だ」

 『奇妙?』

 「だってそうだろう、どうして岩谷に固執する。奴と関係があるのか?」

 『また何を仰るのかと思ったら』と言いながら

 麻耶は、組んでいる脚を組み替えた。

 都倉の視線が、また麻耶の脚に向けられた。

 『彼は、わたしよりも8才年下ですよ』

 「きみの好みじゃないのか。じゃあ訊くが、何故に岩谷を上にあげようと

する」

 『彼のことだけではありません。ホテルウーマンとして入社してきた女性も

ホテルの方針に惹かれ館(やかた)のトップを目指すのではないでしょうか?

男性なら尚更です。折角確保した戦力の彼らにとって、将来性がなければ

腰を落ち着けてお客様のおもてなしに専念できないのではないでしょうか』


 都倉は、首を横に振りながら

 「きみは、上手くかわしたつもりだろうが、きみと岩谷に対する疑念は捨て

きれないよ」と言って麻耶を見つめた。

 麻耶は、その視線を捉え見つめ返した。


 「じゃあ証拠を見せろよ」

 『証拠?』

 「踏み絵だ」

 『踏み絵?』

 「きみが岩谷と、男と女の関係じゃないというのなら僕の腕の中に飛び

込んで来いよ」

 『わたしが部長に抱かれろ、と仰るのですか?』

 「岩谷のポストは、直ぐにでも保証するよ」

この物語はフィクションで

実在する人物・団体等とは一切関係ありません。


ホスピタリティ・おもてなしの心【51】


 四日後、裕樹のホテル都倉大阪中央での研修も前日で終わり、彼の所属

する職場に戻った。

 宿泊客のまだ到着しない閑散とした時間帯に、麻耶が事務所で書類の整

理をしていると、各地のチエーン店を回っていた営業部長の都倉哲也が、回り

終え大阪に戻って来たのか顔を覗かせた。


 『あっ、部長、お疲れ様です。ちょうど良かったわ、ご相談させて頂きたい事が

あったので』

 「ほお、きみの方から相談とは、嬉しいね」

 都倉は機嫌良くそう言うと、空いていたキャスター付きの椅子に腰を下ろし

麻耶の横まで滑らした。


 『回られた各地の状況は如何でしたか?』

 「僕が担当しているのは西日本だからね。放射能から離れていて、どことも

好成績だよ。特に新幹線の出来た九州の成績は良いね。否、そんな事より、

きみの話を聴こうじゃないの」

 都倉は、身を乗り出すようにして麻耶の顔を見つめた。

 麻耶は、脚を組んだ。

 スカートの裾から、ナチュラルカラーのストッキングに包まれた脚が伸びている。

 都倉の視線が、その脚に注がれた。


 『部長は、大阪地区を統括するポストを考えている、と仰っていましたよね』

 「そのポストに僕は、きみが適任だと考えている。決心してくれたのかね」

 都倉は、笑みを浮かべ舌で唇をなめた。

 『そのポストに、ある人物を、否、今すぐにじゃなくても、そのポストに育て

あげるという方向で一考願えませんか?』

 都倉の表情が、一転して曇った。


この物語はフィクションで

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ホスピタリティ・おもてなしの心【50】


 チエックアウト手続きが全て終了し、フロントロビーもひっそりと静まりかえった。

客室フロアーでは、委託業者の清掃係が奮闘して活躍している。

 人手不足の為、竹本が今晩宿直業務に就くということで一旦退出した。


 麻耶は、パソコンモニターを睨みながら本日チエックインする客のデーターを頭に

叩き込んだ。

 その後、依頼していた店屋物の出前が届いたので、麻耶は裕樹と一緒に事務所

で昼食をとった。

 裕樹が、テーブルの上に麻耶の部屋の鍵を差し出した。

 麻耶は、その鍵を見つめながら

 『今日は何か予定があるの?岩谷くんの将来のことについて話し合いたいので

先に部屋に入って待っていてくれないかな』と、いつになく少し頬を染め言った。

 裕樹は、無言で再び鍵を手に取りポケットに入れた。


 「僕の将来って、支配人は無理しないでください。僕なんかより優秀な竹本さんの

方が優先されるのでしょう」

 『マニュアル通りのことは、一応てきぱき出来ているわね』

 話が部下のことに移り、麻耶は平常心に戻った表情できっぱり言った。

 「一応ですか?」

 『時々、魂そこにあらずっていう風に感じるときがあるわ』

 「魂そこにあらずって?」

 『女の子のことを考えているのじゃないかしら』

 「彼女のことをですか?彼、イケメンだから、もてますよ」

 麻耶は、そう言った裕樹の顔をじっと見つめた。そして言った。

 『岩谷くんが、関係ないって言ったから言うけど、どうやら古谷さんと付き合って

いるようなの』

    えっ、西崎さんとじゃないのか

 「彼、大卒だから、古谷さんは僕なんかより竹本さんを選んだのじゃ」

 『でも、竹本くんは、古谷さんとだけじゃなく西崎さんとも』

 麻耶は、そこで一呼吸をおいたあと

 『その上、どちらともただ単なる付き合いじゃなさそうなのよね。だから心配なの、

今晩、その竹本と小林美咲が当直だから』と言って裕樹を見つめた。

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実在する人物・団体等とは一切関係ありません。


ホスピタリティ・おもてなしの心【49】


 翌朝、麻耶は裕樹より先に部屋を出た。

 出勤時間は、支配人といえども裕樹と同じ時間で良いのだが、麻耶は

習性としてその日出勤してくる誰よりも先に出勤して、宿直者の業務を手

伝う。


 裕樹は、出かける前の麻耶から部屋の鍵を託され戸惑った。

    いやに信頼されたものだな

 裕樹は、朝早く出勤したのにも関わらず裕樹のためにと麻耶が準備して

くれた朝食を、口にしながら部屋を眺め回した。


 裕樹が出勤すると、麻耶はフロントカウンターに宿直者と一緒に立ち

忙しく客の対応に追われていた。

 「おはようございます」

 裕樹は、誰にということなくカウンター内に声をかけた。

 『おはようございます』

 宿直だった二人のホテルウーマンに続き、麻耶もチラッと裕樹の方に

視線を向けた後、何事もなかったかの様にいつも通り挨拶をした。


 昨夜の事は、誰にも気づかれてはいない。

 「おはようございます」

 ホテル都倉大阪中央に、裕樹と同じようにホテルマンとして、この春

から配属されている竹本和行が出勤してきた。

 竹本は手際よく、宿直者の一人、西崎由香がやりかけていた業務を

受け継いだ。

 西崎由香は、目で何か話しかけるような表情で竹本を見た後

 『御願いします』と声をかけ、その場をを譲った。


 竹本は、大卒の後二年間専門学校に通い就職してきた。

 裕樹よりも年上であり、もちろん西崎由香よりも上だろう。

 もう一人の宿直者である、清水葉月と同い年だろう。

 裕樹は、その様なことを考えながら竹本の顔を見つめていた。