この物語はフィクションで
実在する人物・団体等とは一切関係ありません。
ホスピタリティ・おもてなしの心【53】
再び笑みを浮かべ、勝ち誇ったように麻耶を見つめる都倉に対し
『わたしは常々、ホテルマンとしての、ホテル経営者としての部長の才覚や
センスに尊敬の念を抱いていますが、部長の頭の中はそれだけじゃなさそう
ですね』と言いながら、麻耶は壁の時計に目をやり立ち上がった。
「僕は、ただ綺麗な花を見れば綺麗と率直に感じるだけだ」
『綺麗な花?』
「きみの事だよ。断っておくけど、これはセクハラなんかじゃないぞ。会社の
人事に、きみの私的感情が入り込んでいないか見るためだ」
『わたしは、上司として岩谷のことも竹本のことも日々公平に観察しておりま
す。その上で、ホテルの為を考え提案しているだけです』
「そうかな、三十路になり慌てて若いツバメに入れあげているって事はないか?
で、どうする踏み絵の方は?」
『にさん日考えさせてください』
麻耶は、そう答えると会釈してフロントカウンターの方に向かった。
前日までのホテル都倉大阪中央を終え、大阪北での業務に戻りカウンター
に立っていた裕樹の前に一人の女性が立った。
「いらっ、女将さん」
ホテルブルービーチ白浜の女将、唐沢志穂は、素早く裕樹にウインクすると
『今晩、お部屋空いていないかしら?』と、面識のない一見客を装った。
「暫く、お待ちくださいませ」
裕樹は、言葉を発するのと同時にモニター画面を見ながらキーボードを叩い
た。
「お客様、禁煙シングルなら、一部屋ご用意できますが」
『じゃあ、御願いします』
志穂は、裕樹の顔を見つめ答えた。