身勝手な選択【64】 | 高橋秀之の小説

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この物語は

フィクションであり、登場人物等他

実在するものと一切関係ありません。


身勝手な選択【64】


最終章


 数日後、村瀬倫子は南孝太郎の部屋を訪れていた。

 孝太郎に気づかれてはいないが、倫子は心の奥底深くで孝太郎との

結婚話を進めている身でありながら、どういう状況であれ橋本という男

に抱かれたという、負い目を孝太郎に感じていた。


 その負い目を晴らすかのように、孝太郎に対し本来ならば言う気のな

ようなことを口にした。


 『ねえ、あなたの口から田辺のお父さんに言ってくれないかしら』

 「何を?」

 『この前、あなたとご両親の所へ行ったときに思ったんだけど、もっと

小奇麗にしていただきたいわ』

 「この前は、事前に連絡することなく不意に寄ったからな」

 『不意とか、突然とか、そういうことを言っているのじゃないわ。あなた

とわたしが結婚すれば、あの方たちも村瀬の家と親戚になるのよ。日

頃から気をつけて貰わないと』

 孝太郎は、何も答えず俯いた。


 『あっ、そうそう今朝父が何か言っていたけど、いま病院で何か問題

が起こっているの?』

 「あー、医事課の人たちと管理職の間に意思の疎通を欠くところがあ

ってね、そのことに不満を抱いた医事課の人たちが労働組合を作り出

したそうだ」

 『まあー、それで、どうなっているの?』

 「院長が管理職を急遽集め対策を練り、病院の意向通りに動く者を集

め、それに対抗させる労働組合を作らせたんです」

 『父は、あなたに何か言った?』

 「院長から、きみはどう思うって?尋ねられたけど」

 『それで、あなたはどう答えたの?』

 「職員の人たちの声に耳を傾け、受け入れられるところは譲歩して改善

してあげないとこじれてきますよ。看護師や他の医療職の人たちの心も

医事課の人たちの行動に靡いています、と言ったんです」


 『まあー、だから、あなたって駄目なのよ』

 「えっ、?」

 『だって、考えてみて。一度絞ったはずの雑巾を、もう一度強く絞れば

また水が出てくるわ。それと同じように病院の職員にも、もっと働ける余裕

があるわよ』

 「倫子さんて?」

 『何よ、その顔。父はまだ、あなたに対する評価を下げてはいないけど

あなたもわたしと結婚すれば病院運営の一翼を担うのだから、しっかりし

て。で、ないと彼らにあの病院をつぶされてしまうわ』

 倫子は、孝太郎を冷たい表情で見つめた。

                                     <続く>