身勝手な選択【57】 | 高橋秀之の小説

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作品の内容、人物の名前等すべてフィクションです。

この物語は

フィクションであり、登場人物等他

実在するものと一切関係ありません。


身勝手な選択【57】


 橋本直樹は、その日仕事を終えると直ぐに梅田の本屋に向った。

 橋本は、女性に関して熱心であるが、いつの日か病棟師長が橋本

に言った様に、仕事に関しても研究熱心で腕も良く患者から良い評

価を受けている。


 いま、本屋に向おうとしているのも自分の得意とするレパートリーを

増やす為の研究に必要な書籍である。

 和歌山の女刑事を見たときに、ターゲットとする女性のジャンルを増

やすことを目論んだだけの男ではなく、それ以上に仕事熱心である。


 橋本は、今日退院する患者から手渡された花瓶の入った袋を手に

していた。

 橋本は、その袋の中身に何の関心もなく、誰か適当な看護師に良

ければ持って帰れよ、と声をかけるつもりでいたが機会を逸した。

 ゴミ箱に棄ててやろうかと思ったが、マンションの部屋に持って帰ろ

うと思い手にしていた。

 ところが、橋本にとって何の変哲もないその花瓶が、橋本の将来を

大きく左右する働きをするのである。


 最近橋本は、夜の行動に都合よい様に自動車通勤ではなく地下鉄

で通勤していた。

 橋本は、地下鉄で東梅田まで行き、地上に出る為混雑している人ご

みの中を誰にぶつかることなく歩いていた。

 ところが、一人の女性が橋本にぶつかり、橋本は手にしていた袋を

落としてしまった。

 誰の耳にも、中身が壊れたと分かる音がした。

 相手の女性は、慌てて駆け寄りしゃがみこみ

 『ごめんなさい』と言いながら袋に手を触れている。

 悪いのは相手の女性だ。何故なら、何を急いでいるのか女性は雑踏

の中を小走りに駆けてきたからだ。


 橋本にとって何の価値も無いものだから、

 あーあー、良いですよ、どこかゴミ箱にでも棄ててくださいと、口に

出しかけたが、相手の女性の顔を目にして言葉を口にするのを止めた。


    あっ、この女は?俺は、この女を誰であるか知っているが、この

女は俺のことを知らないのだ。

 それにしても、とんでもないものが、向こうからこっちに有利な条件で

転がり込んできたな。よし、変更だ。


 橋本は、そのようなことを考えながら

 『大変なことをしてしまったわ』と口にしながら、困惑した表情で見上

げる村瀬倫子の顔を見下ろした。