○2023年9月6日から12日まで、「寧波・杭州・蘇州・台北旅」と題して、寧波・杭州・蘇州・台北を旅して来た。それぞれに思い入れがあって臨んだ旅だった。寧波萹、杭州萹に引き続き、今回は、「蘇州篇」と題したい。
○前回の杭州萹で案内したように、中国には「上有天堂、下有苏杭。」のことわざがある。つまり、蘇州と杭州が地上の楽園だと言う認識である。それ程、蘇州や杭州は温暖で、豊かで、人が生活しやすいと言うことなのだろう。
○また、寧波萹で述べたように、当古代文化研究所は、これまで、寧波に八回訪問しているし、杭州も五回目だった。それに対して、蘇州は三回目の訪問と、少ない。それは日本との関係で、どうしても、寧波や杭州の方が、日本人の出入りが多かった関係に拠る。
○もっとも、現在は、蘇州が圧倒的に日本人には人気がある。それは上海から近いことも関係しているのではないか。ただ、上海人は越人で蘇州が呉人の町であることを認識している人は、日本人では少ないのではないか。
○そういう感覚は、現地で、現地の人に学ぶしかない。宗教にしたところで、同様である。観音信仰は、基本、越人のものである。もっとも、呉越同舟ではないが、越人と呉人との関係は、良かれ悪しかれ、随分と深いものがある。
○それに対して、呉人には楚人との関係性は深い。と言うか、呉と楚とは、随分近く、親しい関係性がある。嘗て、杜甫が「登岳陽楼」で、
登岳陽楼
杜甫
昔聞洞庭湖 昔聞く 洞庭の水
今上岳陽楼 今上る 岳陽楼
呉楚東南圻 呉楚 東南に圻け
乾坤日夜浮 乾坤 日夜 浮かぶ
と詠じているように、呉人と楚人とは、洞庭湖や長江を挟んで、隣人として付き合いも長い。
○今回、蘇州を訪れた最大の目的は、司馬遷の「伍子胥列伝」にあった。司馬遷の「史記」巻六十六『伍子胥列伝第六』が載せる、
而抉吾眼懸呉東門之上。以観越寇之入滅呉也。
が気になって仕方が無かった。伍子胥が眼を抉って掛けるとすれば、「東門」ではなくて、「西門」か、「南門」だろうと思った。
○それで、蘇州まで、そのことを確認するために出掛けたわけである。伍子胥は「史記」を代表する英雄の一人である。伍子胥のファンは多い。何しろ、「史記」をものした司馬遷自身が伍子胥の大ファンなのである。
○そういうことは、司馬遷の「史記」を読むと、よく判る。「史記」巻六十六『伍子胥列伝第六』の最後は、太史公曰で締めくくられているのだが、その文が、何とも凄い。
太史公曰
怨毒之於人甚矣哉王者
尚不能行之於臣下況同
列乎向令伍子胥従奢倶
死何異螻蟻棄小義雪大
恥名垂於後世悲夫方子
胥窘於江上道乞食志豈
嘗須臾忘郢邪故隠忍就
功名非烈丈夫孰能致此
哉白公如不自立為君者
其功謀亦不可勝道者哉
○この文が、どれだけ凄いか、お判りだろうか。司馬遷は、この文章をちょうど百字でものしている。数えやすいように、上記のように表現してみた。普通に表現すれば、つぎのようになる。
怨毒之於人、甚矣哉。王者尚不能行之於臣下。況同列乎。
向令伍子胥従奢倶死、何異螻蟻。棄小義雪大恥。名垂於後世。
悲夫。方子胥窘於江上、道乞食。志豈嘗須臾忘郢邪。
故隠忍就功名。非烈丈夫。孰能致此哉。
白公如不自立為君者、其功謀亦不可勝道者哉。
○読んで、司馬遷の興奮を感じない人はいない。司馬遷は物凄く興奮して、この文を綴っていることが判る。そういうのが司馬遷の「史記」を読む楽しみである。
○司馬遷は、この百字の中に、「感嘆・抑揚・使役・反語・対句・感嘆・反語・感嘆・反語・仮定・感嘆」と十一個もの句法を羅列してみせる。こんなでたらめで、むちゃくちゃな文章など、それこそ空前絶後に近い。それ程、司馬遷は興奮している。
○私たちは、この司馬遷の「史記」を通じて、伍子胥を理解している。伍子胥の人生もまた、波乱万丈なものだが、それを記録する「史記」の文章も凄い。読者は伍子胥の生涯に興奮し、司馬遷の文章に興奮させられる。
○こんな文章を見せられて、興奮しない人は居ない。誰もが興奮して、伍子胥に憧れ、司馬遷に憧れる。当古代文化研究所も、興奮のあまり、遥々、蘇州まで出掛け、伍子胥が近くに住んだと言う胥門まで出掛けて来た。
○結果、次のブログをものしている。
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ブログ『白居易:見殷堯藩侍御憶江南詩三十首詩中多敘蘇杭勝事余嘗典二郡因繼和之』
白居易:見殷堯藩侍御憶江南詩三十首詩中多敘蘇杭勝事余嘗典二郡因繼和之 | 古代文化研究所 (ameblo.jp)
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楊萬里:泊船百花洲登姑蘇台・其一 | 古代文化研究所 (ameblo.jp)
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楊萬里:泊船百花洲登姑蘇台・其二 | 古代文化研究所 (ameblo.jp)
・テーマ「寧波・杭州・蘇州・台北旅」:ブログ『李白:蘇台覧古』