NHK「よるドラ」から出された宿題 


「ここは今から倫理です」という題名のドラマが、1月から3月にわたって放映された。(NHK・土曜11:30「よるドラ」枠。主演・山田裕貴。原作・雨瀬シオリ「ここは今から倫理です」集英社コミック)

高校で「倫理」を教える教師・高柳を主人公としたドラマである。主演の山田裕貴の演技を観てみたかったこと、それから高校・倫理など珍しい分野を扱うドラマはどんなだろうという興味を覚えたこと、この2つの興味から観た。見逃しもあって、原作のコミックも買ってみた。

一応、私も高校「倫理」教員免許を持っていて、そうなる可能性はあった身だから尚のこと関心を持った。しかるに、原作コミックもドラマも、現代に生きる若者の様々な生態を真正面から取り上げていて、いろいろ考えさせられた。「リストカット」「性」「不登校・居場所」「孤独・孤立」「SNS・グループチャット」「いじめ」「薬物・受け子」「緘黙」「万引き」「親子の関係」等々がその都度のテーマとなっていて、たくさん宿題を出されたような感覚だ。その中のいくつかを、順に取り上げてみる。

さて、「倫理」は、選択授業になっている。高柳は、授業開始にあたってこう言う。
『倫理は、学ばなくても将来、困ることはほぼ無い学問です。……数学のような汎用性も、英語のような実用性もありません。この授業で得た知識が役に立つ仕事はほぼ無い。この知識がよく役に立つ場面があるとすれば、死が近づいた時とか、……信じられるものがなくなった時、〝宗教とは何か〟〝よりよい生き方を考える〟〝いのちとは何か〟……』

……要は、実利・実用ではないが、自らの内側から問い直したり、立て直したりする時の〝手がかり〟になり得る。そして、それは「いつか・どこか」でなく、すぐ足下にある。現代に生きる若者・高校生が抱える諸問題の中に……。このドラマ・コミックは、そういう仕立てになっている。


〔性被害と自死念慮〕……八木まりあの場合
高柳の「倫理」を選択受講する生徒の中に、八木まりあ・酒井美由紀という二人の女子生徒がいる。美由紀は頭が良く、気位が高い。まりあは、明るい性格で、ノリが軽い。美由紀は、まりあなど相手にしたくないのだが、まりあは意に介さずつきまとっていた。

ある日、まりあは授業中ぐったりしている。いつものように、美由紀の方を見向きもしない。美由紀は「なんだ、こいつ。学校に寝に来たのか」と思う。今日は、うるさく絡んで来ないからいいだろう。授業の後、美由紀は高柳を廊下で呼びとめて言う。「先生の、私たちを見下ろすような態度、不快です。あと、今日のヘラクレイトスとプラトンの関係性の部分、分かり辛かったわ。」

と、その時、校舎屋上の縁(へり)に立ち、今にも身投げしそうな八木まりあの姿をみて、高柳はダッシュする。何が起きたのか。遅れて酒井美由紀も行く。
「は……?」「何で急に飛び降りるの?」「あんた、私よりずっと幸せそうだったじゃん」「彼氏いるんでしょ。死ぬ理由ないじゃん」

まりあが屋上の縁に立っている理由が解る。その「彼氏」たちにレイプされたのだ。彼氏の大学のサークルに誘われ、付き合ってきた。心地よかった。楽しかった。でも、昨夜の合コンまでが彼らの裏の目的だった。(こういうサークル事件報道が実際にあった。)まりあは、疑いもせず、軽く付いていってしまった自分を苛(さいな)んで余りある状態にいる。

美由紀「バカじゃないの!? そっそんなの・・死ぬ事に・・命の重さに比べたらちっちゃい事じゃないか!?」

すると、高柳。「違います!!」「恋に破れても・・家族が死んでも いじめられても 就職に失敗しても 仕事がイヤでも お金がなくても 人生が退屈でも!!」「それがどんな理由でも 命に換わる程、重い絶望になるんです!!」「あの網の向こうに行く為に、どれほどの覚悟が必要な事か・・・」

結果的にまりあは(網の向こうから)戻る。まりあと美由紀の絆は深まる。
ただし、私には〔何か〕が残る。高柳の「違います!!」以下の言葉は、(画面上では)美由紀に向かって発せられている。まりあを向かずに、だ。この〔何か〕は何だろうか。ま、悪いものでないことは確かだが……。

最後に、高柳は屋上で「倫理」を口述する。『〝なんといっても、最上の証明は経験だ〟(フランシス・ベーコン)』「たくさん勉強して・・色んな知識を得て・・たくさん遊んで色んな経験をすることです。そうすれば貴がた方の視野はもっと広がる事でしょう。」
まりあ・美由紀「・・先生の話ぃ、いっつも難しい~!」「ありがとね」

ははぁ~ん、倫理ねぇ……。「ここは今から倫理です」・・面白い!! 
(順次、つづく)