ひきこもり 「意味の転換」
Mさんにとって、これまで兄の存在が重荷だったし、負い目だったし、恥だった。最終的に兄を背負うのは、自分だろうと直感した。
「付き合った女性からも何回か『お兄さん、どうするの?』と言われました。独立したら、自分で家族を持ちたいというのもありました」
独立してからは、金で解決しようと思っていた。かつて利用者を死なせて刑事事件になった自立支援団体に相談したこともある。
「これまで兄に問題があると思っていましたが、“意味の転換”をしたことによって、『兄に問題はない』『その外側に問題がある』と考えられるように変わったのです」
以来、Mさんは、近所の住民と仲良くできるようになった。近所に情報を共有することによって、間野さん自身、後ろめたい気持ちが消え、実家に帰りやすくなったという。
その3ヵ月後、父は亡くなった。兄と話せるようになったのはそれがきっかけだった。突然、実家の母から電話があり「お兄ちゃんに代わるね」と言われた。兄は開口一番「お父さんが死んだ」と話した。兄との30年ぶりの会話だった。父が死んだことよりも、兄がしゃべっていることのほうが驚いた。葬儀場の控室で、たくさんの話をした。その後も声をかけると、反応してくれるようになった。
『80-50問題』とは、地域で家族全体が孤立している状態を指す。
Mさんは、孤立しないように地域で情報を公開。離れて暮らしていても、高齢の母親だけでなく引きこもる兄の情報も、サポートしているデイサービスセンターから2週間に1度、入って来るようになった。
「みんな知ってて気にしない状況をつくりたいのと、僕が生きてるうちに、兄が身内以外の第三者と話ができるようになってくれたらいいなと思います」
(DIAMOND ONLINEより ジャーナリスト 池上正樹)
