必要に応じてひきこもることが大切である 
 
 
 アイヒマンを片方の鏡として、私たちが考えなければならないことがあります。また、もう一方ではその人生をかけて考え続けたハンナ・アーレントから学びたいことがあります。
 
 「人間が思考の内部にいるときには、〈一者のなかの二者〉という状態において、自分がもう一人の自分と対話しているのである。」とアーレントは言います。
 
 言われてみると、たしかにそうです。ちょっとした小さなことでも、気になることや、どうしたらいいか迷う時は、今やっていることがおろそかになったり、手を休めたりして考えます。答えが出ていない状態は、〈一者のなかの二者〉で自問自答中ということです。それが、考える(思考する)ことでしょう。
 
 小さなことでもそうですから、大きな問題にぶつかったり悩んだりする時は尚更です。アーレントが「現象の世界から退きこもることだけは、唯一必要なのである」というのはそのことでしょう。何かを「する」ことからひきこもり、しばし上の空になるのです。
 
 アイヒマンは、命令にしたがっただけだ、それが自分の役目だった、いろいろあるけれどそれに尽きると言ったのです。ナチス将校だった時も、潜伏中も、裁判で裁かれている時も、目の前の役目からひきこもることなく一貫していました。芯から官僚で、俗物でした。
 
  アーレントの言葉から学ぶことは何でしょうか。それは、私たちは必要に応じてひきこもり、心ゆくまで考えることが大切だということです。 
   
 
    (了・鮮)