築地探訪記 ② 芸術的循環 
 
 
 築地場内市場の中はどうなっているか。そりゃぁ、もう魚だらけ。ありとあらゆる魚類がいる。頭から尻尾までキンキンに赤いやつ、ギラっと銀腹を見せて横たわってるやつ、ヌボーと水槽のガラスに張り付いてるやつ、サラシのような白い布(紙?)にくるまれてる大物・・・。
 
 背の曲がったエビが同じ向きで並べられ、その下の段では反対向き、と続く。これ、アートじゃない? 蛸のタマゴって、表示がなければわからない。クリーム色のプリンが並んでいるかと。鮭の切り身? スーパーなどにある厚さの倍くらい。ノルウェー産や北海道産。
 
 「こんなに種類があるんだ」と感動する。冷凍されたのもいるが、水のなかで生きてるのもいる。水ってのは、海水みたい。ホースから垂れ流しだ。その垂れ流し水は、場内市場に敷きつめられた石畳を経てどこかへ消えていく。
 
 その石畳は、築地が開設されて以来のものらしい。ところどころ石が欠けていて、小さな水たまりになっている。そこを、築地のお兄さん(小父さん?)がターレット(運搬車)を運転して行き過ぎる。
 当然、石畳だからターレット車はカタカタもしくはガタガタ音を立てる。歩行者は、たいがい後ろから来るその音に気づいて車を除ける。中には、私のようなトーシローが見学に気を取られて気づかないことがある。
 
 ちょうど私の目と鼻の先に外国人があるいていて、車に気がつかないでいた。ターレットのお兄さんは、その外国人のすぐ左肩を軽く叩いて通り過ぎていった。外国人は、「ソーリィー」というような口の動きをしたようだった。
 
 ことさらに、「どけどけっ」などと力まない。築地場内市場は、ターレットや小車が血液の毛細血管のように絶えず循環している。相当な循環量で、相当な速さで。それでいて、血栓もできず、動脈瘤破裂も起きない。芸術的とも思える、見上げた血管循環になっているのだ。