小さな積み重ねのなかに大事なものが 
 
 
 映画「万引き家族」がカンヌ映画祭最高賞を受賞したことを受けて、文部科学大臣が「祝意」を表したところ、是枝裕和監督は「ご辞退する」と言われたそうです。
 
 この是枝監督の発言の真意は何でしょう。監督の考え方を拾い集めてみると、次のようなことになると私なりに整理してみました。
 
●国があって人びとがいるのでなく、人びとがいて国がある。しかし、およそ権力ははんたいの考え方をする。
●だから、自分は権力から距離を置きたい。
●家族や人びとの関わりの、小さな積み重ねのなかに大事なことがある。
●私たちは、その大事なことを大事にしていく力を持っている。
●これからも、そういう映画をつくっていきたい。
 
 
 血のつながらない「疑似家族」なんだけれど、「家族ある」に胡座(あぐら)をかかず、「家族なる」ことができる。それは、誰かから指図されるものでなく、私たちが本来、持っているものだ……と。
 
 映画のなかで信代(安藤サクラ)と、じゅり(佐々木みゆ)とがお風呂に入る場面があります。じゅりは、実の親からアイロンを押し当てられていたことを初めて口にします。信代の腕にも、アイロンのヤケドの痕があります。(クリーニング店の仕事でできた痕)
 
 じゅりは、何度も信代のヤケドの痕を指でさそる。信代は、言う。『お前のことが好きだから叩くとかっていうの、ウソだからね』『好きならね、こうするの』と、じゅりの頬に自分の頬をギュッとくっつける。じゅりの口元が、やわらかく弛んでくる。
 
 こういう場面って、(映画で)観ている私たちも、自分のからだのなかの血の流れ方や細胞のつくりが密かに変わる感じがしますから、ほんとの当人たちはもっとだと思います。
 
 その、「ほんとの当人たち」は、私たちのことです。互いにかかわりあっている者同士が、からだのなかの血や細胞をいい感じにしていく。そういう積み重ねは、この世で生き合う宝だと思います。(鮮)