予定調和でない。観客に投げ返される。 
 
 
 東京・目黒区の5歳女児(船戸結愛ちゃん)虐待死事件がメディアに取り上げられている時期の前後に、是枝裕和監督の映画『万引き家族』がカンヌ映画祭にて最高賞を受賞したこと、それから、是枝監督が文部科学大臣の「祝意」を辞退したこと、そして映画が全国的に上映されはじめたこと、それらが重なりました。
 
 映画では、万引きを成功させた治(リリー・フランキー)・祥太(城桧吏・子役)親子が帰り道に、寒いベランダに放置されている5歳女児(じゅり・佐々木みゆ)を見つけ、ふっと、(ひと晩くらい)というつもりで連れて帰るのです。(祥太は、もう以前から女児がよくベランダに放置されていることに気づいていて、この日も祥太が足を止めたことから治の連れ帰りにつながっている)
 
 この、父親の治は、だいたいが「いい加減」なのです。
「ひと晩くらい泊めてやりゃいいじゃねえか。今連れて行ったって、家ん中にはいれるかどうかわかんないしよぉ」

 
 「ひと晩くらい」という思いつき的な考えだったわけで、治が何か先行きの見通しや責任を持って考えているわけではない。妻の信代(安藤サクラ)は、そのあたりのことがわかっていて、治を促して女児を返しに行く。
 
 女児を返しに行くときの、二人の会話。
「(玄関チャイムを)ピンポンするの?」(信代)
「いや……玄関の前にそっとさ……」(治)
「それじゃ、(この寒さだから)死んじゃうでしょ」(信代)
「じゃあ、……そっと置いてピンポンして逃げるか」(治)
「サンタクロースかよ」(信代)

 
 治の計画性・責任性の無さは、ここでもよくわかります。
 するとそのとき、女児のアパートらしき部屋から何かガラスの割れる音がする……
「てめーがちゃんと見てねーからだろうがぁ」(男の声)
「そこで遊んでたんだって、さっきまで」(女の声)
「男、引っ張り込んでたんじゃねーのか」(男の声)
(治と信代は、思わず顔を見合わせて立ち止まる)
「あのガキだって、誰の子かわかったもんじゃねーしな」(男の声)
(男が女を殴る音が響く)
「私だって産みたくて産んだんじゃないわよ」(女の声)
 
 
「返してやるもんか」
 治は、「今ならバレなさそうだ」と言って女児を信代から受け取り、アパートへ向かおうとする。しかし、今度は信代がそれを拒むようにして女児を抱きかかえたまま、しゃがみこんでしまう。「返してやるもんか」というように。
 
 こうして、今度は信代主導で連れ帰ります。女児(5歳、じゅり)も、ここ(この家族)にいると言います。実の両親は、女児がいなくなったことを「祖父母の元にいる」などと隠して、後で問題が大きくなります。
 
 ここまで、虐待されている5歳女児がこの家族と暮らしはじめるきっかけを追ってきたのは、ほかでもありません。虐待に対して、特段に「正義」を介入させたようなことでない。治で言えば「思いつき」で、信代で言えば自分が過去に受けた「仕打ち」(お前なんか産みたくて産んだんじゃない)への憎しみです。けれども、それらはやっぱり、この家族の体温・体臭を表している。そう、思います。
 
  物語も、予定調和的に大団円となって、「めでたし」で終わらない。さまざまな問題が、観ている観客の側にポンっと投げ返されてくるのです。(鮮)