常連の、「4番さん」の嗚咽 
 
 
 亜紀(松岡茉優)は、「本当の家族」のなかでは外国に留学中ということになっていて、「万引き家族(疑似家族)」においては信代(安藤サクラ)の腹違いの妹ということになっています。そして、「JK見学店」でアルバイトをしています。
 
 「JK見学店」は、個室のガラス越しに女の子が女子(J)高生(K)に扮して、セーラー服を一枚脱ぐ毎に料金を頂く、別の個室に移動して会話したりすれば別料金、タッチなどすればまた加算される仕組みの風俗店です。(私が実体験したのでなく、映画を観ているとそうらしいことがわかります。念のため。)
 
 「4番さん」という、名前もわからない常連さんが、亜紀のもとに通って来ていました。ガラス越しの「4番さん」と会話するのは、ホワイトボードの文字だけ。
 
 ある時、亜紀は思うところがあって「4番さん」を個室に誘い、男の体を膝枕で受けながら何かと話しかけてみる。(亜紀は、タイマーをセットする。5分で2000円になる。)年齢は20代後半だろうか。ずうっと黙って、亜紀のとりとめのない話を聞いている。
 
 「ここは直接しゃべってもいい場所ですよ」 亜紀はそう言って身を乗り出したとき、男の手が傷だらけで血がにじんでいることに気づく。 「どうしたの?ここ」 男は、手を動かして「殴った」という仕草をする。 「何を?」 男は自分を指す。亜紀は、男の手を自分の手のひらで包むようにして言う。 「痛いね……これ痛いよね」
 
 そのとき、タイマーが時間の終わりを告げる。
 
 亜紀の白い太ももに男の涙の跡が残っていて、男は申し訳なさそうに上着の袖で拭こうとする。亜紀は、「(気にしなくて)いいよ」と遮りながら、男に体を預けながら背中にまわした腕に力をこめる。
 
 男は、何か言おうとするが言葉にはならない。 「あ・・・あ・・・」
 
 亜紀は、「うん……あったかいね」と応えて、また強く男を抱きしめる・・・・・。
 
 
・・・「4番さん」の男を演じているのは、若手の俳優・池松壮亮(いけまつ・そうすけ)です。役名なし、セリフなし、ガラス越しの姿か後ろ姿か、嗚咽かという登場の仕方ですが、とても重要で印象的な役どころです。
 
  この場面は、説明するような場面じゃぁありません。感じる場面です。機会がありましたら、映画「万引き家族」を観て「4番さん」の「あ・・・あ・・・」と、亜紀の気持ちを感じていただけるといいですね。(鮮)