きっとこれから自分の自尊心と戦うことになる 
 
 
当事者E(20代・女性):それでは質問します。私も小学4年生から不登校をしておりまして、小さいころより父から「学校へ行けないなら働くか、死ね」などと言われて育ってきました。その後、働ける年齢になりましたが、いざ働いてみても長続きしません。いろんな職種も試してみました。かりんとう屋さんとか、SMクラブの女王様とか……。
 
リリー:ちょっと待て! かりんとう屋さんと女王様のあいだには、もっとたくさんの降りるべき駅があるというか、ふり幅がでかくて話が入ってこない(笑)。
 
当事者E:ああ、すみません。職種に深い理由はなく、いろいろと試した結果、ダメだったという話です。そのなかで一番感じているのは、仕事が続けられない自分はどう考えてもひきこもりなのに、その自分が受け入れられない、ということです。リリーさんもひきこもっていたと聞きましたが、どんな状況だったのでしょうか?
 
リリー:オレの場合は大学を出てからなにもしていない時期が5年ぐらいありました。一人暮らしなのに働いてないから金がなくて、電気もガスも止められて、食うものもあまりなかったです。月に1回ぐらいはバイトをしていましたが、あとの生活費は親や友だちから借りて、最後はサラ金にも手を出していました。
ふつうに考えたら働けばいいんだけど、その気力がまるでないんです。バイトへ行こうと思っただけで3日間ぐらい徹夜をした気分にすらなってしまう。そうなるとバイトへ行くどころではなく外へ出る気力さえなくなっていました。
 
当事者E:どうして、そこまで気力を失ってしまったのでしょうか?
 
リリー:なんでかな……。昔から気力もガッツもまるでなかったけど、たぶん自由になったからかな。親元を離れて自由になった瞬間にタガが外れてしまったような気がします。
 
当事者E:やっぱり自分を受け入れられなかったり、罪悪感に苛まれたりしましたか?
 
リリー:「オレは完全に人間のクズだな」と思いながら暮らしていました。ただ、そういう罪悪感に苛まれる時間を長く続けると、どんどん「無痛」の状態になっていくんです。罪悪感だけでなく、そのほかの感情もほとんど湧き上がらない日々です。あまりに精神状態の危機が続いたため、自分の感覚を守るために感覚自体をカットしてしまったのかな、といまでは思っています。
 そういうなかで、昔付き合っていた女性と会ったんです。あまりに金がなくて食べられない日が続き、なんとか昔の彼女から飯をおごってもらおうと思ったからです。
 彼女は何も知らずに家に来てくれましたが、電気もガスも止められたオレの家に来て、すぐに状況を察して、弁当を買って来てくれました。しかも最後の別れ際は金まで渡してくれてね。オレ、そのときのことはいまでも鮮明に覚えています。オレが着ていたのが黄色いチェックのシャツ。その胸ポケットに彼女が2000円を入れてくれました。そのとき、オレは心底「ラッキー!」って思った。
 情けないとかみっともないとか、そんな感情はまったくなかったです。自尊心の下にある美意識みたいなものすら壊れていたんです。いま思い出してもゾッとするし、あのころだけには戻りたくないです。
当事者E:なんかひきこもっている自分が怖くなってきました。
 
リリー:大丈夫、なんとかなります。みなさんが不登校をしたり、ひきこもったり、生きづらかったりするのは、きっと自尊心が強いからです。オレもそうでした。自尊心が強くて感受性が強くてロマンチックだから学校や会社に絶望したんです。それは鈍感でいるよりもずっといいことです。日本にもいろんな人種がいるし、他人からは想像されづらい状況の人もたくさんいます。そういうことを知らず、人の痛みもわからない人間になるよりはずっといいことです。
 でも、きっとこれから自分の強い自尊心と戦うことになるはずです。観念ではなく具体的な出来事によって突き動かされように外へ出ていくはずです。なので、いまはムリをして焦る時期じゃありません。大丈夫、みなさんはまじめだからきっとなんとなるはずです。
 
一同:ありがとうございました。