ターザンはフジツルに乗って 
 
 昭和30年代。子どもの遊び場は、野にも山にもあった。竹藪があれば、かっこうの竹を結んで「隠れ家」を作った。お茶の木があれば、身を隠して「敵」を迎え撃つ場所になった。土手があれば、空を飛ぶスーパーマンの出撃場所となった。
 
 それから、ちょっとした林には樹に巻き付くフジツルが垂れていて、ぶら下がって遊ぶのが何とも面白かった。頃合いの太さで、できるだけ長いツルがあれば尚更だった。大きく体重移動できるし、スリル満点になるからだ。私たちはフジツルにぶらさがりながら「ターザンごっこ」をした。
 
 ある時、川の大きな淵に垂れ下がるフジツルを見つけて遊んだ。と言っても、遊んだのはTちゃんたちで、私は怖くて尻込みした。川に大きな淵があるのは、そこで川の流れが山にぶつかっているためで、そのために淵はたいがい崖とセットになっている。つまり、崖の下に淵があることが多い。フジツルは、崖上の樹に巻き付いていた。
 
 Tちゃんたちは、フジツルにぶら下がって「アーアァー」とターザンの雄叫びを発していた。崖上から垂れ下がっているツルだから、その揺れ加減はとても大きい。蒼い大淵をまたぎ、河原の岩を越え、此岸から彼岸へ、また彼岸から此岸へ。素晴らしきターザンの勇姿が登場する。
 
 私の脳裏には、羨ましさと同時に怖れがあった。その怖れとは、「もし、ツルが切れたら・・・」ということだ。あの高さと速度でツルが切れたら、そして落ちた場所が川でなく岩の上だったら・・・。
 
 結果的に何事もなかったのだが、Tちゃんはとことん冒険的であった。『昭和のガキ大将』であった。
 
 さて、『昭和のガキ大将』Tちゃんのことを記憶をたぐり寄せて書いてみました。凍った川でのスケート遊び、水門潜り遊び、フジツルに乗ってターザン遊び、さまざまな野遊びのうちの3つを代表的なものとして挙げてみました。
 
 こうして並べてみると、Tちゃんが凍った川に落ちて「九死に一生を得た」のを忘れているのは至極もっともなことだと思います。『危ない』遊びも、済めばケロッとして記憶から消えていったのだろうと思います。(つづく)