ぎんがぎがのススキの野原 
 秋です。ずっしりと重い実りを抱えて、単子葉植物、イネ科の草たちがが野山を謳歌しています。
 
 ススキ(カヤ)は、穂先を綴じたり開いたりして秋の風を待っています。風に運ばれる花粉をキャッチしたり、育てた実を風に乗せて運ぶためです。
 
 宮沢賢治の童話「鹿踊りのはじまり」のなかで、秋の風とススキが登場します。
 
 『そのとき西のぎらぎらのちぢれた雲のあひだから、夕陽は赤くななめに苔の野原に注ぎ、すすきはみんな白い火のようにゆれて光りました。わたしが疲れてそこに睡りますと、ざあざあ吹いていた風がだんだん人のことばにきこえ、やがてそれは、いま北上の山の方や、野原に行はれてゐた鹿踊りのほんたうの精神を語りました。』
 
 ススキが、「白い火のようにゆれて光る」・・・素敵な描写です。
 
 「ざあざあ吹いていた風がだんだん人のことばにきこえ」・・・自然のまっただ中でからだをゆったり休めている気分を、ものの見事に表しています。
 
 その後、鹿たちの踊りがはじまり、賢治はススキが立つ景色を「ぎんがぎが」と鹿たちに言わせています。
 
 ススキの群れを前にして、「ぎんがぎが・ぎんがぎが」と唱えると、太古の昔、自分も野のなかで生きていた記憶が甦ってくるような気がするのです。