潮風がいつのまにか



建物のペンキを剥がし
色褪せさせるのか



さびれた小屋のような建物が



ぽつぽつといくつかあって



ロブスター漁のための傷だらけの浮きや
錆びたトラップが



小屋の横に無造作に放り出されている



いつもひとりで聴く



際限なく繰り返す波の音



漆黒の夜の海を見つめながら






天井から降り注ぐ優しい恵みの光



ステンドグラスが作る



透明で儚い光の絵画



オルガンの低く割れるような



重厚な音にあわせて



高い天井に響いてゆく賛美歌



祈る横顔にやどる柔らかな喜び



泉の水のように清らかな気持ちで



願うのは穏やかな暮らしだけ


木の机に誰かが掘った落書き



でこぼこした跡を



よく指でなぞっていた その感触とか



午後の授業で



古い窓枠からさした光の筋が



机の上の教科書のある一行だけを



照らし出していたシーンとか…



どうでもいい場面ほどよく覚えている



長くてまぶしい夏のはじまりの予感に



理由もなくひたすらわくわくして



心踊らせていたあのころ






ねえ、昼になると



あんなにも暑くなるのに



早朝の砂浜は



こんなにも砂がひんやりしている



今日はどんな一日になるのかしら…






照り返しが眩しくて目を細める



何気なく曲がったのは
いつもよりふたつ前の門



はじめての道 突如出くわす
砂糖菓子のような白壁の建物



裏路地にこんなお店、あったかしら…



甘い香りで
幼いころの記憶の粒が小さくはじける



綺麗におめかししたお菓子たちが
今にも踊り出しそうに並ぶこの様子



むかしお気に入りだった絵本に



淡い水彩で描かれていた
美しいお菓子たち…



ふっとそのページを思い出す



丘のはるかむこう
七色の虹かかる雲の上



そこにはおとぎの国があって



たしか雲に砂糖をまぜて
職人が夢のようなお菓子を作るの



3時を知らせる時計の音を合図に
お菓子たちのパーティが始まる



そんな子供のころのような想像に
思わず胸を踊らせて



暑い夏 … 溶けそうに暑い日の
溶けそうな砂糖菓子たちの淡き夢