次の日、俺は百合姉のカフェで一服していた。
客が俺だけになった時、百合姉と希さんが出てくる。
「あれ、百合姉と希さん。中でいろいろしないんですか?」
「中でいろいろ……そんなもの、とっくにしてるわよ」
百合姉が希さんをちょんとつついた時、希さんは何かに怯えたように震え上がった。
また何かやったんですか。
「将のメイドさんになるなら、どんなお願いも聞けるようにならないとね?」
「どんなお願いって……何を教えたんだよ」
「希、やってみなさい」
こく、こくとうなずいた希さんは、俺の方を向くともじもじしながら言う。
「ご、ご主人様……その……」
「なんですか?」
希さんが俺の前に立ち、俺の肩を両手で軽くつかんだ。
何をされるかと思っていると、希さんの唇が自分のに重なる。……えぇ!?
「むぐっ、もごもご」
「んーっ」
「希も上手じゃない」
数秒くらいキスをした後、希さんは手を震わせながら抱き着いてきた。
エプロン姿の希さんには愛理姉のような可愛さはないが、代わりに俺を優しく包み込んでくれる包容力みたいなものがある。あ、でも立場は下の方なのか。
「何か命令してみたら?」
「うーん……じゃあ、そばにいて」
「ふぇっ!?」
口に出した後、俺はなんと恥ずかしいことを言ったのだと後悔してしまった。希さんは身体をびくんとした後、俺の向かいの席に座る。か、かわいい。
「将もそういうことを言えるようになったのね」
「ち、違う、これは……」
「希と楽しく過ごしてなさい? 家できちんと可愛がってあげるから」
そう言って百合姉は店の奥の方へ行ってしまった。向かいでは希さんが縮こまっている。
空気が、空気がきまずい。何か話して場をつながなければ……
いろいろ困っている様子の俺を見て、百合姉は何か微笑んでいた。