<さよなら、アドルフ(Lore・豪/独・2012)>★★★☆

 

タイトルの”アドルフ”は勿論、アドルフ・ヒトラーのことで、ヒトラーに関連づければ客を呼べるのか、この映画も原題はヒロインの少女の名前です。ただ、全くヒトラーと無関係ではなく、父親はナチス親衛隊の将校で、敗戦直前に家族を置き去りにして逃亡してしまい、ナチ狩りを恐れて一家も逃亡することになりますが、母親も4人の子供を置き去りにして姿を消してしまうというとんでもない両親の家庭ですから、あながち見当外れでもありません。少女は父親に洗脳されて、ヒトラー総統を神の如くあがめていましたが、逃避行の過程でホロコーストの現実を知って、”落ちた偶像”に愕然とします。珍しく、オーストラリアとドイツの合作映画です。

 

>1945年春。連合軍はベルリン近郊に迫り、敗戦の色が濃くなります。ナチス親衛隊(SS)の高官だった父ユルゲン・ドレッサーは戦犯として逮捕されることを予期して、書類を焼き払い、家族を放り出して何処かへ逃走してしまいます。母も14歳の長女ローレに900km離れたハンブルクの祖母オミの家へ行くように言い残して、列車の切符とあり金とアクセサリーを渡して姿を消してしまいます。ローレは幼い双子の兄弟と生後間もない幼児を抱えて途方にくれます。とりあえず、近所の農家にお金を払って同居しますが、弟ノギュンターが空腹のあまり盗み食いをしたことから追い出されてしまいます。ローレはハンブルク行きを決意し、遠い列車駅まで弟たちを連れて歩きだします。しかし、途中で連合軍兵士に尋問されていると、トーマスと名乗る青年がユダヤ人IDを見せて妹と弟たちであると告げて一緒に歩み続けます。

避難所と化した学校の校舎の壁で、ナチスのユダヤ人虐殺の写真を見てローレは愕然とし、大切に持っていた軍服姿の父の写真を土の中に埋めます。森を抜けると、ソ連軍占領地域と鐡道駅のあるイギリス軍占領地域の境界にたどり着きますが、ソ連兵は彼らの通過を拒否します。トーマスが交渉中にギュンターが走り出し、何者かに射殺されてしまいます。一行はなんとか列車に乗り込みますが、検閲官が巡回してきて、トーマスはIDカードを入れた財布がないことに気づき、列車から飛び降りて逃亡します。その財布は、トーマスが逃げないようにユルゲンが盗んでいて、ローレがそれを見ると、全く他人のものであったことを知ります。4人の兄妹はようやく祖母オミの家に辿りつきます。食事になり、ユルゲンが衝動的にパンをつかむのを見て、祖母が叱りつけます。ローレは飢えていた子供を理解しない祖母の権威主義に腹を立て、パンをつかんで齧り、ミルクのコップを押し倒します。祖母が彼女を部屋から追い出すと、自室に戻って置物の磁器を床に投げ捨てて踏みつぶします。

 

ナチスの高官が子供の足にしても鐡道駅まで何日もかかるような僻地に住んでいたり、母親が乳飲み子を含む愛する子供を捨ててまで家を出られるのか、トーマスと自称する青年がなぜローレ一行と一緒にまとわりつくのか、祖母の家でローレが食事のことで、なぜ狂乱するのか等々、判らず仕舞いの点が多々ありました。また、ローレの心の動揺を表現したかったのか、ぶれる手持ちカメラでの撮影の多用も目障りでした。原作小説があるようですが、ただ、敗戦時のドイツ人を描いた映画は多いですが、ナチスの家族という視点からの作品は珍しいと思いました。ローレとトーマスがあわやという際どいシーンも2か所あるのは、自然の流れとしてあり得るとは思いますが、全体として脚本と演出の不備を感じました。