<ジョジョ・ラビット (Jojo Rabbit・米・2019)> ★★★☆

 

第二次世界大戦中、時代の波に呑まれて、ヒトラーこそ唯一の心の友だと思い込んでしまった孤独な10歳のドイツ人少年のジョジョが主人公となっています。童話のようですが、ユダヤ人問題や反政府運動への弾圧など深刻な問題が彼の人生にも覆いかかって来ます。

 

>父親が出征中で母のロージーと暮らすジョジョには同い年のヨーキー以外に仲良しの友人はおらず、彼の心の中にいて他人には見えない心の友アドルフ・ヒトラーだけが救いでした。時節柄、愛国少年団に入隊しますが、ウサギを殺すことを命じられますが可哀そうで出来ず逃げ出したので、仲間たちから”ジョジョ・ラビット“とからかわれてしまいます。ある日、母のロージーが屋根裏にユダヤ人の少女を匿っているのを発見して衝撃を受けます。ユダヤ人は危険で悪い人間だと聞いて恐れますが、彼女の名エルザ、病死したジョジョの姉インゲの親友と知り、母親にも内緒で密かに語り合うようになります。彼は婚約者のネイサンから彼女へのラブレターを偽造までして、アドルフに彼の愛国心の低下を叱られます。ある日、母が外出中に、ゲシュタポが調査にやってきますが、エルザがインゲになりすましてごまかします。母のロージーはナチズムに対するレジスタンスの一員で、密かに町中に反ナチスのメッセージを配っていましたが、逮捕され広場で絞首刑にされて晒されます。エルザは彼を慰め、ジョジョの行方不明の父親が海外からヒトラーに反対して活動していることを語ります。ジョジョのナチズムに対する畏敬の念は、政権の非人道性を目の当たりにし急速に変化しますが、母がいなくなって、街のゴミ箱から2人のために食べ物を探し出すようになります。ドイツの敗北が決定的になり、ヒトラーは自殺、連合軍は彼の住む街にも侵攻してきます。市民も防衛に駆り出され、ヨーキーもその中にいました。町の大半は廃墟と化しますが、幸い、ジョジョの家は難を免れます。ナチスの敗北でエルザが自分のもとを去ることを恐れたジョジョは、ドイツが戦争に勝ったと告げ、彼女を愛していると言いますが、彼女は彼を兄弟として愛していると言います。起こったアドルフはジョジョにつかみかかりますが、ジョジョは彼を窓から放りだしてしまいます。窓から町を見たエルザは、連合軍兵士を見て真実に気づき、嘘をついたジョジョの顔を平手打ちしますが、その後すぐに満面の笑みで二人は踊り始めます。

 

アドルフはナチズムに洗脳されてしまったジョジョの心の中を象徴しています。そして、事あるごとに表れてジョジョの心を揺さぶります。しかし、ユダヤ人への迫害や母の処刑からジョジョは次第に疑問を持つようになり、最後には窓から放りだしてしまいます。その意味で、この映画は、一人の少年の成長の記録でもあります。タイカ・ワイティティという妙な名前の監督が劇中でアドルフを演じていることをエンド・クレジットで知りました。

 

始めの方で、お出かけするジョジョの靴紐がほどけているのを、スカーレット・ヨハンソンが演じる母親が優しく結んでやるシーンが何気なく出ます。終盤で、絞首刑に晒されている母親の靴紐をジョジョが泣きながら結び直すシーンの伏線となっていて、母子の深い愛情とそれを引き裂く戦争という非情さを際立てていました。ただ、ゲシュタポの突然の捜索をエルザが姉に化けてごまかすエピソードは、ちょっと甘すぎると思いました。