<真実の瞬間(トキ)・Guilty by Suspiciou・1991)> ★★★★☆

 

 

第二次大戦終了後、ソ連の勢力拡大に危惧したアメリカで、急速に共産主義への恐怖が広まりました。その先鋒を担ったのが、共和党の上院議員のジョセフ・マッカーシーでした。その“赤狩り旋風の矛先はハリウッドにも及び、映画監督、脚本家や映画俳優などの中で人生のある時期に共産党と関連があったとして挙げられた人物は同産業で働くことを拒否され、思想信条差別の一大事件ともなりました。<市民ケーン>のオーソン・ウェルズ、喜劇王チャールズ・チャップリン、黒人霊歌の名手ポール・ロブスン などもその中に含まれていました。この映画は、そうした旋風に翻弄された架空の映画監督を主人公として描いています。

 

>1951年、映画監督デヴィッド・メリルは、20世紀フォックスの社長ダリル・F・ザナックから呼び出され、パリから戻って来ます。ハリウッドでも赤狩り旋風が吹き荒れていて、連邦議会下院の下院非米活動委員会が彼を召喚しようとしていると告げらます。誰かが彼が共産主義者であると密告したためでした。社長から紹介された弁護士は、デヴィッドが疑いを晴らすために誰かを密告するように助言しますが、彼はそれを断ったために、デヴィッド自身が疑いの標的にされ、予定されていた作品の監督から外され、ハリウッドから事実上追放されてしまいます。デヴィッドは妻のルースや息子のポーリーにも被害が及ばないように家族とも離れて一人でニューヨークに赴きますが、どこに行ってもFBIに尾行されます。最初は彼を歓迎してくれた友人夫婦も、彼がFBIに尾行されていると知ると、態度を一変します。アメリカの芸能関係者は、みんな赤狩りに巻き込まれることを恐れていました。デヴィッドは遂にある決意を秘めて、ワシントンに赴き証言台に立ちます・・・・・

 

世界の民主主義の盟主を標榜するアメリカ合衆国でも、つい7~80年前には、共産主義の撹拌を恐れるあまり、政府が全面に出て思想の自由を弾圧していた事実を赤裸々に描いた作品でした。映画の最後に、「赤狩りで追放され、デヴィッド・メリルを含めて名誉も地位も仕事も奪われた多くの人々が社会復帰できたのは、1970年代になってからのことだった。」と紹介されますが、“失われた20年”は生涯、戻ることは鳴ったと思います。主人公を演じるロバート・デ・二―ロの抑えた演技がラストで一気に爆発する対比も見事でした。その激しいシーンが、赤狩りの残酷さを際立たせていました。

 

共産主義に関与していると思われる知り合いの名前を言わなければ通告する、密告すればそれで済むという恐怖から、自分可愛さに友人を売って自分を守るという人間の弱さが描かれた佳作でした。ただ、”瞬間”を”時”と読ませる邦題よりも、原題の”疑惑により有罪”の方が内容に適していると思いました。