<西部戦線異状なし(All Quiet On The Western Front・米・1930)> ★★★★☆

 

 

ドイツの小説家エーリヒ・レマルクの原作に基づき、1930年制作の第一次世界大戦におけるヨーロッパ西部戦線(フランス)にいて、ドイツ軍の志願兵パウル・ボイメルを中心とする若者たちが直面した死への不安、恐怖、怒り、虚脱感などを群像劇的に描いたモノクロ映画のデジタル・リマスター版です。激しい肉弾戦の間に、厳しい新兵訓練、束の間の休息、野戦病院の出来事、敵国女性との出会いなどのエピソードが挿入されます。

 

>第一次世界大戦の最中、ドイツのある町の学校で老教師が生徒達に愛国主義を吹き込んで軍隊志願を勧めてします。教え子たちは次々に志願に名乗り出るので、内心は反対のパウルも渋々志願します。入隊した中隊の新兵指揮官は、なんと予備役軍曹だった町の郵便配達夫でした。苛酷な彼の訓練の後、若者等は戦場へ送り出されます。激しい戦闘で、旧友たちは相次いで戦死したり、重傷を負って送り返されて行き、次第に減って行きます。ある時には通りかかった岸辺でフランス人娘達と束の間の交遊をします。ある戦闘で、パウルは自分のいる塹壕に飛び込んで来たフランス兵を刺殺し、一夜を共に過ごします。戦闘が続き、パウルも負傷して、保養のため故郷の町に戻ると、老教師は相変わらず教室で教え子達に愛国心を吹き込んでおり、老人たちはビールを飲みながら無責任な戦争論を闘かわしているのに嫌気が差し、老母と姉を残して再び戦場へ戻ります。パウルは部隊の仲間とも再会しますが、その最中、彼の話し相手は敵弾に命を落としてしまいます。パウル自身も塹壕で待機中、飛んで来た蝶を捕らようとした所を敵弾に当たり、死んでしまいます。しかし、その日の司令部への報告は、彼の死などには関係なく「西部戦線異状なし、報告すべき件なし」でした。

 

敗戦国ドイツの作家の作品だけに、声高に叫んではいませんが、戦争への嫌悪感が明確に出ていました。銃後での無責任な愛国心の鼓舞に踊らされて、学業を中断して戦闘に参加した若者たちが見たのは、愛国心や忠誠心とはかけ離れ、尊い命がボロ切れのように使い捨てられていく現実でした。

 

戦争という理不尽な環境の中で、若者たちの人間性が次第に崩れて行く様子が、少ないセリフの中で生々しく描かれていました。それが、パウルが自分が殺した敵兵の死体と向き合いながらつぶやくシーンではもっとも顕著でした。この映画が制作された直後から、ドイツではヒトラーの率いるナチスが台頭して、ユダヤ系の原作者レマルクも非国民として迫害を受け、国外亡命を強いられることになったのは十分理解出来ました。

 

ただ、エピソードごとの切れめが唐突で、必ずしも時系列的ではないので、見ていてちょっと戸惑うところもありました。