<秋刀魚の味(日・1962)> ★★★★

 

 

 

元日に名監督の遺作を見るのも変ですが、先日、NHK-BSでデジタル修復版が<東京物語>と共に相次いで放映されたのを録画しておいて見ました。小津安二郎監督の作品で、娘を嫁がせた父親の「老い」と「孤独」というテーマが描かれています。娘二人が結婚しても出て行かず、私達と相変わらず一緒に住んでいるので、身につまされるということはありませんでしたが、しっとりと落ち着いて見られました。小津作品の常連である笠智衆演じる父親と中村伸郎、北竜二の演じる友人たちとの応酬が珍しくコメディ・タッチで笑わされました。

 

>大きな企業の秘書付きの役員をしている平山周平(笠智衆)は、妻を亡くして、年頃の長女の路子(岩下志麻)、次男の和夫との三人暮らしですが、中学以来の友人である河合(中村伸郎)が路子の縁談話を持って来ますが、家事の心配もあって気が進みません。しかし、クラス会に呼んだ元恩師で今はラーメン屋を営んでいるあだ名を“瓢箪”という佐久間(東野英治郎)を自宅に送って行き、婚期を逃した彼の娘(杉村春子)と二人のわびしいでわびしく暮らしているのを見て、路子の結婚について考えを改めます。路子に結婚のことを持ち出すと、不機嫌にかわされますが、やがて彼女が密かに想っている人がいることを知ります。相手は長男の幸一(佐田啓二)の会社の部下でした。周平に頼まれた幸一は彼に探りを入れると、彼には既に恋人がいることが判りました。 話を聞いてがっかりした路子は河合の話を受け入れて見合いをし、結婚します。結婚式を終えて帰宅した夜、周平は暗い台所の椅子に寂しく座りこみます。

 

タイトルにある”秋刀魚の味“は、そのはらわたのほろ苦さから、人生における老齢のほろ苦さを言っているのだと思いますが、この作品を監督した翌年、小津監督は亡くなったそうですが、それが60歳だったと知って、その老成ぶりに驚ききました。今なら、未だ老齢年金を貰えない働き盛りの年齢です。当時は定年が60歳でしたから、その年齢に近づく50歳台後半になると、老いを感じるのは当然かも知れませんが、中学教師転じてラーメン屋のおやじとなった佐久間の姿には老醜さえ感じさせられました。何度も出て来る旧友との酒の場面での会話は、今なら70~80歳台の男たちの会話でした。片思いに敗れて見合い結婚に踏み切る路子もまたほろ苦い結婚で、うまく行くかどうか心配になりました。

 

今は満年齢が普通で数え歳の習慣は殆ど無くなりましたが、この映画の制作された当時の正月にこの映画を見たら、老いの寂しさをひしひしと感じたかも知れません。