<ジャスト6.5   闘いの証(Metri Shesh Va Nim・イラン・2019)> ★★★★☆

 

 

イランの最高権力者ホメイニ師は、欧米に向かって偉そうな事を言っていますが、肝心の国内では麻薬とそれに伴う犯罪が多発していて、コーランの力でも抑えきれないようです。この映画は、イラン警察と麻薬組織の果てしない戦いをリアルに描いていて見ごたえがありました。

 

>テヘラン警察の麻薬撲滅チームの主任サマドは、麻薬組織を牛耳る大物ナセルを捕らえるために、末端の売人を片端から捕らえて強引な手法で自白を迫って、組織の網をたぐっています。空港では、鋭い直観で麻薬の運び手を発見して検挙します。広大な廃材置き場を根城にたむろする麻薬常習者たちを一斉検挙し、留置場にすし詰めにして、彼らが思わず吐く弱音から捜査を進めます。狙いをつけた容疑者の関係者であれば、女子供でも容赦しません。サマドたちの強引で粘り強い捜査活動の末に、遂にナセルのアジトに踏み込みますが、彼は自殺を図っていて、病院へ急送して命を取り留めます。回復して留置場に入れられたナセルは、サマドに巨額の賄賂を提示して罪を逃れようとしますが、サマドは受け付けません。又、逮捕時に所有していたら麻薬の一部をサマドが横領したという虚偽の告白でサマドを陥れようと量りますが成功しません。裁判が始まり、ナセルが麻薬稼業に手を染めたのは、ひとえに家族に豊かな生活をさせたかったからだと告白します。彼が逮捕されたことで、カナダに留学させていた2人の娘は強制送還され、ナセルは嗚咽します。

裁判の結果、ナセルと主要な売人、運び屋に死刑の宣告が下され、夜の留置場で全員揃っての絞首刑が執行されます。一段落して、サドルは後輩のハミドに後を託して去って行きますが、去り際に「これだけ頑張ってナセルのような悪党を捕らえて。麻薬根絶にと止めて来ても、かつて100万人だった麻薬患者は今は6.5倍にも増えてしまった。」と慨嘆しますが、このセリフが英題、邦題の“Just 6.5”となっています。

 

 日本だったら、人権蹂躙として訴えられるでしょうが、イランでは警察の常套手段なのか、容疑者を心身ともに追い込むための手段として、狭い留置場に逮捕者を文字通り立錐の余地もなく詰め込むシーンが再三登場します。また、売人の幼い息子でも手錠をかけて、親の行状を告白させます。

 

登場人物は留置場がぎっしり埋まるほど大勢ですが、サドルとナセルの息詰まる攻防が主題です。当然、サドルは法の番人、ナセルは違法の麻薬組織のボスですが、人間的には、サドルは冷徹で正義のためには人権無視も厭わない冷酷な人間、ナセルは悪事を働いているものの、家族や子分たちには優しく、そのために手下もなかなか彼に関する情報を白状しない人間として、単純に法律を守る善人と麻薬を取り仕切る悪人と分けていないところに好感が持てました。