<ノマドランド (Nomadland・米・2020)> ★★★★★

 

 

コロナ感染予防でずっと自粛していて、以後、初めて映画館で見た作品として印象に残っていますが、CATVの映画チャンネルで放映されて再度見ました。タイトルは“ノマドの土地”、ノマドとは本来は“遊牧民“のことですが、今では”放浪者“を意味することが多いようです。アメリカでは、リーマンショックに端を発した経済危機で、家を持たず、車を家代わりにして各地を転々として生活している人が大勢いるようで、彼らを”ノマド“と呼ぶようですが、「ホームレスか?」と聞かれて「違う、ハウスレスだ」と答えていて、彼らなりのプライドを持っているようです。

 

>夫が勤めていたネバダ州エンパイアの石膏工場も閉鎖され、社員は社宅から追い出されてしまいます。ここで長年働いていた夫を癌で亡くした62歳のファーンもその一人で、家財道具を売り払って中古のキャンピングカーを買って車上生活をはじめ、各地で臨時雇いの掃除婦や皿洗いのアルバイトをしながら移動しているうちに、彼女と同じような生活をしている様々な”ノマド“達と交流するようになります。彼らは奇妙な連帯意識があり、あちこちの”ノマドランド“に集まっては情報交換や物々交換をします。ノマドの一人で同年輩のデヴィッドは密かに彼女に好意を寄せていますが、彼女は無視します。ある時、彼女の車が故障し、修理に2500ドルが必要となり、結婚して子供も出来て平穏な暮らしをしている妹に金を借りに行きます。妹は金を渡しながら定住を勧めますが、ノマド生活に慣れたファーンは窮屈さを感じて早々に立ち去ります。デヴィッドは孫の世話をするため、ノマド生活を切り上げて息子の家で暮らすために去って行きます。ファーンは相変わらずの車上生活を続けていますが、たまたまデヴィッドの住む町を通り、彼の家を訪ねます。デヴィッドは愛を告白して一緒に住もうと言いますが、翌日早朝、ファーンはそっと去って行きます。

 

この映画のように車上生活で放浪を続けている現代の遊牧民ともいえる“ノマド”がアメリカには大勢いて、一種のコミュニティさえ形成しており、そういう人たちを気安く臨時雇用する風土もあるようです。この映画でも。主人公はまずAMAZONの出荷センターで働き、映画の終幕では再び同社で働きます。AMAZONではそういう人たち専用の駐車場さえ用意してあります。こんなことは広いアメリカだからこそ可能で、日本だったら車を留める場所さえないし、雇ってもくれないでしょう。大勢のノマドが登場しますが、ヒロイン以外の彼らはすべて本物のノマドだそうで、エンド・クレジットでは実名で紹介されています。それだけに、ここに描かれた彼らの生活は本物なのだと思いますが、零落したという陰湿さはなく、むしろ現在の自由奔放な生活を享受さえしているように見えました。アメリカでも不況のあおりで家を失い、家族と離散する人が増え、社会格差が広がっているようですが、この映画はそうした不合理な社会問題を批判しているわけではなく、一種の憧れさえ感じられました。

 

主演のフランシス・マクドーマンドという女優の名前は知りませんでしたが、これまでにアカデミー賞、エミー賞、トニー賞を受賞して演劇の三冠王を達成した演技派女優だそうですが、正に好演でした。大きな事件もなく淡々とした内容ですが、再度見ても全く飽きを感じさせない佳作でした。