<籠の中の乙女 (Kynodontas。Dogteeth・ギリシャ・2009)> ★★

 

 

珍しいギリシャの映画ですが、ファンタジーともホラーともつかない不思議な作品でした。原題は“犬歯”という意味のようですが、子供が犬歯が抜けるまで親が絶対管理して、外出もさせず、学校にも行かせず、純粋培養するというあり得ない家庭を描いています。

 

>ギリシャの郊外にある広い庭とプールのある豪邸で、厳格な父と従順な妻と、ティーンエイジャーの息子と姉妹の3人が暮らしています。父親は毎朝、車で経営する会社に出かけますが、3人の子供たち(名前もありません)には「外は危険で危ないところ」と教え込んで完全に世間から隔離されて、犬歯が抜けるまでは学校に行かせないどころか外出さえさせません。子供たちも従順で、親に反抗することもしません。息子が思春期を迎え、父親は若い女性(彼女だけはクリスティーナと言う名前がついています)を雇って彼に性の実地教育をさせますが、息子は彼女から外の世界を聞いて興味を抱きます。更に、長女は彼女からポルノビデオを貰って隠れて見ているのを見つかって、父親から激しい折檻を受けます。父親はクリスティーナを解雇し、他人を外部から招くことを避けて、息子と妹の相姦を許します。深夜、長女はバーベルで自らの頬を叩いて犬歯を落とし、家を出ようと父の車のトランクに忍び込みます。翌朝、長女の不在に気付いた父は邸内を探し回りますが見つからず、車で会社へ出かけます。会社前に駐車した車のトランクはどうしたことか開かれず、長女の命運は観客に委ねられます。

 

純粋培養とは言え、それぞれの子供に名前すらつけず、教育も受けさせず、本も読ませず、質問に対して「海とは革張りのソファーのこと」とか「高速道路とは強い風のこと」なんて嘘を教えるあたりはまだしも、外の世界には人肉を好む猫と言う巨大な化け物がいて、それを防ぐには犬のように四つん這いになって吠えまくることだと練習をさせたり、年頃の息子の性欲処理に外から女性を連れて来たのがケチのつけ始めで、それに気付いた父親は兄妹の近親相姦や互いの体の舐めっこを黙認するに至っては、ブラック・ユーモアを通り過ぎてグロテスクで不快感が先行してしまい、珍しいギリシャ映画でなければ止めてしまうところでした。一定の倫理観や規制の常識を持ちながらこの映画を見ることは間違いかも知れませんが、それでも私は最後まで嫌悪感を拭いきれませんでした。新年早々に嫌な映画をみてしまいました。

 

先日見たイタリア映画<ライフ・イズ・ビュティフル>もこの映画も、我が子を守るために親が嘘をつくと言う点では共通していますが、前者の嘘の方がまだ救いがありました。