<ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命〜The Zookeeper's Wife ・チェコ//米・2017)> ★★★☆

 

 

実話に基づいて、ナチス占領下300人ものユダヤ人の命を救ったポーランドのワルシャワ動物園の園長夫妻の勇気ある行動を描いた作品です。タイトルからは妻のアントニーナが主人公となっていて、夫はどちらかというと脇役ですが、夫のヤン・ジャビンスキは本来は動物学者ですが、第二次世界大戦の直前から戦中までワルシャワ動物園の園長として勤めていて、ワルシャワ蜂起に参加した時に負傷し捕虜となりましたが、ドイツの敗走で復職しています。冒頭に、ワルシャワをドイツ軍が占拠して動物園も接収しますが、戦争に不要且つ危険なものとして象やライオンなどを次々と射殺するシーンがあります。日本でも、戦時中に餌不足と空襲による脱走の場合の危険性を理由に、猛獣類を中心に餓死処分していますが、人間同士の争いに巻き込まれた動物たちは哀れです。

>ヤン&アントニーナ夫妻が管理者となっている動物園をナチス・ドイツ軍が物資置き場として占拠し、飼育していた動物を次々に射殺しますが、夫妻は小動物を保護する以外に何の抵抗も出来ません。ドイツ軍は市内のユダヤ人を「ゲットー(強制居住区)」と称される狭い区域に監禁して行動の自由を奪います。動物園にナチスの将校ヘックが訪れて貴重な動物のドイツへの移管を指示します。ヘックも動物学者でヤンとは旧知の間で、ヤンは彼を信じて指定された動物を引き渡しますが、ドイツ軍は残った動物たちを次々に射殺してしまいます。ユダヤ人の危機を知った夫妻は動物園の地下倉庫を利用して、ユダヤ人を匿うことを決意します。ヤンはヘックに動物園の設備を養豚場として、餌はゲットーから出る生ごみを利用し、肉はドイツ軍に提供することを提案して受け入れられ、ドイツ軍本部とゲットーへの自由な出入りも認められます。ヤンはゲットーからトラックで生ごみを運び出す都度、ユダヤ人をその下に隠して脱出させて、動物園の地下室に隠蔽し、一方で反ナチズムの同志から非ユダヤ人としての偽造身分証を提供されてワルシャワから脱出させます。ヘックは管理を口実に頻繁に動物園に訪ねて来ますが、実はアントニーナに好意を寄せています。彼女は適当にあしらっていますが、夫のヤンは不快感をあらわにします。ヘックが、動物園にユダヤ人が隠れているとの情報を得て捜索に来ることを知ったヤンは、トラックに残っていたユダヤ人を乗せて急遽市外へ脱出させて事なきを得ます。東部戦線で勝利したソ連軍がワルシャワに迫って来てドイツ軍が浮足だったのを見て、愛国者が蜂起して市街戦が始まります。ヤンも参加しますが、負傷して倒れているところをドイツ軍に捕まってしまいます。アントニーナは夫の所在を探るためにヘックを訪ねますが、ヘックは交換条件として彼女に情交を迫り、彼女は逃げ出します。ドイツ軍がワルシャワから撤退、間もなく降伏して戦火が収まります。アントニーナはかつての使用人を呼び寄せて、荒廃した動物園の再開を始めますが、そこへ行方不明だったヤンが戻って来ます。

映画では、ヤンは割合易々とユダヤ人をゲットーから連れ出していますが、現実には命を賭けての行動でもっと緊迫感があったと思います。又、2人の女性が脱出後に街中のアパートに住み込んで発覚して射殺されるシーンはありますが、偽身分証明書を使ってユダヤ人がドイツ軍の厳しい検査を潜り抜けて脱出するスリリングなシーンがなく、映画は専らジャビンスキ夫妻に絞られていてヒューマン・ドラマ的色彩が強く、サスペンス性に乏しかったように感じました。

ヒロインを演じるジェシカ・チャスティンと言う女性は知性と勇気を備えた女性として適役でしたが、ヤンを演じたヨハン・ヘルデンベルクという男優は、ヤン自身もそうだっだのかも知れませんが労働者風で学者らしく見えませんでした。ヘックを演じたのはダニエル・ブリュールは知性と教養を兼ね備えながら次第に権勢の座に溺れて行く醜さをうまく表現していたと思います。