<イル・ポスティーノ(Il Postino・伊/仏・1994)> ★★★★

 

 

 

パブロ・ネルーダは南米チリの詩人・政治家で、1934年に外交官としてスペインに赴任しますが、スペイン内戦を目の当たりにして共産主義に共感し、人民戦線とスペイン共和国を支援し、帰国後、共産党員として上院議員に当選します。しかし、1948年にビデラ政権によって共産党が非合法化されたためイタリアに亡命し、2年後、情勢が変わって帰国します。この映画はネルーダのイタリア亡命時代を題材にした作品ですが、多分にフィクションが含まれていると思います。フランスの俳優フィリップ・ノワレが軽妙に演じています。

 

原題は「郵便配達人」ですが、主人公は毎日のように世界中からネルーダに宛てて来る郵便物を届けるだけのために雇われた主人公が、彼との交流を通じて詩や政治に目覚めてゆくという内容です。

 

 >南イタリアの小さな島に住むマリオは、漁師の父親から一緒に働こうと言われていますが、文字が読めることから郵便配達人(ポスティーノ)になります。届け先はチリから共産主義者として追及されて亡命してきた詩人パブロ・ネルーダの家だけで、やがてパブロと心を通わせて交流することで文学や芸術に目覚めて行きます。そのマリオが酒場で働くベアトリーチェと恋仲となり、パブロの協力で結婚に漕ぎつけます。白い砂浜の海岸でのマリオとパブロの会話は、文学や芸術からやがて政治問題にも広がり、マリオは共産主義に傾倒してゆきます。やがて、チリ政府は共産党の合法化を決めてパブロの逮捕状も撤回され、パブロは家や所蔵品の管理をマリオに頼んで島を去って行きますが、その後、パブロがソ連を訪問したとかノーベル文学賞を受賞したというニュースが流れ、パブロの秘書から所蔵品の送付の依頼が来ただけで、パブロからは何の音沙汰も来ず、マリオを失望させます。5年後、パブロが再び島にやって来ますが、マリオの姿は見当たりません。相変わらず酒場で働いているベアトリーチェを訪ねると、マリオは共産主義活動のデモでに参加して命を落としていた事を知って愕然とします。パブロはマリオとよく話し合った海岸に足を運んで、マリオとの思い出に浸ります。

 

スペイン語が母国語のパブロがおそらく南部訛りの激しいイタリア語しか知らないマリオと当初から会話が弾んでいるのはちょっと不自然さを感じましたが、パブロを演じたフィリップ・ノワレの洒脱な演技がそれを補って余りありました。しかし、相手役のマリオを演じた俳優が妙に中年男っぽく、純朴な島の青年らしさに欠けているのが残念でミスキャストとしか思えませんでした。

 

世界的な有名詩人と小さな島の素朴な若者が、わけへだてなく時にはピントの外れた会話をしながら、詩や人生について語り合う中盤は楽しめましたが、その間でマリオが共産主義に傾倒して行く経過が選挙で島の有力者の協力要請に盾つくシーン以外は殆ど描かれず、マリオが共産主義運動に身を投じて、警察との軋轢の中で死んでしまうラストがいささか唐突の感がありました。

 

幾つかの欠点も目につきましたが、全体としてはイタリア映画らしい情緒に満ちた作品でした。