<サーミの血(Samieblod・スウェーデン・2016> ★★★★

 

 

宣伝チラシによると、「1930年代のスウェーデンの美しい自然を舞台に、人種差別にさいなまれて一度は民族としてのアイデンティティを失ったサーミ人の少女の半生を描き、2016年東京国際映画祭で審査委員特別賞と最優秀女優賞をダブル受賞した」そうですが、受賞の有無に関わらずぜひ見たい内容の映画でした。

 

“サーミ人”は、“エスキモー”が今では“イヌイット”と言われているように、かつては蔑称である“ラップ人”と呼ばれていて、スカンディナヴィア半島のラップランド地方で独自の言語や習慣を持っていて、今は定住が増えていますが、かつてはトナカイの遊牧をしていた先住民族です。被征服少数民族の常として、20世紀中ごろまでは劣等民族として差別を受けていたそうです。その偏見は恐らく現代でも根強く残っていると思います。

 

1930年代、スウェーデン北部のラップランドで暮らす先住遊牧民族のサーミ人は、差別的な扱いを受けていた。サーミ語を禁じられた寄宿学校に通う少女エレ・マリャは成績も良く進学を望んだが、教師は「あなたたちの脳は文明に適応できない」と告げる。そんなある日、エレはスウェーデン人のふりをして忍び込んだ夏祭りで都会的な少年ニクラスと出会い恋に落ちる。トナカイを飼いテントで暮らす生活から何とか抜け出したいと思っていたエレは、彼を頼って街に出たが・・・・(公式サイト)

 

エレ・マリャには故郷で両親と共に残った妹がいましたが、亡くなったという知らせを受けて久しぶりに息子の運転する車で故郷に戻って来ます。しかし、故郷を捨てた彼女に村人の視線は冷たく、葬儀からも抜け出して一人回想に耽ることから、若き日の苦難の物語が始まります。彼女はスウェーデン人を装ってニクラスの住む大都市ウプスラに行き、学校にも通い始めますが月謝が払えず、借金を頼んだニクラスの両親に素性を見抜かれて追い出されてしまいます。

 

後年のエレ・マリャには息子がいるのでの、ニクラスとの束の間の生活で出来た子供なのか、その後、誰かと結婚して出来た子供なのか説明はなく、又、その後、彼女がどんな困難に直面しながら人生を歩んで年齢を重ねたのかも一切描かれておらず、観客の想像に委ねられているのは余韻があるというよりも、その後の彼女の苦難に満ちた半生をあいまいなものしてしまったように思いました。

 

若干の突っ込みどころはありますが、少数民族とか人種差別という深刻なテーマを取り上げ、それに反発しながらも強者の立場に憧れ、自己のアイデンティティに疑問を抱き、それを忘れようとあがきながら、心の隅では抜けきれないというジレンマに満ちた一人の女性の半生を描いていて心を打たれました。

 

チラシに載っていた、自らもサーミの血を引くという女性監督が「多くのサーミ人が、何もかも捨ててスウェーデン人になったが、私は彼らが本当の人生を送ることが出来たのだろうかと、常々疑問に思っていました。この映画は、故郷を離れた者、留まった者への愛情を少女エレ・マリャの観点から描いた物語です。」と言うコメントが紹介されていましたが、正にその通りの作品でした。

 

ラップランドの雄大な風景や、中世の趣の残る古都ウプスラのたたずまいも印象的でした。